株価指数などの指数への連動を目指す金融商品である「ETF」。日本ではまだまだ知名度が低く、個人投資家に浸透しきっているとは言えない。一方、米国ではETFの純資産残高が360兆円にも達し、市場は日本の12倍超(10月末時点、ETFGI調べ)にもなるという。

 ちなみにETF残高の地域別内訳を見てみると、米国が世界全体の約7割を占めている。もちろんアジアやヨーロッパでもETFの活用は進んでいるが、なぜ米国でこれほど爆発的な人気になったのだろうか。ETF事情に詳しい日本証券経済研究所特任リサーチ・フェローの杉田浩治さんに聞いた。

ETF発展のカギは 「コスト」「品揃え」「税金」

「米国でETFが発展した背景には、独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)が多く存在している事実があります。IFAとは、金融機関から独立したアドバイザーのことで、お客さんの資産運用に対する助言などのサービスを提供しています。米国のIFAは取引のたびに手数料をもらうのではなく、お客さんから預かった資産残高の1%ぐらいの報酬を年間でもらってサービスを提供する人が多い。そのため、顧客の資産を増やすために、コストが低く安定して利益を出しやすい金融商品に重きを置いています。その観点から、ETFはIFAの需要に合った商品なのです」(杉田さん・以下同)

 杉田さんによると、ETFの3つの特徴がIFAに評価され、特に米国で急速な成長を促しているという。

(1)コストの低さ

 一般の投資信託はファンドが投資家から集めたお金で株式などの金融商品を市場で購入し、投資家が解約する場合は保有している金融商品を市場で売却して返却するため、売買のたびに証券会社に支払う売買手数料などが発生する。しかし、ETFは指定参加者と呼ばれる証券会社などが金融商品そのものをファンドに持ち込んだり、ファンドから引き出したりするというスキームを持っている。そのため、投資家が負担するコストである金融商品の売買手数料を安く抑えることができる。

 また、投資家がファンドに支払う保有コスト(信託報酬など)についても、ETFは販売会社に対して信託報酬を支払う必要がないほか、ファンドの保有する金融商品を市場で売買する手間が少なくなるので、運用会社や信託銀行に対する信託報酬も低く抑えられる。

 さらに米国では、ETFを運用する会社間の競争が激化しており、ここ数年でETFのコストは劇的に下がってきた。

「米国のIFAは、顧客の信頼を獲得するために、実績を上げないといけません。顧客の資産を増やすためには、何よりもコストが低い商品で運用する方が可能性が上がります。だから、ETFが注目されたのです」
 

(2)品揃えの豊富さ

 日本と比べて、米国のETFは品揃えが多いことも特徴の1つ。米国株だけでなく、先進国や新興国などの地域別や業種別ETF、最近では「女性役員の比率が高い企業に投資するETF」「ESG(環境・社会・ガバナンス)の視点で高く評価される企業に投資するETF」など、テーマ別のものも数多く登場している。2017年10月現在、アメリカのETFは1700本超にも上っているのだ(日本は約200本、ETFGI調べ)。

「米国のIFAは顧客の年齢や状況に応じて、たとえば米国株を3割にして、新興国株を2割、債券を2割…などといった形で、まず顧客に合った資産配分を考えます。ETFの品揃えが多いことにより、顧客のニーズに合わせた多種多様な組み合わせに対応することができるのです」
 

(3)税制上のメリット

 米国では、一般のファンドは、投資信託の解約などの際に保有している金融商品を売却して実現益(キャピタルゲイン)が発生した場合、この利益を課税年度に投資家に全て分配しなければならないという決まりがある。この分配金を投資家が受け取る際には税金が課せられてしまう。

 一方、ETFは前述のとおり、解約の際にファンドが保有する金融商品を市場で売買をしなくてもよいスキームを持っているため、実現益が発生しないので、投資家にこうした分配金の課税が生じないようにすることができる。課税されない金額分だけ、投資家はETFの方が効率よく運用できるというメリットがあるのだ。

「日本やヨーロッパでは、一般の投資信託でも実現益をファンド内で留保できるため、ETFについて米国のような税制メリットはありません。ほかの先進国と違い、米国ではこうした税制上の理由もあってETFが支持されているといえます」