世代間の軋れき

 現在、サウジアラビアで起きていることは、世代間の対立ととらえることもできます。

 これまでは長老たちのコンセンサスによって主導されてきました。
サウジアラビアは人口動態的に若者がたいへん多く、彼らはコンセンサスを重視する、いままでのやり方は通用しないと考えはじめています。

 サウジアラビアはもともと広大な土地に遊牧民が住んでいた関係で、人口の増加は自然環境や放牧の経済的制約によって抑えられていました。

 サウジアラビアを建国したアブドラアジズ国王は、20世紀に入り中東の石油開発が注目され始めていたことを利用し、アメリカのスタンダード石油を1933年に開発パートナーに招き入れ、原油収入に頼る国家運営の方向を打ち出します。

 アブドラアジズ国王には4人の正妻が居た関係で、36人の息子が居ます。だから王位や政府の要職を巡って、王子たちは競争を繰り返してきました。大体、それは母方の血筋による連携のかたちを取ることが多かったですが、いろいろな派閥ができることは容易に想像して頂けると思います。

 政府機関の要職にメンバーの一人が就くと、その派閥の王家内での影響力が増すというわけです。

 これまではいろいろな派閥に要職を分散し、力の均衡を形成することで、コンセンサスに基づく政治を行ってきました。しかしアブドラアジズ国王の息子たちは皆、80歳を超える高齢となっており、そうやって丁寧に作られたコンセンサス志向型のシステムは崩れつつあります。

 しかもそのコンセンサス志向型システムは原油収入に依存してきたので、「ばらまき」ができなくなった今、新しい指導体制を必要としているのです。

 ムハンマド・ビン・サルマン皇太子による今回の改革は、したがって「サウド家のリストラ」と言う風にも捉えることができるのです。

 ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、「親の世代が享受したような、原油収入の特権にあやかることは、もうできない」ということを痛感しているサウジアラビアの若者から熱烈に支持されています。