テキストマイニング、ディープラーニング、人工市場……。ここまで3回にわたって、AIが金融市場でどう活用されているのかを見てきた。さらにこの先、AI技術が進化すると、どんなことが可能になるのだろうか。

 今回は、東京大学大学院工学系研究科教授の和泉潔氏に来たるべき未来について話を聞いた。

聞き手:国府田昌史

 

個人がAIツールで株価を予測する時代に

──今後、AIがどう進化していくかは専門家の間でも意見が分かれます。「近いうちに人間の脳を超える」という見方もあれば、「そんなことは何百年かかっても無理」という見方もあります。そういう意味ではまだまだ不透明な部分もありそうですが、少なくとも金融業界ではAIの活用はさらに進むと考えてよいのでしょうか。

 それは間違いないでしょう。ここ十数年の間にAIは著しい発展を遂げましたが、まだまだ進化の途上にあります。それもまだようやく歩き出したという段階ですから、今後の研究次第では──人間の脳を超えるかどうかは別にしても──飛躍的な発展が期待できます。

当然、金融市場でももっと活用されるようになるでしょう。

──具体的にはどのようなことが起こりうるのでしょうか。

 一つ、確実なのは情報のコモディティ化が進むことです。例えばこれまでは投資コンサルタントなどから価値の高い情報を入手しようとしたら、それ相応の対価を払う必要がありました。だから、一部の富裕層しかそうしたサービスを受けることができませんでした。

 しかし、今後はAIが専門家の仕事の一部を代替して、どんな人でも高品質なサービスを受けられるようになるでしょう。

──最近、資産状況や投資金額などのデータを入力すると機械がその人に適したポートフォリオを組んで運用してくれる「ロボアドバイザー」が人気を集めていますが、これもその一つといえそうですね。

 そうですね。ただし、今のロボアドバイザーはAIを活用しているといっても、さほど高度な技術を使っているわけではありません。今後、機械学習、特にディープラーニングの技術が進化し、「こういう属性の人はこういう投資行動を取る」といったデータを大量に集積できるようになれば、さらに精度が高まるでしょう。

 

──個人が自分でAIを使って株価の動きを予測するといった時代も到来するのでしょうか。

 すでに一部の個人投資家はそれに近いことを行っています。もちろん、自分でゼロからAIを開発しているわけではなく、グーグルやアマゾンなどが提供するAIツールを利用していると思われます。

 最近は多くの企業がAI開発支援ソフトなどをオープンソース化しているので、それらを用いれば個人でもAIを利用できるんです。

──誰でも簡単に使えるのですか。

 いえ、残念ながら誰でもというわけにはいきません。それ相応の知識と技術が必要になります。ただし、ゆくゆくはコンピュータプログラミングの経験がないような人でも扱えるAIツールが現れるでしょう。そうなれば裾野はどんどん広がるはずです。

──AIは答を導き出すだけで、その根拠は説明できないといわれます。つまり、その銘柄が上がるかどうかを尋ねるときちんと答えてくれるけれど、なぜそういう結論にたどり着いたのかはいっさい教えてもらえない。いってみれば機械に下駄を預けるしかないわけで、それが気に入らないという人もいるようですが……。

 その点はたしかにAIのウィークポイントの一つです。ただ、これも近い将来、解決される可能性があります。

 というのも、AIがアウトプットしたものを人間にわかるように説明する、人間向けに翻訳するという技術の研究が進んでいるからです。実は、その技術もAIの一つです。つまり、まずはAというAIを使って答えを導き出し、次にBというAIを使って根拠を探るわけです。

──それが実現したらなんら人間と変わらなくなりますね。高いお金を払って投資コンサルタントを使う必要もなくなる──。

 投資コンサルタントの需要がなくなるかどうかはわかりませんが、とりあえず投資判断をAIに頼ろうという人は間違いなく増えるでしょう。