黒田総裁のバズーカ砲は当たった?

 日本銀行当座預金は2013年に黒田総裁が就任して以降、異次元緩和と呼ばれる大規模な金融緩和の下で大幅に増加しました。2013年3月末の日本銀行当座預金の残高は約60兆円ですので、5年間で300兆円以上増加した計算になります。
異次元緩和を開始した当初は、2年間「お金」を増やし続ければ、消費者物価上昇率は2%に達する見込みでした。物価が上がると困るという方もいらっしゃると思いますが、物価が下がるという期待が強くなると、今お金を使って物を買うことを控えて、値下がりしてから買おうということになり、消費が冷え込みます。また、企業としても、物が売れないのであれば設備投資を控えるようになり、景気が悪くなります。そうすると、結局、給料やボーナスも減ってしまい、値下がりを待っても、お金がなくて買えなくなるかもしれません。こうした悪循環におちいらないよう、緩やかな物価上昇を目指して思い切って「お金」の量を増やす政策を採りました。

異次元緩和の答えは?

 その結果、どうなったかというと、5年経っても物価上昇率は2%に届きませんでした(7月公表のデータでは1%にも届いていません)。無理な目標なのかもしれませんが、日銀と政府が消費者物価上昇率2%を達成するために共同声明を発していることもあり、日銀が勝手に物価目標を変える訳にもいかず、マイナス金利を導入したり、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入したりと、手を変え、品を変えながら、ズルズルと「お金」の量が増え続けています。

 海外に目を向けると、米国や欧州でも大規模な金融緩和策が採られていたのですが、米国はすでに正常化へと舵を切り、今年に入って0.25%ずつ3回利上げをしており、年内にさらに1回の利上げが見込まれています。欧州でもユーロ圏の中央銀行であるECB(欧州中央銀行)が年内で量的緩和を終えることを発表しています。 日本の金融政策が「周回遅れ」になる中、日本銀行は日本の物価はなぜ上がらないのか検証を進めています。
 

物価目標2%の正否

 そもそも論として、2%の物価目標が正しかったのか。

 また、2年間で達成できなかった段階で、日本銀行が想定していなかった経済メカニズムが存在していた訳で、その時点で軌道修正すべきだったのではないかなど、批判され続けています。また、次の景気後退時に金融緩和をする余地(のりしろ)を作るために、景気がある程度回復したら金利を上げておくことが金融政策の標準的なセオリーなのですが、失業率がほぼ下限に至っても金利を上げ損ねています(7月の金融政策決定会合で金利が変動する許容範囲は広がりました)。次の景気後退期に金融緩和の余地がないというのは、懸念される状況です。もっとも、日銀の若田部副総裁は「金融政策に限界はない」と強気の発言をしていますが…