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雇用コスト指数とスタグフレーション

 雇用市場のデータに関して、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は「雇用コスト指数(ECI)」の重要性について触れている。ECIとは、賃金と、賃金以外で雇用にかかわる福利厚生費などの費用を含めた、企業が実際に負担する雇用コストを示した指数だ。

 ECIは全体の約7割を賃金が占めている。インフレを目標値の2%まで引き下げるためには、賃金上昇ペースの減速が不可欠だ。しかし、パウエルFRB議長の期待に反して第2四半期のECIは1.3%と、第1四半期につけた過去最高の1.4%からほとんど下がらなかった。

 労働者を確保するためには、競合相手よりも高い給料やボーナスを支払う必要がある。米国の平均労働賃金は、過去1年で+5.0%以上も上昇した(ちなみに同時期の日本の平均賃上げ率は半分以下の+2.1%)。最近の調査によると、転職者の半数が10%以上の収入アップ、そのうち9%は50%以上もアップしたということだ。

 これら労働コストの大幅上昇は価格に転嫁され、インフレ率を高止まりさせている。米企業の7割以上が、コストの一部または全てを価格転嫁しているなかで、FRBが「物価の安定」の使命を達成するためには、まず雇用市場の熱を冷ます必要がある。

 しかし、米労働市場における人手不足は依然として深刻だ。米国では毎月10万件以上の新規雇用が発生していて、新入社員の数を上回っている。

 賃金上昇とインフレ上昇が止まらなければ、FRBは利上げを続けるしかない。パウエルFRB議長は米経済を犠牲にしてもインフレを終わらせるつもりだ。米経済が来年リセッション入りすることはほぼ確実といわれている。しかしリセッションよりも心配なのは景気後退と同時にインフレが進行する「スタグフレーション」の危険性が高まっていることだ。

 最悪のシナリオを回避するには、労働市場に労働者が戻ってくることだ。物価高など生活費の上昇による実質所得の減少が、FIREなどでいったん引退した人々の仕事復帰を促す。その結果平均賃金が下がりインフレが低下する。これがFRBの期待していたことだ。

 しかし、いくら待っても労働者は戻ってこない。米労働市場の就業者数は、2021年の1月から9月までの月平均で55万人増加したが、2022年の同期間では、44万人しか増えていない。利用可能な労働力リソースがほぼ使い果たされてしまったのだ。つまり、雇用市場のヒートアップは続き、企業は労働力を確保するために賃金を引き上げ続けることになる。そしてインフレは止まらない。



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出所:楽天証券作成