EV化が進む過程で想定される自動車の買い換え需要は、触媒向け貴金属の“自動車鉱山”からの供給を大きく増加させる要因

 EVの台頭の話題は、自動車触媒向けの貴金属の消費を減少させる、という話題につながりますが、これまでこれらの貴金属が用いられてきた内燃機関を持つ自動車がスクラップされ、それにより供給が増加する、という話題にもつながります。

 以下の図は、さきほど行ったシミュレーションで推定した、45トンの消費が順次減少していくことについて、逆に順次45トンのスクラップによる供給が増加したことを想定したものです。

 つまり、EV化の話は買い換えの話につながるものであり、買い換えの結果、不要な内燃機関を持つ自動車が増える話でもある、ということです。

 そのときの各貴金属の相場もかかわるため、必ずしもEV化とスクラップからの供給の増加が同時進行するわけではありませんが、宝飾品と異なり、一般の人が不要になった自動車を常時使う自動車(EV)とともに保管することは考えにくく、EV化が進めば進むほど、世の中に不要な内燃機関を持つ自動車が増えることになります。

 中古車として販売・輸出などの手段も考えられますが、EV化の波が加速すればするほど、EVへの関心が高まることが想定され、より、内燃機関を持つ自動車は淘汰されていくと考えられます。

 そして、それらの自動車の排ガス浄化装置に用いられているプラチナ・パラジウム・ロジウムといった触媒作用のある貴金属の供給が、スクラップが進むことによって増加すると筆者は考えています。

 多数の電子部品が用いられる都市において、主に不要となった多数の電子部品に金が用いられており、スクラップによって金を抽出できる可能性が秘められている様を「都市鉱山」と言います。

 転じて、EV化が進む国や地域において、EV化に伴い不要となった内燃機関を持つ多数の自動車に触媒用の貴金属が用いられており、スクラップによってその貴金属を抽出できる可能性が秘められている様を「自動車鉱山」と呼べると筆者は考えています。

 本レポートでは、限られた条件ですがシミュレーションをしてみました。そこで想定された45トンが、買い換えを機に、徐々にスクラップからの供給に変わっていけば、各貴金属の供給を増加させていく要因になると考えています。これまでの自動車スクラップからの供給を、2016年比で1.5倍程度に増加させる効果があると考えられます。

図:欧州の自動車からのスクラップによる供給量とシミュレーション 単位:トン

出所:OICAのデータおよびトムソン・ロイター GFMS「Platinum Group Metals Survey 2017」より筆者作成

 また、3つの貴金属それぞれの全体の供給で見ても、スクラップによる45トンの増加は、プラチナ全体の供給を7.8%、パラジウムは9.1%、ロジウムは7.4%増やす可能性があります。

 本シミュレーションは、欧州5カ国を対象としましたが、他の欧州諸国、中国や米国の一部、日本でもEV化が加速すれば、さらに、自動車触媒向け消費の減少・スクラップからの供給増が進む可能性があります。

 EV化は、自動車の買い換えという要素を含むため、自動車触媒向けの貴金属の消費を減らすと同時に、「自動車鉱山」からの供給を増加させる可能性があることへの意識も重要であると考えます。

 

▼もっと読む!著者おすすめのバックナンバー3

12月8日:歴史的な水準まで達した原油生産量。米国の原油事情を再確認

9月29日:バック・トゥ・ザ・「有事の金」。北朝鮮でどうなる?

4月28日:今は“代替通貨”として金(ゴールド)を見ていくことが重要