ただし、日米の平均世帯収入が同じペースで伸びたとはいえ、低位10%の所得者層を比べると日本の方が力強い成長を見せている。2000~2017年には、低位10%の収入が日本では1万5,000ドル増えて1万7,000ドルから3万2,000ドルになった。一方、米国では1万8,000ドルから2万8,000ドルへと1万ドルしか増えていない。はっきり言って、最も収入が低い10%の中に自分が入っているならば、平均所得が日本より高い米国よりも日本にいる方が良い生活ができるわけだ(3万2,000ドルvs2万8,000ドル)。

 日本はどうやって低所得者層の引き上げに成功したのだろうか?富裕層に対する課税強化ではなく、非常にポジティブな人口動態のダイナミクスが要因である。労働力不足の深刻化に伴って雇用契約が確実に改善されており、パートや契約社員ではない正規雇用が増加している。また、特に就労希望者が少ない分野の仕事の賃金が着実に上昇している。確かに、一般的なホワイトカラーの営業職や管理職では給料の伸びが緩やかな一方で、トラック運転手や建設作業員、造船技師などの賃金はここ数年でほぼ2倍になっている。

 しかし本当のパワーの源は女性就労人口の急増である。低位10%の所得者層では、平均所得の力強い成長の約3分の2はウーマノミクス効果によるものである。潜在的な傾向を読み取り、雇用主の姿勢を変えるよう積極的に働きかけたという点で政府は称賛に値する。加えて、税制改正により今年からは配偶者控除の対象となる給与収入が引き上げられる。富裕層に重い税金を課すのではなく、低所得者層のために税金の壁を取り払ったのである。無論、所得ピラミッドの上位に向かって女性の労働参加が増加していくことは望ましいが、すでに社会全体にはかなりポジティブな影響が出ており、特に富裕層と低所得者層の格差は縮まりつつある。

 結局のところ、日本経済はうまく機能しており、「資本主義の優等生」モデルとしてもっと注目されていい。最も重要なのは、日本の経済システムが所得ピラミッドの「底上げ」を巧みに実現し、富の創造がすべての層に及ぶという諸外国には見られない構造を生み出したことである。そのため日本では大衆迎合主義的なナショナリズムの動きが起こりにくいのだ。経済システムはうまく機能している。そう、日本は応用経済学のノーベル賞に輝いても不思議ではない。

2018年5月5日 記

ウィズダムツリー・ジャパンで掲載中のブログはコチラ