「マネーゲーム」より、お金との距離感を養おう

「このお金はパッと使い果たそう!」という人は、お金との距離感がつかめていない、と語る

 お金はあるに越したことはないと思います。しかし、お金が人を幸せにするかと聞かれたら、「お金と距離感が保てない限り難しい」と答えざるを得ません。

 たとえば、私は小説家なので物書きのケースを考えてみましょう。期待以上に本が売れて、思いのほか印税がたくさん入ってきた。「このお金はパッと使い果たそう!」という人は、お金との距離感がつかめていないと思います。

 余分なお金が入っても生活は変えないけれど、10年以上使った椅子は買い換えようとか、何かあった時のための予備資金にしようとか。これが余裕のある時のお金の使い方ではないでしょうか。

 逆に、たくさん儲けて六本木ヒルズに住んで、毎日シャンパンパーティーをやって、派手な生活をしようと計画する、あるお金は全部使い果たしてもまた儲ければいいと思う人は、古今東西、最後まで幸せだったことはないですね。

 何故かというと、人間は欲しいものが手に入った途端、「世の中には、もっとすごいものがあるはずだ」と思ってしまう。気持ちの尺度が大きくなって、先ほどの“ずっと、もっと、きっと”となります。

 だから、“投資はどこかで必ず失敗するもの”と思ったほうがいい。人間は神様ではないので、未来は読めません。失敗した際に「いい勉強をした」と思って引き際を見極められる人と、「何がなんでも取り返す」と熱くなってのめり込んでいく人に分かれるのです。
 

「理想の投資」とは、カジノで遊べる範囲で

自然光がたっぷり差し込むサンルーフのソファーで読書するのがお気に入りだそう

 失敗する可能性のあるのが投資ですから(笑)、カジノで遊ぶ時もそうですが、「このお金は本来なくても構わない」という余剰資金をつかうべきです。

 私は投資をしないので、実体験から話せるわけではないのですが、理想の投資をこう考えています。

 たとえば、新聞の小さな平記事を見つける。地方の中堅企業が、「人の判断力を向上させる方法を探る研究」を重ね、自動運転やAIに応用できる技術の特許を取ったと書いてあったとします。新技術の根本に迫るその企業の考え方を、株を買うことで応援するというスタンスで購入したのであれば、株価の上下はあまり気にならないはずです。

 もしくは、企業哲学に共感して、何があってもこういう企業を後押ししたいと思った。そんな気持ちで投資すれば、たとえ最小単位の100株でも、ずっと株を持ち続けて、エールを送る応援団となるでしょう。

最終回は、真山氏の意外な一面に触れています

 一方、最近の風潮は、短期間で儲けるほうがいいと思っている節があります。ここが、日本人には本来なじめないところです。“悪銭身につかず”と言ったら申し訳ないのですが、そういうお金は長く保つことができません。人間は1回の成功モデルは一生忘れないですが、100回の失敗はすぐ忘れる生き物だからです。

 ところが、いくら素晴らしい技術や企業哲学があっても、経営に直結し、株価が上がるとは限りません。だから捨ててもいいお金で投資するべきなのです。もちろん投資先の企業が世間のニーズに合致して、株が大化けする場合もあるかもしれません。それこそ投資家冥利に尽きますね。

 株を長期保有する投資家は、せいぜい電車にタダで乗れるとか、テーマパークの優待券がもらえるなど、株主優待狙いが現状でしょう。もちろん株主優待は魅力的です。けれど、本来は企業の哲学とか、このプロジェクトを応援したいという気持ちが、株を買う上で一番理想的で、すばらしい理由だと思います。

>>後編「情報は発信源を疑え!陳腐化しない情報と仕事の作り方」に続く
真山仁さんに「理想の投資」を語っていただいた中編に続き、最終回の後編では、実は映画マニアという一面も垣間見せてくださいます。小さなヒントから先を読む「真山流仕事術」に、ご期待ください!


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不良債権を抱え瀕死状態にある企業の株や債券を買い叩き、手中に収めた企業を再生し莫大な利益をあげる、それがバルチャー(ハゲタカ)・ビジネスだ。ニューヨークの投資ファンド運営会社社長・鷲津政彦は、不景気に苦しむ日本に舞い戻り、強烈な妨害や反発を受けながらも、次々と企業買収の成果を上げていった。

 


【著者情報】
真山仁(マヤマジン)
1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。読売新聞記者を経て、フリーランスとして独立。2004年、熾烈な企業買収の世界を赤裸々に描いた『ハゲタカ』(講談社文庫)で小説家デビュー

 

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