長期視点では「中央銀行」に注目

「中央銀行(Central bank)」は、通貨を発行したり、雇用と物価を調節するために金融政策を検討・決定したり、事態が急変した時のために外貨準備高を保有したりする、公的な金融機関です。「銀行の銀行」とも呼ばれます。

 各国の中央銀行の多くが外貨準備高の一部として金(ゴールド)を保有しています。今年に入り、中央銀行が積み上げた量(差引合計)は、金(ゴールド)の全需要のおよそ20%を占めます(WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)のデータより)。このことは、中央銀行の動向が金(ゴールド)市場に大きな影響を与える存在であることを示しています。

図:中央銀行による金(ゴールド)積上げ量(差引合計)の推移 単位:トン

出所:WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の資料をもとに筆者推計

 上図のとおり、ウクライナで危機が勃発したり、米国で急速な利上げが行われたりした2022年の積上げ量(差引合計)は、統計史上最大となりました。リーマンショックが発生した2008年以降、大きな規模の積上げが続いていた中での出来事でした。

 WGCが公表した「中央銀行調査(2023年)」の結果によれば、中央銀行たちは主に「歴史的地位」、「危機時のパフォーマンス」、「長期的な価値の貯蔵/インフレヘッジ」、「効果的なポートフォリオの分散化」を目的とし、金(ゴールド)を保有しているようです。

「金(ゴールド)保有時の意思決定に関連するトピックは何ですか?」という質問で、以下の結果が得られています。

図:金(ゴールド)保有時の意思決定に関連するトピックは何ですか?(2023年)(複数回答可)

出所:WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の資料をもとに筆者推計

「歴史的地位」については、回答した先進国の中央銀行全て(100%)が選択しましたが、新興国は3分の2強の69%にとどまりました。また、当該選択肢以外は全て、新興国の割合が先進国よりも高くなりました。

 新興国の中央銀行は、金(ゴールド)に対し、危機時でもパフォーマンスが上がる、長期的な価値保全・インフレヘッジに効果を発揮する、効率的なポートフォリオ構築に役立つ、デフォルトしない、流動性が高い、政治リスクを低減するなどを、期待しているようです。

 こうした結果から、先進国の中央銀行は金(ゴールド)を「伝統的資産」として認識していると考えられます。新興国の中央銀行は「戦略的資産」として認識していると、考えられます(下位ではあるが、「制裁への懸念」「脱ドル政策の一環」なども選択されている)。