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『ハゲタカ』著者・真山仁氏インタビュー(全3回):前編中編後編

 

「モノ言う株主」の台頭と、ものづくり日本

2018年7月下旬、真山仁氏の事務所にてお話を伺いました

 最近は、株主重視で株価は高いほうが良いという風潮があります。株主にとって株価は高いに越したことはないのでしょうが、そこには少し違和感があります。

 たとえば、製造業でAという製品が1年間に100万個売れて、ものすごく儲かった。しかし、株価は全然上がらない。Aという製品は失敗でしょうか? いいえ、違います。実際は製造業にとって、株価が上がることよりも、製品が売れることのほうが本当は重要なのです。

 株価が上がらない理由は、提携話が没になったなど、別にあるはずです。ところが、株主が「こんなに売れているのに、何で株価が上がらないのだ」と言い出した瞬間から、企業は間違った方向に動き始めます。最近のニュースでは、名門企業の一連の不適切会計が発覚したことなどが、記憶に新しいかもしれません。

 本来、製造業が尽くすべき本分は、良い製品をきちんと作って、多くのファンを持ち、顧客の期待に応えることです。決算を黒字にして、売り上げと利益を得ているところは潰れないはず。極端に言えば、株価は額面の50円のままでも気にしなくて良いと個人的には思っています。

上場するのも良し悪しだと思っています…

 非上場会社のうちは、良いものを作って売るだけで良かったのに、上場した瞬間から社長の地獄が始まります。株が上がれば評価されますが、下がれば批判を浴びます。株の細かい指標のROE(株主資本利益率)が低いとか、IR(投資家向け情報)の対応がだめだとかいろいろ言われるようになります。

 万が一「商品が売れれば、それでいい」などと本音を言った瞬間、株価が下落し始めます。すると今度は、市場に株を公開しているので、M&A(企業の合併と買収)のターゲットになりかねません。良い製品を作っている企業の株価が安くなれば、即買われてしまうからです。そう考えると、上場するのも良し悪しだと思っています。

最近の風潮で、優良企業で儲かっている上場企業でMBO(※)が増えています。

 MBOには、上場する何倍もお金がかかりますが、そのまま上場していると、四半期決算や機関投資家へのIRのコストが高額になり、維持費がかなり必要になります。

 加えて、「モノ言う株主」が経営に口を挟んできます。それならいっそのこと非上場にしてしまおうと考えるのも自然な流れかもしれません。

※MBO(マネジメント・バイアウト):会社経営陣による自社株式取得で、株式の公開を閉めて、非上場会社とすること。経営陣がオーナー経営者として独立する。

 

「人間は学ばない動物だ…」ずっと・もっと・きっと、では失敗する!

日本のバブル崩壊と、サブプライムローンでダメになった米国を振り返るとわかります、と力のこもった口調で語る真山氏

  特に米国は、日本のバブル崩壊を見ていましたから、“不動産バブル”は国をゆるがすと知っていたはずです。彼らは、1929年に起きた世界恐慌で、「自国は強欲の国だ」と反省しました。この暴走を止めるためには、金融に関する規制が必要だと、数々の規制を敷いたのです。「人間は学習する動物だ」というのは、嘘ですね。どちらかと言うと、「学習できるのにしない動物」です。それは、土地神話でダメになった日本のバブル崩壊と、サブプライムローンでダメになったアメリカのその後を振り返るとわかります。

 ところが、ブッシュ政権の時代にこれを全て外してしまいます。欲しいものはいくらでも買えばいい、リスクは自分が全部取ればいいと、ハイリスク・ハイリターンな投資も容認します。住宅ローンの審査なんてどうでもいい、借りたいなら貸してしまおう、とサブプライムローンを売りまくり、リーマンショックに繋がっていきました。、とサブプライムローンを売りまくり、リーマンショックに繋がっていきました。

 投資は一般の人にとって、カジノと同じで、捨ててもいいお金でするべきです。今ある100万円が当面使う予定がないなら投資に回しても良いでしょう。銀行に預けても、今は年利0.001%しか付かず、100万円を1年間預けても10円しか儲からない。「それなら投資してみよう。でもこのお金がなくなっても自分はかまわない」と余裕で言える人がやるべきです。

 多くの人は一攫千金を狙います。何しろ、それが“投資”ですから。株に投資して、100万円の元本が120万円になり、200万円になってくると舞上がってしまいます。ここで売り抜けて、値上がり益を確保できる初心者はなかなかいないはずです。

 上がった株は下がるもの。株式市場には、株価の上下だけで生活資金を稼いでいる“プロ”も参加しています。短期で高騰した株は、“プロ”達の絶好の稼ぎ場となります。株価の値下がりで儲かる手法で集中的に仕掛けられると、あっという間に株価は急落します。一般投資家の利益確定の売りもあるかもしれません。

 株価が上昇トレンドから一転して急落すると、初心者はどうして良いかわからなくなり、最高値の半値八掛け二割引きになるまで傍観してしまいます。「あんなに良い材料が出ていたのだから、また上がるはずだ」「もう少し様子を見よう」と思考停止に陥ってしまうことが多いでしょう。後に残ったのは、元本割れした株です。上がった株価は必ず下がる。それが経済の根本で、経済は数値ではなく、欲望のメーターでしかないからです。

