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EV化で気になる、プラチナ・パラジウムの“自動車鉱山”からの供給圧力
吉田 哲
週刊コモディティマーケット
コモディティ(商品)をお取引いただく上でのコメント・アイディアを提供するレポートです。金をはじめとした貴金属、原油をはじめとしたエネルギー関連銘柄、とうもろこし・大豆などの穀物な…

EV化で気になる、プラチナ・パラジウムの“自動車鉱山”からの供給圧力

2017/12/15
・ここ数年間プラチナ価格低迷の最も大きな原因は、EV(Electric Vehicle 電気自動車)台頭を意識した需要減少懸念よりも、自動車触媒向け需要がパラジウムへシフトしたこと
・欧州5カ国でEVシフトが進んだ場合に想定される、5カ国の自動車触媒向け貴金属消費の推定減少量は2016年比で合計およそマイナス45トン。欧州の自動車触媒需要を8%程度減少させると見られる
・EV化が進む過程で想定される自動車の買い換え需要の拡大は、触媒向け貴金属の“自動車鉱山”からの供給を大きく増加させる要因になる
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プラチナ価格低迷の最も大きな原因は、EV台頭を意識した需要減少懸念よりも、自動車触媒向け需要がパラジウムへシフト

 ここ数年間のプラチナ価格低迷の最も大きな原因は、EV台頭を意識した需要減少懸念よりも、自動車触媒向け需要がパラジウムへシフトしたこと。

 以下の図は、プラチナ、パラジウム、金(ゴールド)の値動きを示したものです。CME(シカゴマーカンタイル取引所)のドル建ての先物価格です(期近 月足終値)。

 いずれも1トロイオンス(およそ31グラム)あたりの価格ですが、各貴金属間の価格の上下の関係が入れ替わりながら推移していることがわかります。

 プラチナと金においては、2015年1月におよそ1年10カ月ぶりにプラチナ価格が金価格よりも安くなりました。また、プラチナとパラジウムにおいても、2017年9月におよそ16年ぶりにプラチナ価格がパラジウム価格よりも安くなり、金とパラジウムは現在もその状況が続いています。

 プラチナは、金、そしてパラジウムとの比較において、2011年5月までは2000年ごろの供給不安を背景としたパラジウムが大きく上昇したときを除けば、3つの中で最も価格が高い貴金属でした。しかし、プラチナ価格はその後、下落トレンドとなり、上述の通り、金より、そしてパラジウムよりも安くなりました。

図:プラチナ、パラジウム、金(ゴールド)の先物価格の推移(期近 月足終値) 単位:ドル/トロイオンス

出所:CMEのデータをもとに筆者作成

 

 この背景には何があるのでしょうか?

 昨年ごろから世界的に大きな話題となっているEV(Electric Vehicle 電気自動車)が台頭した際に想定される、世界的なプラチナ需要の減少懸念でしょうか?

 仮にそうだとすれば、同じく自動車の排ガス浄化装置に用いられているパラジウムも同様の理由で価格が下落してもおかしくはありません。しかし、パラジウム価格はプラチナ価格が下落する一方で、大きく上昇しています。これにより、プラチナ価格はパラジウム価格を下回ったわけです。

 以下は、主に自動車の排ガス浄化装置(以下、自動車触媒)に用いられる貴金属(プラチナ、パラジウム、ロジウム)の需要の内訳です。EV台頭を意識する展開となれば、自動車触媒向け需要がプラチナよりも高い、パラジウム価格が下落することが想定されますが、実際はそのようにはなっていません。

図:自動車の排ガス浄化装置に用いられる主な貴金属の需要の内訳 (2016年)

出所:トムソン・ロイター GFMS「Platinum Group Metals Survey 2017」より筆者作成

 ここ数年間のプラチナ価格の下落傾向は、EV台頭を意識した需要減少懸念を背景としたものだけではない可能性があります。また、フォルクスワーゲン問題は2015年9月に発覚しましたが、すでにプラチナ価格の下落は2010年ごろから始まっていました。

※フォルクスワーゲン問題についてはこちら

 

 フォルクスワーゲン問題も、EV台頭を意識した需要減少懸念も、プラチナ価格の下落傾向に拍車をかけた要因だと思われますが、根本的な下落要因ではないと考えられます。

 以下は、上記3つの貴金属(プラチナ・パラジウム・ロジウム)の自動車触媒向けに用いられた数量の合計を示したグラフです。

図:自動車触媒向けに用いられた3つの貴金属の数量(世界合計) 単位:トン

出所:トムソン・ロイター GFMS「Platinum Group Metals Survey 2017」より筆者作成

 世界の堅調な自動車生産動向を背景に、これら3つの貴金属の自動車触媒向けの消費量は、金融危機直後以降、増加傾向にあり、2016年には過去10年間の最高となる352.3トンに達しました。世界的に、自動車触媒向けの需要は拡大傾向にあることがわかります。

 加えて言えば、内燃機関を利用した自動車の生産が拡大傾向にあるということです。(2017年のデータは2018年前半中に公表される予定です)

