さまざまな種類のAIが誕生する

──個人が気軽にAIツールを使えるようになったり、AIが根拠を説明できるようになるのはどれくらい先のことなのでしょう。

 そう遠い先のことではないと思いますよ。5年、10年先には実現しているのではないでしょうか。

──では、もっと先、例えば20年、30年後にはどのようなことができるようになると思われますか。

 正直、それくらい先になるとなかなか予測が難しいんです。

──というと?

 ここ十数年の間にAIが急速に進化を遂げたのは、機械学習、特にディープラーニングという新技術が誕生したからです。これによって画像と音声に関してかなり正確に認識できるようになり、その結果、実用性が高まりました。

 

──この連載でもディープラーニングを取り上げました。

 ディープラーニングは、かなり画期的な技術です。一つユニークな例を紹介すると、昨年秋、マイクロソフトと野村證券金融経済研究所のメンバーが、日銀の黒田東彦総裁の記者会見の映像をディープラーニングを使って分析するという実験を行いました。

 具体的には黒田総裁の表情と金融政策の変更の相関関係を探るというもので、黒田総裁が「怒り」や「嫌悪」の感情を見せたときには、数日内にマイナス金利政策導入などの重大な政策変更に踏み切るということが分析によって導き出されたのです。ディープラーニングが生まれ、こんなこともできるようになってきたわけです。

──面白い試みですね。

 今後もディープラーニングの技術が進展すれば、いろいろなことが可能になるでしょう。ただし、それはあくまでも画像認識、音声認識という分野においてです。ディープラーニングにそれ以上のことは期待できません。人間でいえば「目」と「耳」の機能を持っただけであり、「脳」の代わりができるわけではない。

 ディープラーニングは物事を論理的に考えるとか、ロジックを積み上げていくといったことは得意ではないんです。

──なんとなくわかってきました。つまり、20年後、30年後どうなっているかは、今後ディープラーニングを超える技術が誕生するか否かによって違ってくると──。

 そういうことです。ディープラーニングを超えるというより、ディープラーニングとは違う種類のAIといったほうがいいかもしれません。そういう新技術が生まれたら、一気に次のステージに進む可能性が高い。でも、それがいつかは読みにくいんです。

 

──先生はいつくらいに新技術が生まれると思いますか。

 私はわりと楽観的で、あと10年くらいで、それなりにインパクトのある、何らかの新技術が誕生すると思います。ただし、人間の脳に限りなく近い、つまりは高いレベルで論理的に思考できるAIとなると、もう少し先になるでしょう。

──結局、AIは人間の脳を超えることができるのでしょうか。

 これはあくまでも私個人の感想ですが、ありとあらゆることができる神のようなAIって、あまりイメージが湧かないんです。

 それよりもいろんな種類のAIがあって、それらを目的に応じて組み合わせて使うというスタイルになると思います。何十、何百ものAIを合体させて「スーパーAI」をつくるなんてこともあるかもしれません。それが結果的に人間の脳を超えたとしても不思議ではないでしょう。

──これからどうなるか考えるだけでもワクワクしてきますね。では、最後に現在、株式投資を行っている、あるいはこれから始めようとしている人たちにメッセージをお願いできますか。

 最新技術を知らずして投資はできないとばかりに、あわててAIやフィンテックの勉強を始めた人も少なくないと思いますが、私はこんな時代だからこそ原点に立ち返ってほしいと思います。

 そもそもAIというのはツールに過ぎないし、先ほど話したようにいずれは誰でも気軽に使えるようなAIツールが世にあふれることになるでしょう。そうしたら、AIに詳しくなっても、たいした強みにはなりません。

 では、何が大事かというと、どんなデータをAIに与えるか、そのデータをどうやって探すかなんです。そのためには、相場というものがどんな要因でどう動くのかをよく理解していなければなりません。今後、AIに頼ろうとする人が増えれば増えるほど、そうした原理原則に通じている人こそが優位に立てるのではないでしょうか。

 

<プロフィール>

 

東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授
和泉 潔氏

 1998年に東京大学大学院総合文化研究科広域学専攻博士課程修了後、電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所) に勤務。2010年より東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻准教授。2015年教授に。金融テキストマイニングから人工市場シミュレーションまで幅広く研究する。

 

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