補論:それでもアドバイザーが貢献できることは何か?

 結論は、上記の通りなのだが、それでも資産の運用にあって専門性を持った「他人」を必要とすると感じる投資家はいるだろうし、現実に、投資アドバイスを業としている人はいる。

 先ほどの「百歩譲った話」の続きとして、「それでもアドバイザーが投資家に提供できる、プラスになるサービスは何か?」について少し考えてみたい。この問題については、投資アドバイザー向けの講演・セミナーの機会があれば詳しく考えてみたいと思っているのだが、以下はその序論だ。

 以下、投資アドバイザーが提供できるサービスの例をいくつか挙げてみる。
 

1.運用方法の確認と具体的な手続きの手伝い

 前述のように、筆者は個人の資産運用は本来簡単だと考えており、自分が書いた本を一冊読んで理解してくれたら、個人は自分のお金を自分で運用できるはずだと考えている。しかし、読者の現実を想像してみた場合に、本に書いてある内容が具体的にどのようなものなのか他人とやり取りして確認したいと思う人がいるだろう。

 また、たとえば、「ネット証券に口座を開く」、「注文を出す」、「iDeCoの口座開設の手続きをする」といった具体的な作業について、自分一人で行うことが不安だと思う方もいらっしゃるのではないか。

 こうした個人に対して、丁寧な説明を提供する仕事は、誰かがボランティアあるいは有料でやってくれていいと思う。
 

2.長期投資のサポート

 長期投資の意味を正しく理解して、無駄な売買や、過剰なポートフォリオの調節をせずに、適切なリスク量を持ち続けることが、個人投資家にとっては(年金基金なども同様だが)、おおむね適切だ。しかし、日々環境が変わるマーケットにさらされていると投資家の感情が揺れ動くことがあるのは否めない。

 こうした場合にある種の投資家にとっては、長期投資の意味を正しく再確認させてくれるアドバイザーにお金を払ってでも教えを請う価値があるだろう。

 具体的には、
・    投資家の持つ判断材料の有効性
・    長期投資のリスクとリターンの正しい理解
・    長期投資と短期投資の関係(長期投資でダメな方法は、短期投資でもダメであること!)
・    経済成長率とリターンの関係(低成長経済でも投資のリスクを取って十分儲かる仕組みについて)
・    利食いの際の税金が複利運用上、不利であることについて
など、長期投資を行うためには、正しく理解しておきたい内容が多々ある。

 これらに関する正しい情報提供は、売買手数料型のビジネスモデルを持つアドバイザーのビジネスにとって不都合なものであることがわかる。
 

3.適切な運用リスクの大きさに関する確認と理解・計算のサポート

 個人にとって、適切な運用リスクがいかほどのものであるかは、もちろん個々人の事情で異なり、これは自分で判断できるはずなのだが、判断に自信が持てなかったり、判断について相談したかったりする個人は多数いることだろう。

 こうした人に対して、そもそもリスクの扱い方・考え方、リスクに関する意思決定のサポート、適切なリスクを考える上での計算のサポートなどを、提供することは有用なサービスだ。

 適切な計算をして、本人が納得すると、これまで取っていた運用リスクが過小である個人は少なくない。あくどい商売にはつなげて欲しくないとは思うが、アドバイザーのビジネス上の利益と一致する結論が出ることは少なくなさそうだ。