 経済の教科書などは、数字をいれて上手に説明していますが、最大のポイントは“もっと、もっと”という気持ちです。さらに、“ずっと、もっと、きっと”ですね。ずっと値上がりして欲しい、もっと上がる、きっとうまくいく。この3つの思い込みが経済を回しています。

投資のポイントは、“欲望”をいかにコントロールできるかどうか、にあると推測しています。
 

「マネーゲーム」より、お金との距離感を養おう

「このお金はパッと使い果たそう!」という人は、お金との距離感がつかめていない、と語る

 お金はあるに越したことはないと思います。しかし、お金が人を幸せにするかと聞かれたら、「お金と距離感が保てない限り難しい」と答えざるを得ません。

 たとえば、私は小説家なので物書きのケースを考えてみましょう。期待以上に本が売れて、思いのほか印税がたくさん入ってきた。「このお金はパッと使い果たそう!」という人は、お金との距離感がつかめていないと思います。

 余分なお金が入っても生活は変えないけれど、10年以上使った椅子は買い換えようとか、何かあった時のための予備資金にしようとか。これが余裕のある時のお金の使い方ではないでしょうか。

 逆に、たくさん儲けて六本木ヒルズに住んで、毎日シャンパンパーティーをやって、派手な生活をしようと計画する、あるお金は全部使い果たしてもまた儲ければいいと思う人は、古今東西、最後まで幸せだったことはないですね。

 何故かというと、人間は欲しいものが手に入った途端、「世の中には、もっとすごいものがあるはずだ」と思ってしまう。気持ちの尺度が大きくなって、先ほどの“ずっと、もっと、きっと”となります。

 だから、“投資はどこかで必ず失敗するもの”と思ったほうがいい。人間は神様ではないので、未来は読めません。失敗した際に「いい勉強をした」と思って引き際を見極められる人と、「何がなんでも取り返す」と熱くなってのめり込んでいく人に分かれるのです。
 

「理想の投資」とは、カジノで遊べる範囲で

自然光がたっぷり差し込むサンルーフのソファーで読書するのがお気に入りだそう

 失敗する可能性のあるのが投資ですから(笑)、カジノで遊ぶ時もそうですが、「このお金は本来なくても構わない」という余剰資金をつかうべきです。

 私は投資をしないので、実体験から話せるわけではないのですが、理想の投資をこう考えています。

 たとえば、新聞の小さな平記事を見つける。地方の中堅企業が、「人の判断力を向上させる方法を探る研究」を重ね、自動運転やAIに応用できる技術の特許を取ったと書いてあったとします。新技術の根本に迫るその企業の考え方を、株を買うことで応援するというスタンスで購入したのであれば、株価の上下はあまり気にならないはずです。

 もしくは、企業哲学に共感して、何があってもこういう企業を後押ししたいと思った。そんな気持ちで投資すれば、たとえ最小単位の100株でも、ずっと株を持ち続けて、エールを送る応援団となるでしょう。

最終回は、真山氏の意外な一面に触れています

 一方、最近の風潮は、短期間で儲けるほうがいいと思っている節があります。ここが、日本人には本来なじめないところです。“悪銭身につかず”と言ったら申し訳ないのですが、そういうお金は長く保つことができません。人間は1回の成功モデルは一生忘れないですが、100回の失敗はすぐ忘れる生き物だからです。

 ところが、いくら素晴らしい技術や企業哲学があっても、経営に直結し、株価が上がるとは限りません。だから捨ててもいいお金で投資するべきなのです。もちろん投資先の企業が世間のニーズに合致して、株が大化けする場合もあるかもしれません。それこそ投資家冥利に尽きますね。

 株を長期保有する投資家は、せいぜい電車にタダで乗れるとか、テーマパークの優待券がもらえるなど、株主優待狙いが現状でしょう。もちろん株主優待は魅力的です。けれど、本来は企業の哲学とか、このプロジェクトを応援したいという気持ちが、株を買う上で一番理想的で、すばらしい理由だと思います。

>>後編「情報は発信源を疑え!陳腐化しない情報と仕事の作り方」に続く
真山仁さんに「理想の投資」を語っていただいた中編に続き、最終回の後編では、実は映画マニアという一面も垣間見せてくださいます。小さなヒントから先を読む「真山流仕事術」に、ご期待ください!


◎書籍紹介

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不良債権を抱え瀕死状態にある企業の株や債券を買い叩き、手中に収めた企業を再生し莫大な利益をあげる、それがバルチャー(ハゲタカ)・ビジネスだ。ニューヨークの投資ファンド運営会社社長・鷲津政彦は、不景気に苦しむ日本に舞い戻り、強烈な妨害や反発を受けながらも、次々と企業買収の成果を上げていった。

 


【著者情報】
真山仁(マヤマジン)
1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。読売新聞記者を経て、フリーランスとして独立。2004年、熾烈な企業買収の世界を赤裸々に描いた『ハゲタカ』(講談社文庫)で小説家デビュー

 

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「ハゲタカ著者・真山仁氏インタビュー

8/23公開   (前編)人のせいにする日本人。経済危機Xデーを想像せよ

8/28公開   (中編)モノ言う株主にならず、人間が学ばない動物であることを学べ

8/30公開   (後編)情報は発信源を疑え!陳腐化しない情報と仕事の作り方

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