 また、以下は、上図を3つの貴金属ごとに分解したグラフです。

図:貴金属別の自動車触媒向け消費量の推移(世界合計) 単位:トン

出所:トムソン・ロイター GFMS「Platinum Group Metals Survey 2017」より筆者作成

 

 これらの図より、以下の点がわかります。

1.世界の自動車触媒向けの貴金属の消費は、金融危機後の2009年以降、拡大傾向にある。2016年には過去10年の最高に達した

2.この拡大傾向の中で、全体の消費を押し上げたのは、パラジウムである。2016年時点では、パラジウムの自動車触媒向け需要はプラチナの同需要の2倍以上である。

3.プラチナとロジウムの自動車触媒向け消費は、金融危機以降、横ばいである。

 

 地区別にこれらの3つの貴金属の自動車触媒向け消費量を示したのが以下のグラフです。特に目立った変化があった、欧州と中国についてです。

図:貴金属別の自動車触媒向け消費量の推移(欧州) 単位:トン

出所:トムソン・ロイター GFMS「Platinum Group Metals Survey 2017」より筆者作成

 

図:貴金属別の自動車触媒向け消費量の推移(中国) 単位:トン

出所:トムソン・ロイター GFMS「Platinum Group Metals Survey 2017」より筆者作成

 上記の2つのグラフより以下のことがわかります。

欧州でプラチナからパラジウムへのシフトが起きた

 欧州で自動車触媒向けに用いられている貴金属において、2010年から2011年にかけてプラチナからパラジウムにシフト。ちょうどプラチナ価格が下落に転じ始めたころです。フォルクスワーゲン問題が発覚したことで、欧州での自動車生産がディーゼル車からガソリン車にシフトしたことが一因であるとも言われていますが、パラジウムへのシフトは同問題発覚より以前より起きていました。このシフトの一因として、パラジウムがプラチナよりも価格が安かったことがあげられると考えています。

 

欧州の自動車触媒向け消費の総量はゆるやかに増加傾向

 欧州の自動車触媒向けの消費の総量はゆるやかに増加傾向です。パラジウムへのシフト後も増加しています。フォルクスワーゲン問題発覚後も、欧州での自動車生産は増加しています。

 

中国でのパラジウムの消費が拡大している

 中国で自動車触媒向けに用いられている貴金属において、パラジウム消費が拡大しています。2016年には欧州での自動車触媒向けのパラジウムの消費量を上回りました。この10年間で最も少なかった2008年の14.9トン年に比べれば、2016年は3倍の60.7トンとなりました。欧州の需要がもう一つ生まれたイメージです。

 

中国でのプラチナの消費が伸びていない

 急増する同国の自動車触媒向けのパラジウム消費に対して、プラチナの同消費は低迷したままです。パラジウムはガソリン車で、パラジウムはディーゼル車で用いられることが多いとされますが、中国では排ガス規制などの政策的な面などから、プラチナではなくパラジウムが同国の事情に合っているのだと考えられます。

 このように、欧州でのプラチナからパラジウムへのシフト、中国でのパラジウム消費の拡大・プラチナ消費の低迷が、プラチナ価格の下落、パラジウム価格の上昇、その結果としてプラチナ価格がパラジウム価格を下回る(パラジウム価格がプラチナ価格を上回る)という価格の関係の変化につながったと考えられます。

 

5カ国の自動車触媒向け貴金属消費の推定減少量は2016年比で合計およそマイナス45トン。欧州の自動車触媒需要を8%程度減少

 欧州5カ国でEVシフトが進んだ場合に想定される、5カ国の自動車触媒向け貴金属消費の推定減少量は2016年比で合計およそマイナス45トン。欧州の自動車触媒需要を8%程度減少させると見られる。

 現在、欧州では法整備が進んでいる国、意向が示された国など、温度感はさまざまですが、ガソリン車、ディーゼル車の新規販売を禁止し、その代替としてEVを促進することを謳う国が次々に現れています。

 本レポートでは、ノルウェーとオランダ(2025年までに新規販売停止)、ドイツ(2030年まで)、フランスと英国(2040年まで)の合計5カ国について、どれだけの自動車触媒向けの貴金属の消費が減少するのかを、条件を付けた限定的なものですが、シミュレーションしたいと思います。

図:各地域における自動車生産台数、自動車触媒向け貴金属消費量、1台あたりに用いられた触媒用貴金属の量(筆者推計)(2016年)

出所:OICAのデータおよびトムソン・ロイター GFMS「Platinum Group Metals Survey 2017」より筆者作成

 

※自動車生産台数は、乗用車、小型商用車、トラック、バスなどの合計。欧州や日本の小型車や米国のピックアップトラックなどを含む広義の意味での自動車の生産台数。

 上記の条件において、欧州での自動車生産においては、自動車触媒向けとして1台あたりおよそ5.9グラムの貴金属が使われていると推測されます。他の地域と比べて量が多いのは(逆に中国や“その他”の地域が少ないのも)、自らに課した環境基準に対応するためであると考えられます。

 

また、以下は、先述の5つの国の乗用車の生産台数と販売台数です。

図:欧州5カ国の乗用車の生産台数・販売台数(2016年)

出所:OICAのデータより筆者作成

 

