土地に制約がかかることが「本当」の理由

 ではなぜ、アパートやマンションを建てると土地の評価額が下がるのでしょうか。何も税務当局が、アパマン経営をしている人たちに甘い、というわけでは全くありません。土地に法的な制約がかかるからです。

 もし、自分の土地を誰にも貸しておらず、自分で家を建てて住むことに使っていたなら、まさに誰にも邪魔されず「自由」に使うことができます。そして、売却することも自由です。いつでも売却できます。

 ところが、地主の建てたアパート・マンションに住んでいる人(借家人)がいると、地主はその敷地を自分自身で自由に使ったり、売却・処分することができなくなります。

 なぜなら、「借地借家法」という法律により、家を借りて住んでいる人が法的に保護されるからです。

 自用地に比べて土地の使用・処分に制限が加わってしまうため、その分評価額を引き下げてあげよう、というのが貸家建付地の評価の趣旨なのです。

 また、アパートやマンションを建てると、その敷地が貸家建付地として評価されるだけではなく、アパートやマンションそれ自体も、「貸家」として固定資産税評価額の70%で評価されます。自宅であれば固定資産税評価額の100%ですから、30%の減額です。

 これにももちろん理由があって、アパートやマンションに住んでいる人には借家権という権利が生じます。これにより家主に様々な制約が生じることによる不都合を考慮して30%引きにしてくれているのです。

 

土地そのものを貸す場合はもっと悲惨なケースも

 地主が自分の土地に自分でアパートやマンションを建てた場合、敷地は貸家建付地、家屋は貸家としての評価となります。

 そうではなく、地主が自分の土地自体を他人に貸して、借りた人が自分で家を建てて住んでいる場合、その敷地は「貸宅地」として評価されます。

 貸宅地は「自用地価格-借地権割合」で評価されるので、かなり評価額が下がります。借地権割合が60%の土地であれば、自用地の40%の評価額です。その一方で、借地人に与えられた権利は非常に強力です。

 現に、土地を借地人に貸しているケースでは、契約期間が30年など非常に長くなります。その間その土地を売ることもできず、地代の値上げもかなわず、契約更新時にも地主と借地人との間で「出ていけ」「絶対出ていかない」とトラブルになるケースも数多くあります。仮に出ていってくれることになっても、多額の立退料が必要になったりします。

 土地の評価額が下がって相続税が軽減できたとしても、それをはるかに上回るデメリットに苦しめられてしまう可能性も大いに考えられるのです。

 

アパート経営を甘く見てはいけない

 個人的には、「相続税がかかる=相続税を減らさなければ」と安易に相続税対策を実行することは非常に危険と感じています。

 アパートやマンションを建てることは、賃貸経営をすることを意味します。経営ですから、会社の社長と同じ覚悟をもって行わなければいけません。

 アパートやマンションを建てれば、確かに評価額が下がって相続税が安くなるかも知れません。でもその一方で、その土地に制約を加えてしまうことになります。

 さらに、最近では、郊外を中心にアパマン経営がうまく行かないケースもよく目にします。特に借入でアパートやマンションを建てた場合は、借入金の返済ができずに手持ちの物件を売らなければならなくなることもあります。最悪の場合は自己破産に追い込まれるなど、相続税を減らす対策をしたつもりが逆に財産を大きく減らしてしまうことにもなりかねません。

 もちろん、都心部を中心としてアパート・マンション経営が適している土地も多くあります。でも、ご自身が所有している土地にアパートやマンションを建てて本当に大丈夫なのか、相続税を引き下げる以上のデメリットやリスクはないのか、アパートやマンションを建てることで遺産分割がしにくくなり争いに発展してしまう恐れはないのか…いろいろなことをよく考えたうえで、アパート・マンション経営を実行するかどうか判断するようにしてください。