インドの総選挙の結果

 4月19日にキックオフされ6月1日に投票を終えたインドの総選挙の開票作業が6月4日に終了しナレンドラ・モディ首相が率いるBJP(インド人民党)を中核とするNDA(国民民主同盟)は予想外に苦戦し、543議席ある下院のうち293議席を獲得するにとどまりました。

 選挙前の議席数は303議席だったので今回の選挙で10議席を失った計算になります。

 それでも過半数の272議席は何とか確保できたので連立政権樹立は可能です。

 BJP単独での獲得議席数は240議席でした。

 今後は連立パートナー各党の利害を尊重したコンセンサス的な政策立案を迫られます。これはBJPが目指す改革のペースがスローダウンすることを示唆しています。

 野党国民会議派は99議席を獲得、前回の選挙での52議席から一挙に2倍に迫る議席を獲得しました。国民会議派はラフル・ガンジー氏に率いられておりインド国家開発包括同盟(INDIA)全体では230議席を獲得しました。

 今回当選した議員の任期は5年です。

今後は経済政策に重点が置かれる

 今回の選挙の結果はBJPが推し進める「ヒンズー教の価値観に基づいた国家運営」に有権者がNOを突きつけたことを意味します。

 有権者にとってはインフレ、社会保障、失業などの経済問題のほうが宗教問題よりも重要なのです。

 とりわけモディ首相が新ヒンズー教寺院を建設し彼の支持基盤と考えられてきたウッタル・プラデーシュ州においてBJPが敗北したことは有権者の不満を如実に表しています。

 モディ首相は今回、多くの反対票が投じられたことに鑑み、経済政策を最優先することが予想されます。具体的には製造業の基盤強化、インフラストラクチャの整備、雇用の創出などです。

 それらの課題はBJPの連立パートナーである諸政党が優先したい事項でもあり、その意味において今回の選挙の結果を受けてインドの経済政策が後退するリスクは小さいと言えます。

 BJPはテキスタイル、革製品、工業製品での外資の投資を呼び込むため優遇措置を打ち出すとみられています。

 外国企業がこれまで中国に置いてきた製造拠点をインドにシフトすることを奨励する政策は一層強化されると考えるのが自然です。

最初の100日の政策アジェンダ

 モディ首相は「最初の100日の政策アジェンダ」を発表、50前後の具体的な目標を公表すると みられています。

 それは基本的にはこれまで実施されてきた「メイク・イン・インディア」政策の延長に他なりません。

 すでにインドではたくさんのインフラストラクチャの建設工事が進行していますが、それらは一層加速されると予想されます。

 BJPの「ヒンズー教の価値観に基づいた国家運営」に関して連立パートナーは冷めた見方をしており、大幅に後退することが予想されます。

投資家目線ではむしろ好ましい選挙結果

 以上をまとめると、投資家目線からすれば、今回の選挙結果はモディ政権を「宗教色」から「経済フォーカス」へと引き戻す効果があるので、むしろ好ましいことだと言えます。

 インド株式市場はBJPの苦戦のニュースで大幅安しました。その関係で「しこり」を作ってしまいましたが、それはあくまでも短期的なことであり、長期で見たインドの成長のストーリーには何ら変化はありません。