米銀の決算

 米国の銀行の決算が出そろいました。結論から言えば消費者ならびに企業に対する貸付の内容は悪化しておらず、今後米国が景気後退局面に入った場合でも、それらの貸付が焦げ付くことで銀行経営を脅かすリスクは極めて低いと思われます。

 これはリーマンショックのときと好対照です。あの時は銀行が次々に潰れるリスクがあり、金融機関が相互不信に陥った結果、融資がパッタリと止まってしまいました。それが不況を深刻なものにしたのです。

 ひるがえって今回は監督当局が銀行に対し自己資本の面で高いハードルを要求したこともあり、融資の焦げ付きも極めて低いため、今後景気が暗転した場合でも銀行経営は岩盤だと思います。

 そのことは仮に景気後退が到来してもリセッションは浅く、米国経済はすぐに立ち直れる公算が高いことを意味します。

JPモルガンチェース

 JPモルガンチェース(ティッカーシンボル:JPM)の第3四半期決算はEPS(一株当たり純利益)が予想$2.85に対し$3.12、売上高が予想318.8億ドルに対し327.2億ドル、売上高成長率は前年同期比+10.4%でした。

 貸倒引当金は15.4億ドルでした。損金計上は7億ドル、リザーブビルドは8億ドルでした。これらは全体的にみれば取るに足らない金額です。

 FRB(米連邦準備制度理事会)が政策金利をぐいぐい引き上げた関係で純金利収入は前年同期比+34%の176億ドルと急伸しました。一方、非金利収入は前年同期比▲8%の159億ドルでした。

 純金利イールドは2.09%と急改善しています。前年同期は1.62%でした。

 クレジットカード・ローン残高は1,680億ドルでした。前年同期は1,420億ドルでした。カード・ネット・チャージオフ比率は1.4%でした。前年同期は1.39%でした。つまりクレカの与信内容はほとんど劣化していないのです。

 コーポレート投資銀行部門ではIBD(投資銀行本部)のビジネスは低調でしたが市場証券サービス部門、とりわけ債券部売上高は前年同期比+22%の44.7億ドルと良い成績でした。

 JPモルガンチェースのROE(株主資本利益率)は15%でした。前年同期は18%でした。

バンク・オブ・アメリカ

 バンク・オブ・アメリカ(ティッカーシンボル:BAC)の第3四半期決算はEPSが予想78¢に対し81¢、売上高が予想234.6億ドルに対し245億ドル、売上高成長率は前年同期比+7.6%でした。

 純金利収入は137.7億ドルでした。前年同期は110.9億ドルでした。数字が伸びている原因はFRBによる利上げです。預金金利の更新が政策金利の利上げよりタイムラグを持って行われていることが純金利収入の増加に寄与しました。

 一方、非金利収入は107.4億ドルでした。前年同期は116.7憶ドルでした。

 純金利イールド(FTEベース)は2.06%でした。前年同期は1.68%でした。

 貸倒引当金は8.98億ドルでした。前年同期は6.24億ドルの解除でした。前期は5.23億ドルでした。ネット・チャージオフ・レシオは0.20%でした。前年同期は0.20%でした。前期は0.23%でした。

 消費者部門損金計上は4.59億ドルでした。前年同期は3.29億ドルでした。前期は5.25億ドルでした。消費者部門ネット・チャージオフ・レシオは0.41%でした。前年同期は0.31%でした。前期は0.47%でした。

 商業部門損金計上は6,100万ドルでした。前年同期は1.34億ドルでした。前期は4,600万ドルでした。商業部門ネット・チャージオフ・レシオは0.04%でした。前年同期は0.11%でした。前期は0.03%でした。

 バンク・オブ・アメリカの貸付内容も極めて健全だと思います。

 バンク・オブ・アメリカの債券部売上高は25.7億ドルでした。前年同期は20.3億ドルでした。

 同行のROEは10.37%でした。前年同期は11.08%でした。

シティグループ

 シティグループ(ティッカーシンボル:C)の第3四半期決算はEPSが予想$1.45に対し$1.50、売上高が予想182.8億ドルに対し185.1億ドル、売上高成長率は前年同期比+5.9%でした。

