大型減税可決で大企業・富裕層を喜ばせたトランプ大統領

 トランプ大統領は昨年末、悲願の大型減税を可決に持ち込みました。大統領からの大きなクリスマス・プレゼントを受けて、年末年始のNYダウは、一段と上昇しました。

 株が上がったので米国民がみな喜んでいるように思えますが、実態は異なります。大いに喜んでいるのは、当初トランプ大統領を警戒していた「大企業・富裕層」です。大統領選挙のとき、トランプ氏を熱狂的に応援した「低所得層」は、逆に不満をつのらせています。

 トランプ政権はいつの間にか「弱者切り捨て」型の資本主義政権に変わりつつあります。大型減税は、税金をたくさん納めている大企業や富裕層ほど恩恵が大きい「金持ち優遇策」です。トランプ大統領は、大型減税を実施する一方、低所得者向け給付を中心に歳出を削減する方針を打ち出しています。これは、かなり露骨な「弱者切り捨て・大企業優遇」の資本主義政策です。

 トランプ大統領が属する共和党はもともと資本主義色の強い政党です。トランプ大統領は、共和党の異端児で、資本主義を否定し、社会主義政策を進める大統領になると見られていましたが、実際は逆でした。トランプ大統領は、共和党主流派も驚くほどの、冷徹な資本主義政策を貫いています。

 大型減税の実現を好感して、NYダウは上昇しました。資本主義を否定する発言を続けていたトランプ大統領が、実は冷徹な資本主義を貫く大統領であったことが分かったことは、株式市場にはポジティブ・サプライズ(良くて驚き)でした。

 

大統領選から、サプライズを起こし続けてきたトランプ氏

 トランプ氏はこれまで、金融市場に対して、ネガティブ・サプライズ(悪くて驚き)と、ポジティブ・サプライズ(良くて驚き)を交互に与え続けてきました。ざっくり振り返ると、以下の通りです。

◆2016年大統領選挙→ネガティブ・サプライズ

 トランプ氏は、共和党候補として民主党候補ヒラリー・クリントン氏と大統領選を戦いました。大統領選では、格差拡大で不満を強める労働者・低所得層の味方として、資本主義・グローバル主義を否定する過激発言を繰り返していました。対米貿易黒字国(中国・メキシコ・日本・ドイツ)やイスラム教、移民を敵視する発言で物議をかもしました。そのため、「トランプ氏が大統領に当選したら米国株は暴落する」という考えが市場コンセンサスになりました。

 当初、当選しないと思われていたトランプ氏が、徐々に勢力を拡大し、クリントン氏と互角に争うようになったことは、株式市場にとってネガティブ・サプライズでした。トランプ氏が大統領選に勝利したことが最初に伝わった2016年11月9日の東京市場で、日経平均は919円(5.4%)安と、急落しました。

◆2016年11~12月トランプ・ラリー→ポジティブ・サプライズ

 大統領選の勝利宣言スピーチでは、国際協調や経済成長を重視する美しい言葉でいろどられ、トランプ氏のイメージを一新するものでした。

<トランプ氏の勝利宣言抜粋>

(1)すべての共和党、民主党の党員に対して、米国の国民として団結することを訴えたい。

(2)すべての国と共通のグラウンドを持ち、良好な関係を築いていきたい。

(3)高速道路・橋・トンネル・空港・学校・病院といった社会インフラを再建する。インフラ再建で何百万人の雇用を生み出したい。

 そこから、トランプ大統領への期待が一気に高まり、世界的に株が大きく上昇し、トランプ・ラリーと呼ばれました。

◆2017年1~8月暴言復活→ネガティブ・サプライズ

 1月20日に大統領に就任。その前後から、反資本主義・反グローバル主義の過激発言が復活し、株式市場にとってネガティブ・サプライズとなりました。大統領への不安が広がり、大統領支持率の低迷が続きました。ただし、大型減税へ意欲を示したことは、株式市場でプラズ材料ととらえられました。

◆2017年12月大型減税を議会で可決→ポジティブ・サプライズ

 8月に米国は、大型ハリケーンで深刻な被害を受けました。トランプ大統領は、ハリケーン被害と、暴走する北朝鮮への対応で評価を取り戻し、米国債の発行上限引き上げなどで議会からの協力を得られるようになりました。

 12月には、悲願の大型減税を議会で可決させました。いつのまにか、低所得層を切り捨て、大企業と富裕層に有利な政策を押し進める大統領に変質していたことが、株式市場にとってポジティブ・サプライズとなりました。

 

11月の中間選挙で共和党が大敗するリスクも

 今年後半の懸念材料として、11月の米中間選挙を挙げておきたいと思います。大統領選でトランプ氏を熱狂的に支持した低所得層は、トランプ大統領の変節に気づいています。このままでは、中間選挙で、トランプ氏を支える共和党が大敗するリスクもあります。そうなると、最悪、トランプ政権が機能不全におちいるリスクも考えなければなりません。

 ただし、それは、年後半の懸念材料です。11月の中間選挙のことを今から議論するのは、時期尚早かもしれませんが、年後半の重大イベントとして、頭の片隅に置いておく必要があります。

 

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