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アベノミクス最大の成功例:訪日外国人旅行者の爆発的増加
イェスパー・コール
エコノミストが見た、投資のヒント
JPモルガンやメリルリンチにて、常にトップクラスの日本経済のストラテジスト、エコノミストとして知られてきたウィズダムツリー・ジャパンCEOのイェスパーコールが、今の日本経済の見方…

アベノミクス最大の成功例:訪日外国人旅行者の爆発的増加

2018/3/15
・訪日外国人旅行者の爆発的な増加は、アベノミクスがもたらした最大の成功例である
・日本の観光戦略は、近年に先進国が実施した政府主導の地域振興策が最も成功した例と言える
・外国人の日本旅行ブームを拡大していくためには、円安が必要であるため、円安を擁護する政策面の動きは強まっていくだろう
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 訪日外国人旅行者の爆発的な増加は、間違いなくアベノミクスがもたらした最大の成功例である。2012年12月の第二次安倍内閣の発足後、1週間足らずで始まったビザ発給要件の緩和措置は着実に進展し、日本を訪れる外国人旅行者の数は月間平均で2012年の69万7,000人から直近では260万人へとほぼ4倍に増加している。これは、しっかりとしたポジティブな構造的ダイナミクスと経済波及効果を伴う紛れもない変化である。

 マネーは世界を動かすが、外国人旅行者の急増が日本にもたらしているのはまさしくそのマネーである。考えてもみて欲しい。2012年以降、外国人旅行者の支出額は消費支出全体(賃料を除く)の伸びの約20%を占めている。消費全体に占める割合は2%未満とまだ低いが、 6年前の実質ゼロから2%近くへの上昇は異例に速いペースである。好影響を享受しているのは東京、大阪、福岡などの大都市にかぎらず、乗数効果は地方都市での経済効果も非常に大きい。 

 日本の観光戦略は、近年に先進国が実施した政府主導の地域振興策が最も成功した例と言えよう。まず、安倍政権は中国とASEAN(東南アジア諸国連合)諸国からの旅行者に対するビザ発給要件を徐々に緩和し、アジアで台頭しつつある中産階級の新たな旅行先としての日本に対する構造的な潜在需要を掘り起こした。

 これと並行して、政府は供給サイドの規制緩和(空港の発着枠の拡大、ホテル・旅館を対象に建築基本法で定める容積率の緩和など)にも踏み切った。その結果、数十年にわたる「空洞化」に苦しんでいた地方自治体は観光地として再生し、観光資源への再投資を続けている。これは政府による一度限りの大型投資計画に基づくものではなく、規制緩和によって生み出された純粋な民間セクターの利益機会の賜物である。経済の好循環を創出するためには、需要と供給の両面におけるポジティブなダイナミクスが必要である。

 この好循環をスタートさせただけでなく、意欲的な長期目標を設定して民間のホスピタリティ企業の需要増に対する期待感を支える努力という点で「チーム安倍」の働きは称賛に値する。2017年の訪日外国人旅行者数は2,870万人だったが、政府はこれを2020年までに4,000万人、2030年までには6,000万人へと大幅に伸ばす意向である。アジア諸国の人口および経済のダイナミクスを考えると達成可能な目標と言えよう。訪日観光ブームは構造的な成長サイクルに入っているのである。

 とはいえ、政府には自画自賛に興じている余裕はない。ポジティブな構造的要因は多数あるものの、すでに為替レートは外国人旅行者の消費パターンを左右する重要な役割を果たしている。円高は即、外国人旅行者の購買力を削ぎ、円安にはその逆の効果がある。具体的な影響はどの程度であろうか?当社の分析によると、円高は外国人旅行者数と支出額の両方を押し下げる。円相場が対ドルで10円上昇すると月間の外国人旅行者数は約1.2%、1人当たり支出額は約10%減少する。

 旅行者数への影響は軽微との印象を受けるが、支出額の落ち込み幅は大きい。従って、ホスピタリティ企業の価格設定や利益戦略にとって重大な打撃となりうる。円高が進めば進むほど、割引を強いられることになり、地方のホスピタリティ企業の利益は圧迫される。

 今後は、安倍政権が打ち出した観光戦略の成功の重要な帰結として、円高ではなく円安の必要性がますます高まるだろう。実際、円安を擁護する声は輸出に頼る製造業から地域の発展を唱える団体まで広がってきている。従来、輸入原価の上昇を招き、コスト増によって地元企業の業績と自治体の財政に打撃を与える円安は地域経済にとってマイナスと市町村は考えてきたが、最近は国内経済、特に地域経済の成長を後押しするポジティブな政策ツールとみなすようになってきている。今日では、トヨタや日立と同じように地域の企業も製品やサービスを海外に輸出している。つまり、訪日観光ブームはグローバル企業のみならず地元企業の利益にも合致しているのである。

 今後、日本観光ブームの火付け役となった構造改革の効果が徐々に薄れていくため、外国人旅行者の購買力の牽引要素として為替の重要性が増していくとみられる。観光産業の活況を維持するためには円安が不可欠となろう。そう考えると、そろそろ自民党の強力な支持基盤である地方の首長が円安の必要性を声高に叫び始めても不思議ではない。

 無論、純粋に分析の観点に立つと、外国人旅行者の支出額を左右する因子寄与に関して統計的に有意な結論を導き出すのは時期尚早である。ビザ緩和措置による構造変化は始まったばかりで、2017年前半には中国人に対するビザ発行要件がさらに緩和された。また、2012年~2017年の為替サイクルは比較的狭いレンジで上下して来た。しかし、強い構造的なポジティブ要因が依然として作用しているとはいえ、すでに為替感応度が大きな影響を及ぼしている現状は、今後は日本の観光戦略の成功にとって円レートの重要性が増していく一方であることを示唆している。

 今後も外国人の日本旅行ブームを拡大していくためには、円安が是非とも必要であるため、円安を擁護する政策面の動きは強まっていくと考える。重要な点としては、円の対人民元レート(すなわち日本と中国の為替関係)を注視する必要がある。人民元の切り下げは即、日本の地域経済にとって大きな打撃を及ぼす可能性があるからである。

2018年3月5日 記

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