上場株式をはじめとした金融資産は、相続税対策に向かないというのはよく知られた話です。でも、ちょっと角度を変えてみると、個人投資家であれば「隠れ財産」が見つかるかもしれません。その正体とは?

 

なぜ上場株式を持つことが相続税対策にならないのか

相続税対策といって真っ先に思いつくのは、不動産を用いたものでしょう。キャッシュを1億円持っていれば、1億円としてまるまる相続税の課税財産となります。でも、そのキャッシュを使って土地を買い、アパートを建てて賃貸すれば、物件の場所や価格にもよりますが、課税財産の額を半分以下に圧縮することができます。

 一方、上場株式をはじめとした金融資産は、原則として時価による課税です。1億円の上場株式を保有していれば1億円として評価されます。厳密には、時価と比べて過去3カ月の月平均の株価のほうが低ければ、そちらで評価できるので多少は低くなりますが、基本は1億円の時価なら1億円での評価です。

 

相続で取得した上場株式の取得費は?

 では、上場株式を相続した場合、何も税務上の恩恵を受けることができないのでしょうか?確かに、相続税を減らすという観点からは難しいですが、少し視点を変えてみると、所得税・住民税を減らすということは可能かもしれません。

 実は、相続により上場株式を取得した場合、その取得費は、亡くなった方(被相続人)のものを引き継ぐという規定になっています。

 ですから、亡くなった方から相続で取得した上場株式の時価が300万円であっても、取得費が50万円であれば、相続人の取得費は300万円ではなく50万円となるのです。

 そのため、この上場株式を相続後に売却すると、相続税とは別に、(300万円-50万円)×20.315%=およそ50万円の所得税・住民税がかかることになります。

 

株式投資をしている個人投資家だからこそ
意味のある「隠れ財産」とは?

 その逆に、亡くなった方から相続で取得した上場株式の時価が300万円、亡くなった方の取得費が500万円だったとしたらどうでしょうか?

 バブル時期からずっと株を持ち続けていて、塩漬け状態になっていることはよく見かけますから、こんなケースも結構多いと思います。

 この株を時価300万円で売った場合、取得費が500万円ですから、損をして売ることになります。したがって、売却しても所得税・住民税はかかりません。

 もし相続人が自身で株式投資をしない人だったら、おそらくこれで終わりです。「売却したときに税金がかからずに済んでよかった」、という感想でしょう。

 でも、私たち個人投資家からしてみればどうでしょうか。何かメリットを感じませんでしょうか?

 

含み損を「有効活用」

 時価300万円、取得費500万円の株を300万円で売却すれば、「税金がかからない」だけではありません。300万円-500万円=200万円のマイナスです。このマイナスを、有効活用できる可能性があると思いませんか?

 普段から株式の売買をしている個人投資家であれば、自身の売買により株式投資で利益が生じた場合、利益に対して20.315%の税金がかかります。一方、損失が生じた場合は、利益と相殺することができますから、その分税金が安くなります。

 もしご自身の株式投資の売買によって300万円の利益が生じたなら約60万円の税金がかかりますが、そこに200万円の損失が生じれば、かかる税金は(300万円-200万円)×20.315%=約20万円となります。同じ年であれば、300万円の利益と200万円の損失は相殺できますから、この結果40万円の税額を減らすことができます。

 

株式投資をしていない相続人にとってはまったくの無価値

 もし、これが株式投資をまったくしていない相続人だったらどうでしょうか?被相続人の取得費500万円、時価300万円の上場株式を売却すると、キャッシュ300万円が手元に入ると同時に、譲渡損失200万円が発生します。

 しかし、株式投資をまったくしていない相続人にとっては、この譲渡損失200万円に価値は見い出せません。譲渡損失は、上場株式などの譲渡や配当により得た所得と相殺することで、はじめて税軽減のメリットが生じるからです。

 このように、同じ上場株式という相続財産を取得する場合でも、相続人が株式投資をしているかどうかで、上場株式に対する価値が大きく異なるという点がご理解いただけたでしょうか?

 株式投資を普段からしている個人投資家だからこそ受けることのできる恩恵、次回はこれを用いて具体的にどのように活用ができるか、考えてみたいと思います。