米国株はどこまで上昇できるか?

 こうした足元の米国株市場の強さの背景には、先週末に公表された9月分の米雇用統計の強い結果を受けて、米経済の「ソフトランディング(軟着陸)」シナリオに自信を深めつつあることが反映されたものと思われます。

 また、米金融大手のゴールドマン・サックスは、米国における今後1年間の景気後退に陥る確率を20%から15%に引き下げたほか、2024年末のS&P500の見通しを5,600pから6,000pに引き上げています。9日(水)時点のS&P500の終値が5,792pでしたので、年内にあと200p(3.5%)程度の上昇を見込んでいることになります。

 2024年末まで3カ月を切りましたが、ゴールドマン・サックスが予想するように、S&P500の上昇余地(3.5%)が、「高いハードル」なのかどうかが気になるところです。

 確かに、足元の米株市場は高値圏での推移が続いていますが、市場環境を見渡すと、米大統領選挙の不透明感をはじめ、中東情勢などの地政学的リスクへの警戒、決算発表シーズンを前にした様子見、根強い景気後退懸念、金利が足元で上昇傾向にあることなど、意外とネガティブな要素が多いことに気付きます。

 とりわけ、金利については、米10年債利回りが4%台を超えるところまで上昇しています。

<図5>米10年債利回り(日足)の動き(2024年10月9日時点)

出所:楽天証券WEBサイトより筆者作成

 一般的なセオリーでは、金利の上昇は株価にとって重しとなりますが、それでも米国株市場が強いのは先ほども述べたように米景気のソフトランディングに対する自信の裏返しとも言えます。

 9月の米FOMC(連邦公開市場委員会)では0.5%の利下げが決定され、今後も利下げが実施される見通しとなっていますが、「ここから1~2年は利下げサイクルに入ることで金利が低下していくが、ソフトランディングが成功できれば、その後は景気拡大に伴って長期的な金利は上昇していく」という理屈ならば、足元の10年物の金利が上昇してもおかしくはありません。

 見方を変えれば、米国株市場は利下げ期待と景気の堅調さの「いいとこ取り」をしている面があると言えます。

 ただし、同じ金利上昇であっても、それが「ソフトランディングの自信の表れ」なのか、それとも「インフレ再燃警戒」なのか、「財政悪化に対する不安の火種」なのか、今後の状況によって受け止め方が変わっていく可能性があります。

 実際に、10日(木)の日本時間21時30分に公表された、米9月のCPI(消費者物価指数)は、前年比で2.4%上昇となり、前回の8月分(2.5%上昇)からは低下したものの、市場予想(2.3%増)を上回り、インフレの縮小ペースが鈍化する結果となりました。

 これを受けた直後の米10年債利回りは、4.1%台まで上昇したかと思えば、すぐに4.04%台に戻すなど、やや荒い反応となっています。

 実は、CPIと同時刻に公表された米失業保険申請件数が予想以上に増加し、今後の労働市場での失業率上昇が懸念される結果となっていました。

 つまり、インフレ鈍化があまり進展しなかったCPIは「利下げをしにくくなる」要因、そして、失業保険申請件数の増加は、「利下げの背中を押す」要因となるため、背反する指標の結果の組み合わせが市場の反応を迷わせた面があると言えそうです。