良いところまできた日本のデフレ脱却4条件

 しかし、正常化がなぜ今年ではなく、来年なのか。これには、正常化に踏み切ることを正当化するための指標の動き、つまりエビデンスが必要という事情があります。

 特に重要なのが、日本がデフレから脱却したかどうかを判断する際に重視される「CPI(消費者物価指数)」、「GDP(国内総生産)デフレーター」、「GDPギャップ」、「ULC(単位労働費用)」という4つの指標です。

 これらがいずれも安定的にプラスの伸びを示すことが、デフレ脱却の条件として国会でもしばしば議論されてきました。日銀としても説明責任の観点からそれを無視することはできません。

 これまで日銀の高官が講演などでデフレ脱却を口にするとき、必ず「物価が持続的に下落するという意味での」という枕詞を付けてきたのも、デフレ脱却の判断に必要な物価以外の指標がプラスでなかったことが背景にあります。しかし、そうした状況もようやく解消されつつあります。以下で簡単に見ておきましょう。

 図表1は、生鮮食品及びエネルギー除く消費者物価指数の前年比です。財の価格はピークアウトしていますが、賃金の影響が大きいサービスの価格はむしろ強含んでいます。賃金上昇の影響が物価に影響を及ぼし始めた表れと見ることができ、今回の高インフレは予想以上に長引くかもしれません。

図表1 消費者物価指数(生鮮食品及びエネルギー除く)

 図表2は、GDPデフレーターの前年比です。資源を輸入に頼る日本では、資源価格が上昇すると割り負けるため(交易条件の悪化)、GDPデフレーターが下落する傾向があります。

 しかし、最近では、輸入物価の落ち着きにより交易条件が改善し、GDPデフレーターが上振れています。2023年4-6月期は交易条件の寄与度もプラスとなり、GDPデフレーターは前年比3.5%の高い伸びとなりました。図表1と2を見る限り、物価面では明確にプラスと言えるでしょう。

図表2 GDPデフレーター

 問題は、GDPギャップとULC(単位労働費用)です。図表3には、内閣府が推計しているGDPギャップと、筆者が計算したULCを掲載しています。ULCは前年比1%程度と、プラスとはいえ低い伸びに止まっていますが、最近の賃金情勢を勘案すると、今後プラス幅を拡大させていくと考えられます。

 一方、GDPギャップは、2023年4-6月期に辛うじてプラスになりましたが、これが今後しっかりプラスで推移していくかどうかを見極めるには、もう少し時間がかかりそうです。

図表3 GDPギャップと単位労働費用