執筆:窪田真之

今日のポイント

●4-6月期決算発表と同時に、通期(2018年3月期)の業績見通しを上方修正する企業が増加。3月決算841社の今期純利益(会社予想)は、前期比10.5%増。

●自動車・電機(半導体関連や設備投資関連)に上方修正が多い。自動車の上方修正は円安効果が大半で、株式市場で評価されにくい。

業績予想の上方修正が増える

 4-6月期(2018年3月期の第1四半期)決算の発表がほぼ出揃いました。決算発表と同時に通期(2018年3月期)の業績予想を引き上げる企業が増えました。


 8月15日時点で今期業績の会社予想を集計したものが、以下の表です。

東証一部上場 3月決算 主要841社の業績(前期比増減率)推移

出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

 前期(2017年3月期)の純利益(会社予想)は期初(5月時点)では9.8%増益と見込まれていました。ただし、円高の進行によって、下方修正が増え、中間決算の発表が終わった12月時点では、4.2%増益と予想増益率が縮小しました。ところが、第3四半期(10-12月期)の決算発表では、一転して業績予想を引き上げる企業が増え、最終的に12.3%増益となりました。

 今期(2018年3月期)は、まだ第1四半期(4-6月期)が終わったばかりですが、4-5月に出したばかりの通期見通しを修正する企業が多いのは、異例と言えます。日本企業は、利益予想を慎重(低め)に、利益予想の上方修正は遅めに出す傾向が強いのですが、今回、第1四半期の決算発表時点で、早めに通期見通しの上方修正を出してきています。それだけ、足元の利益モメンタム(勢い)が強いと言えます。

 円安が進行したことが、利益予想の主要な修正要因となっていますが、それだけではありません。米国や中国の景気が好調であること、内外で設備投資が回復してきていることも追い風となっています。

上方修正額ランキング 1-25位

それでは、どのような企業が第1四半期の決算発表時に、通期予想を上方修正したか、具体的に見ていきます。まず、上方修正額が大きい、上位25社を挙げます。

東証一部上場 3月決算 主要841社のうち、今期連結純利益(会社予想)の上方修正額の上位1-25位

 出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

 


 上方修正は、輸送用機械(自動車)と電機(半導体関連・設備投資関連など)に多いことがわかります。


 修正額トップのトヨタ自動車は、今期純利益の予想を、前期比18%減の1兆5,000億円から、同4%減の1兆7,500億円に修正しました。修正幅は2,500億円と大きいのですが、発表後に株価はあまり上昇していません。これには2つの理由があります。


●上方修正要因のほとんどが「円安」
 業績予想の前提を、円安方向(1ドル105円から110円に、1ユーロ115円から124円)に見直した効果で、営業利益で2,200億円の上方修正要因となりました。今回、トヨタは営業利益と純利益の予想をともに2,500億円上方修正しましたが、大半が円安効果です。


●北米の利益が大きく減少している
 4-6月期の所在地別セグメント情報を見ると、日本や欧州が前年同期比で増益している一方、北米の利益が大きく減少しています。前年同期に1,654億円あった利益が、888億円まで減っています。北米で自動車販売が減少、なかでも日本の自動車メーカーが得意とする乗用車が不振の影響を受けています。


 トヨタのみならず、自動車が全体の利益見通し増額の主因となっています。ところが、自動車産業は、円安効果で利益見通しが改善しているものの、北米不振という不安を抱えた中では、株式市場では評価されにくくなっています。


上方修正額ランキング 26-50位

 それでは、続いて、26-50位を見ていきましょう。


東証一部上場 3月決算 主要841社のうち、今期連結純利益(会社予想)の上方修正額の上位26-50位

 出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

 26-50位でも、自動車・電機・機械などの景気敏感株が目立ちます。ここから、株価がさらに上がるためには、今の利益がピークではなく、来期以降も、増益が見込まれるようになる必要があります。

 次に、第1四半期決算発表のとき、通期見通しを下方修正した会社を見ます。今回は、下方修正はほとんどありませんでしたが、5社挙げると、以下の通りです。


東証一部上場 3月決算 主要841社のうち、今期連結純利益(会社予想)の下方修正を発表した5社、下方修正額が大きい5社

出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

 ヤマトHDは、人手不足で宅急便のサービスを縮小するとともに、料金引き上げを画策しています。また、宅急便ドライバーの過酷な労働実態が明らかになったことから、サービス残業の撲滅、残業時間縮小といった働き方改革を進めています。


 今期は、料金引き上げの効果が出るのが遅れる中、引き続き、人件費および働き方改革を進めるコストが増えたため、利益見通しを下方修正することとなりました。