 純金利収入は前年同期比+18%の125.6億ドルでした。非金利収入は前年同期比▲12%の59.45億ドルでした。純金利マージンは2.31%でした。前年同期は1.99%でした。

 NCL(損金計上)は8.87億ドルでした。前年同期は9.61億ドルでした。リザーブビルドは4.41億ドルでした。前年同期は11.5億ドルの解除でした。貸倒引当金は13.65億ドルでした。前年同期は1.9億ドルの解除でした。融資コミットメントに対する引当は7,100万ドルの解除でした。前年同期は1,300万ドルの解除でした。

 シティグループも他のメガバンク同様、短期金利の上昇の恩恵をこうむっています。貸付内容も健全です。

 ROEは7.1%でした。

ウェルズ・ファーゴ

 ウェルズ・ファーゴ(ティッカーシンボル:WFC)の第3四半期決算はEPSが予想$1.09に対し$1.30、売上高が予想187.8億ドルに対し195億ドル、売上高成長率は前年同期比+3.6%でした。

 純金利収入は121億ドルでした。前年同期比+36%でした。純金利マージンは2.83%でした。前年同期は2.03%でした。

 貸倒引当金は7.84億ドルでした。前年同期は13.9億ドルの解除でした。損金計上額は3.99億ドルでした。前年同期は2.57億ドルでした。ネット・ローン・チャージオフ比率は0.17%でした。前年同期は0.12%でした。支払い遅延ローン残高は55.9億ドルでした。前年同期は70.6億ドルでした。

 ウェルズ・ファーゴも金利上昇の恩恵をこうむっています。貸付内容は劣化していません。

 ROEは8%でした。前年同期は11.1%でした。

モルガン・スタンレー

 モルガン・スタンレー(ティッカーシンボル:MS)の第3四半期決算はEPSが予想$1.51に対し$1.47、売上高が予想133.1億ドルに対し129.9億ドル、売上高成長率は前年同期比▲12.0%でした。

 インスティチューショナル・セキュリティーズ部門売上高は582億ドルでした。前年同期は75億ドルでした。インベストメント・バンキング売上高は12.7億ドルでした。前年同期は28.5億ドルでした。M&Aアドバイザリー・フィーは6.9億ドルでした。前年同期は12.7億ドルでした。株式引き受けフィーは2.2億ドルでした。前年同期は10.1億ドルでした。債券引き受けフィーは3.7億ドルでした。前年同期は5.7億ドルでした。

 株式部門売上高は24.6億ドルでした。前年同期は28.8億ドルでした。債券部売上高は21.8億ドルでした。前年同期は16.4億ドルでした。

 ROEは10.7%でした。前年同期は14.5%でした。

ゴールドマン・サックス・グループ

 ゴールドマン・サックス・グループ(ティッカーシンボル:GS)の第3四半期決算はEPSが予想$7.51に対し$8.25、売上高が予想115.3億ドルに対し119.8億ドル、売上高成長率は前年同期比▲12.0%でした。

 投資銀行部門売上高は前年同期比▲57%の15.76億ドルでした。M&Aアドバイザリー・フィーは前年同期比▲41%の9.7億ドルでした。株式引き受けフィーは前年同期比▲79%の2.4億ドルでした。債券引き受けフィーは前年同期比▲56%の3.28億ドルでした。

 市場部門売上高は前年同期比+11%の62億ドルでした。債券部門売上高は前年同期比+41%の35.25億ドルでした。株式部門売上高は前年同期比▲14%の26.76億ドルでした。

 ROEは11.0%でした。

まとめ

 今回の決算ではJPモルガンチェースの安定感が抜きんでていました。商業銀行部門は各行とも好調、投資銀行部門はフィーの減収が目立ち、唯一債券部だけが好調でした。

 決算カンファレンスコールで各行の経営陣が言っていたことは個人、ならびに企業の台所事情はそれほど悪化しておらず、手に負えない融資の焦げ付きは起きそうもないということです。

 米国経済はこれから不況に入ってゆくのかもしれませんが、その場合でもリーマンショックのようなバランスシートの問題が不況を長引かせるリスクは小さいです。