相続発生時に空室だった場合はどうなる?

 ここで、注意しておきたい点があります。相続発生時に空室があった場合です。

 例えばアパートを10室貸していて、そのうちの4室が相続発生時点で空室であれば、4室分については貸家の評価も、貸家建付地としての評価も受けられないのが原則です。

 ただし、相続発生時点でたまたま空室だった、と認められる場合は貸家や貸家建付地の評価を使うことができるという特例があります。

 国税庁のホームページをみると、この特例を使えるかどうかの判定として、

・各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか
・賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか
・空室の期間、他の用途に供されていないかどうか
・空室の期間が課税時期の前後の例えば1カ月程度であるなど一時的な期間であった
  かどうか
・課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうか

などの事実関係から総合的に判断するものとされています(「課税時期」は、「相続発生時」と読み替えていただいて結構です)。

 なお、アパートやマンションではなく戸建ての賃貸物件や、1棟貸しの物件の場合、相続発生時に空室であれば、上記の特例はなく、貸家や貸家建付地の評価も受けられませんので注意してください。

 

「一時的な空室」の適用要件が厳格化の方向へ!

 ここでよく問題になるのが、空室部分につき「一時的な空室」として貸家や貸家建付地の評価が認められるかどうかです。しばしば裁判でも争われています。

 判決により判断はまちまちなのですが、特にここ最近の傾向として、上で挙げた要件の「空室の期間が課税時期の前後の例えば1カ月程度であるなど一時的な期間であったかどうか」の「1カ月」が重視されています。

 以前は、4~6カ月程度の空室期間であれば認められていることも多かったのですが、近年は1カ月を超えていてはいけない、という雰囲気になっているように感じます。

 さらに、相続発生時に空室があっても、不動産賃貸事業を継続していれば小規模宅地の特例については適用できました。つまり、空室の期間については要件とはされていなかったのです。

 しかし、7月に発表された通達を読む限りでは、今後は小規模宅地の特例についても、上記の「1カ月基準」が適用されることになりそうです。

 つまり、相続発生時に空室があり、それが相当の期間続いている場合、空室部分については貸家や貸家建付地の評価だけではなく、小規模宅地の特例も使えなくなる、ということです。

 

空室にしないための対策とは?

 空室が多ければ多いほど、土地や建物の評価額の引き下げ効果が弱まり、結果として相続税が想定より高くついてしまう、という事態が実際に起こっています。

 今は郊外では空室率が5割を超えるアパート・マンションも珍しくありません。それなのに、安易な相続税対策により、逆に賃貸アパート・マンションの数は増えているのが実情です。

 そのため、賃貸需要が旺盛な都心部を除いては、相続税対策としてアパートやマンションを建てても相続税が安くならず、逆に財産を目減りさせることになってしまうケースも目立ちます。

 空室にしないための対策としては、賃貸物件につきサブリースによる一括借り上げの契約を業者と結ぶ、もしくはご自身で会社を作ってその会社がサブリースで一括で借り上げる、というものが考えられます。

 また、不動産管理会社と普段から仲良くしておき、空室になったら優先的に次の入居者を探してもらうように働きかけておくのも一つです。

 でも、最も重要なのは、空室が出にくいようなエリアに賃貸アパート・マンションを建てることです。

 相続税が安くなるといって安易にアパート・マンション経営に走るのは危険です。メリットやデメリットの把握、そしてアパート・マンション経営が成り立つエリアかどうかの詳細な調査などを行ったうえ、最終的な判断を下すようにしましょう。