ブリンケン訪中直前に起きた中国気球の領空侵入と米軍による撃墜

 今年1月28日、米領空内に侵入した中国の気球を米軍が確認しました。2月1日、モンタナ州の上空に気球が到達すると、バイデン大統領が軍に対して「撃墜せよ」と指示を出します。ブリンケン長官はワシントン時間の3日夜に北京へ向けて飛び立つ予定でしたが、同日朝(北京時間夜)、王毅政治局委員兼中央外事工作弁公室主任と電話会談をし、「冷静に、プロフェッショナルな態度で突発事件に対処することが大切だ」としましたが、この時点で訪中は延期する旨を確認しています。

 王氏は「気象研究のための民間用の無人飛行船が不可抗力により米国に迷い込んだことは遺憾」と表明。自国に非があることは一応認め、ブリンケン氏もそこに留意、外交的関与を続けつつ、状況が許せばすぐにでも北京を訪問する用意があると応じました。この時点では、米中は引き続き対話を行っていく姿勢を有していたと言えます。

 事態が急展開したのは翌日の4日、米軍が気球を撃墜したと発表したのです。そもそも、王氏も使用しているように、中国側は気球とは呼びたくなく、「民間用の無人飛行船」と位置付けている。一方、米国側はオースティン国防長官も明言しているように、それを「米本土の戦略的拠点を監視する目的で中国が使っていた偵察気球」とみています。そもそもあの気球とは何なのか、を巡って米中間では主張が異なり、ここにも両国間の戦略的相互不信という不都合な真実がにじみ出ているのです。

 自国の気球が撃ち落とされたのを受けて、5日、中国外交部は「強烈な不満と厳正な抗議」を表明、「米国が武力を行使して民間の気球を撃ち落としたやり方は明らかな過剰反応」と反発しました。同日、中国国防部は同様のコメントをしつつ、「必要な手段を用いて同じような状況に対処する権利を保留する」という立場を示しています。要するに、仮に今後、米国が偵察目的で気球を飛ばし、それを中国の領空で発見した場合には、ちゅうちょなく撃墜する、という意思表示です。

 米国はこの問題を機に米中関係で主導権を握るべく積極攻勢をかけているように見受けられます。国防総省の高官は4日、「中国の偵察気球が米国領空を飛行したのは今回が初めてではなく、トランプ前政権時代に少なくとも3度、バイデン政権発足早々にも1回あった、ただ今回ほど長時間の飛行ではなかった」と発信。ロシア・ウクライナ戦争でもそうでしたし、今後台湾問題の動向を捉える上でも重要ですが、米国当局からのインテリジェンス情報の出し方、そのタイミングと内容を含め、これまで以上に注目していく必要があると思います。