 5カ国を「自動車ネット輸出国」・「自動車ネット輸入国」・「自動車輸入国」の3つに分類しました。

 この5カ国が、各々が掲げた期限までに減少させる自動車触媒向け貴金属の自国内での消費量を、自動車ネット輸出国は販売台数分、自動車ネット輸入国は生産台数分、自動車輸入国は自国で生産が行われていないため「影響なし」とします。

※これらの国に自動車を輸出する国が自動車を製造する際に、内燃機関の自動車からEVにシフトさせ、その結果、自動車触媒向けの貴金属の消費が減少することも考えられますが、本レポートでは5カ国での増減をシミュレーションすることを目的としているため、考慮外としています。

 この結果、2016年分をもとに考えれば、5カ国は765万台を順次、EVにシフトし、それに伴い、自動車触媒向けの貴金属の消費量は減少していくことになると考えられます。

 この765万台と、先述の欧州における1台あたりの自動車触媒向け貴金属消費量を掛け合わせた、想定される5カ国における同消費量の減少分は45.1トン(765万台 × 5.9グラム/台)となります。この45トンを、2016年の自動車触媒向けに用いられた各貴金属の比率をもとに、貴金属別に置きなおしてみると以下のようになります。

 

図:本シミュレーションにおける貴金属別、自動車触媒向け消費の想定減少量

出所:OICAのデータおよびトムソン・ロイター GFMS「Platinum Group Metals Survey 2017」より筆者作成

 

 各貴金属の消費量の想定される減少幅は次のとおりです。

図:本シミュレーションにもとづいた欧州における自動車触媒向け貴金属消費量の推移

出所:OICAのデータおよびトムソン・ロイター GFMS「Platinum Group Metals Survey 2017」より筆者作成

 欧州5カ国で、新車販売を順次EVにシフトした場合、欧州の自動車触媒向けの貴金属の消費量が減少し、将来、欧州全体の同需要を40%程度減少させると想定されます。(2016年比)

 

EV化が進む過程で想定される自動車の買い換え需要は、触媒向け貴金属の“自動車鉱山”からの供給を大きく増加させる要因

 EVの台頭の話題は、自動車触媒向けの貴金属の消費を減少させる、という話題につながりますが、これまでこれらの貴金属が用いられてきた内燃機関を持つ自動車がスクラップされ、それにより供給が増加する、という話題にもつながります。

 以下の図は、さきほど行ったシミュレーションで推定した、45トンの消費が順次減少していくことについて、逆に順次45トンのスクラップによる供給が増加したことを想定したものです。

 つまり、EV化の話は買い換えの話につながるものであり、買い換えの結果、不要な内燃機関を持つ自動車が増える話でもある、ということです。

 そのときの各貴金属の相場もかかわるため、必ずしもEV化とスクラップからの供給の増加が同時進行するわけではありませんが、宝飾品と異なり、一般の人が不要になった自動車を常時使う自動車(EV)とともに保管することは考えにくく、EV化が進めば進むほど、世の中に不要な内燃機関を持つ自動車が増えることになります。

 中古車として販売・輸出などの手段も考えられますが、EV化の波が加速すればするほど、EVへの関心が高まることが想定され、より、内燃機関を持つ自動車は淘汰されていくと考えられます。

 そして、それらの自動車の排ガス浄化装置に用いられているプラチナ・パラジウム・ロジウムといった触媒作用のある貴金属の供給が、スクラップが進むことによって増加すると筆者は考えています。

 多数の電子部品が用いられる都市において、主に不要となった多数の電子部品に金が用いられており、スクラップによって金を抽出できる可能性が秘められている様を「都市鉱山」と言います。

 転じて、EV化が進む国や地域において、EV化に伴い不要となった内燃機関を持つ多数の自動車に触媒用の貴金属が用いられており、スクラップによってその貴金属を抽出できる可能性が秘められている様を「自動車鉱山」と呼べると筆者は考えています。

 本レポートでは、限られた条件ですがシミュレーションをしてみました。そこで想定された45トンが、買い換えを機に、徐々にスクラップからの供給に変わっていけば、各貴金属の供給を増加させていく要因になると考えています。これまでの自動車スクラップからの供給を、2016年比で1.5倍程度に増加させる効果があると考えられます。

図:欧州の自動車からのスクラップによる供給量とシミュレーション 単位:トン

出所:OICAのデータおよびトムソン・ロイター GFMS「Platinum Group Metals Survey 2017」より筆者作成

 また、3つの貴金属それぞれの全体の供給で見ても、スクラップによる45トンの増加は、プラチナ全体の供給を7.8%、パラジウムは9.1%、ロジウムは7.4%増やす可能性があります。

 本シミュレーションは、欧州5カ国を対象としましたが、他の欧州諸国、中国や米国の一部、日本でもEV化が加速すれば、さらに、自動車触媒向け消費の減少・スクラップからの供給増が進む可能性があります。

 EV化は、自動車の買い換えという要素を含むため、自動車触媒向けの貴金属の消費を減らすと同時に、「自動車鉱山」からの供給を増加させる可能性があることへの意識も重要であると考えます。

 

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