為替DI:円安期待の投資家増える

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円の先安」見通し、マイナスの時は「円の先高」見通しを意味します。プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強まっていることを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

「9月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」という質問に対して、8月末の水準(111.25円)に比べて「円安になる」と答えた投資家は全体の約36%を占めました。「円高になる」は約24%で、残りの約40%は、「動かない(わからない)」という回答でした。 [図-1]

 円安見通しから円高見通しを引いたDIは11.95で、7月から7.5ポイント増えています。円高から中立へ見通しを変えた投資家が7月に比べて6.4ポイント増えたことが理由で、円安見通しは1.1ポイント増えただけでした。円高見通しは減ったものの、積極的な円安見通しも持っていないようです。

 8月のドル/円は、111.81円からスタートして111.11円で終了、1カ月で0.80円のドル安/円高になりました。途中には109.78円まで円高が進む局面もありました。

 8月の高値は初日につけた112.15円でした。ここをピークに下がっていくことになるのですが、マーケットが最初から円高の流れだったかというと、実はその逆で、直前までは円安の勢いの方が強かったのです。

 7月31日の会合で日銀はフォワードガイダンスの導入を決定しました。日銀が金融緩和を今後も継続するというメッセージをはっきりと伝えるのが目的で、これを受けてドル/円は急上昇したのですが、その矢先にトルコ危機が勃発。新興国市場の通貨が急落して個人投資家が保有するキャリートレードのポジションの解消に伴う円買いが強まった結果、ドル/円の方向が180度変わってしまったのです。

 トランプ大統領の発言も円高に拍車をかけました。トランプ大統領は、パウエルFRB議長の利上げに不満をぶつけ、中国に向かっては「貿易戦争は無期限だ」と攻撃。利上げ継続と関税回避というドル高を支える材料が弱くなったことがドル/円の下落を速めました。ドル/円は8月21日には6月末以来の109.78円台まで円高が進みましたが、その後は落ち着きを取り戻して111円台まで戻って8月を終了しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 ドル/円にとって、この111円前後はとても居心地の良い場所のようです。チャートでみると、ここはちょうど8月の高値(112.15円)と安値(109.78円)の半値(110.96円)ゾーンにあたります。過去3カ月間の高値(113.17円)と安値(108.11円)から計算した半値水準は110.64円で、こちらもほぼ同じ位置にあります。(図-2)

 半値水準は、売り勢力と買い勢力の思惑がせめぎ合うゾーン。ここで踏みとどまって一段円安を目指すが、再び下げに転じるかの分かれ目となる場所です。

 ドル/円はここしばらく、110.64円から110.96円の半値ゾーンを起点にして円安をチャレンジしては戻り、円高をチャレンジしては戻りを続けているということになります。

 8月のDIは+11.95でやや円安見通しに傾いています。9月のドル/円は、半値ゾーンから上の、111円以上の円安にチャレンジだろうと予想する人が多いということです。ただDIの勢いは強くないので、113円を超えるような強い円安相場も期待していないようです。

 

今後、投資してみたい金融商品・今後、投資してみたい国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、毎月実施している設問「今後投資してみたい国(地域)」における、各選択肢の回答割合の“前月比”に注目しました。対象月は最新のアンケート調査となった2018年8月実施分と、その前月の7月実施分です。(当該設問は複数回答可)

図:「今後投資してみたい国(地域)」全13の選択肢における回答割合の前月比
(2018年8月と7月を比較)

出所:楽天DIのデータより筆者作成

 値がプラスの場合、8月は7月よりも回答割合が多かったことを、逆にマイナスの場合、8月は7月よりも回答割合が少なかったことを示しています。

 この比較は、8月中旬に発生した「トルコリラショック」と、同時期に激化の様相を強めた「米中貿易戦争」の動向が、国や地域別の投資意欲にどのように影響を与えたかを知る手がかりになります。

 13ある選択肢のうち、プラスになったのは、「特になし」を除けば「日本」と「オセアニア」の2つのみでした。その他の10の選択肢はマイナスでした。

「トルコリラショック」は、特にトルコと同じカテゴリの新興国市場への投資意欲を低下させるきっかけとなったとみられます。

 また、激化の様相を強めた「米中貿易戦争」が、当事国である「アメリカ」と「中国」の消費活動の減少懸念を高めたこと、その二国の消費活動の減少懸念が米中以外の多くの国・地域に波及しつつあることがきっかけとなり、米中を含んだ多くの国・地域に対する投資意欲が低下したと考えられます。

「トルコリラショック」「米中貿易戦争」以外にも、中国が主導する巨大な経済圏構想「一帯一路」に関連するアジアやアフリカ諸国の一部(マレーシアやスリランカ、ラオスなどのアジア諸国、ジブチなどのアフリカ諸国)で、対中債務が膨れ上がっているニュースが目立ったことも、前月比マイナスとなった国や地域が多かった理由の一つになったと考えられます。

 一方、「日本」や「オセアニア」は前月比プラスになりました。これは、新興国に属さないこと(トルコリラショックの影響を受けにくかったこと)、米中貿易戦争の直接的な影響を受けない国に分類されること、などの理由で、消去法的に注目された可能性があります。特に日本は、世界中に懸念が拡大している時ほど、注目される傾向があります。

 足元、トルコリラの動向については、ショックの域を超えたものの、再びリラ安(対ドル)が進行しています。また、「米中貿易戦争」についても、11月の中間選挙まではトランプ大統領の米国内寄りの政策、つまり保護主義的な政策が続くとみられること、そして米国も中国も一歩も引かない姿勢を崩していないことにより、安心できない(むしろ悪化する可能性がある)状態と言えます。

 このような状態が続けば、「今後投資したい国・地域」において、「消去法的に注目される日本・オセアニア」と「リスクが覆いかぶさり敬遠される米中および新興国」のような二極化が、より鮮明になる可能性があります。

表:今後、投資してみたい金融商品 2018年8月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

表:今後、投資してみたい国(地域) 2018年8月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 

この記事執筆者の連載

チーフ・ストラテジスト窪田 真之 「3分でわかる!今日の投資戦略

シニアマーケットアナリスト土信田 雅之 「テクニカル風林火山

FXディーリング部 荒地 潤 毎ヨミ!為替Walker

コモディティアナリスト吉田 哲 「週刊コモディティマーケット