中国はロシア産原油を割安価格で調達している

「一物一価(いちぶついっか)」は、簡単に言えば「一つのモノには一つの価格」という考え方です(自由経済のもとでは、同一市場、同一時間、同一商品は、同一価格になる、という考え方)。一つのモノに、でたらめに複数の価格が存在することを、否定的にとらえています。

 例えば、さまざまなコモディティ(国際商品)には、それぞれ「指標価格」という、目安になる価格が存在します。原油であればWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格、小麦であればシカゴ小麦先物価格、銅であればLME3カ月先物価格です。一つの価格を指標(みんなの目安)にする考え方は、一物一価の考え方に近いと言えるでしょう。

 今年3月上旬、ウクライナの外相が欧州の大手石油会社がロシア産原油を購入し続けたことに対し、「ロシアの原油にウクライナの血の匂いを感じないのか」などと批判しました。この批判は、原油を「生産地」で明確に区別しています。

 生産国によって取り扱い方を極端に変えるべき、さらに言えば、生産地によって価格が大きく違うことがあり得る、つまり「一物二価(一つのモノに二つの価格)」が起き得ることを示唆する発言だったと言えるでしょう。

 実際、以下のグラフのとおり、ウクライナ危機勃発後、中国では原油の輸入単価(輸入金額÷輸入量)が生産国によって異なる状況が目立ち始めています。

図:中国の国別原油輸入単価(筆者推計) 単位:ドル/バレル

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 中国は、西側が制裁の一環で「買わない」、ウクライナ外相が「血の匂い」を示唆したロシア産原油を、指標価格よりも安く購入しているとみられます(サウジ産原油の輸入単価は指標価格におおむね連動)。

 こうした例より、ウクライナ危機勃発をきっかけに、原油の「一物二価」が発生しつつあることがわかります。この場合の二価とは、国際指標価格とロシアの友好国価格です。

 国際指標価格の上昇は、産油・産ガス国や関連する企業にとって大きなメリットであり、ロシアの友好国価格の下落はロシアが交流を維持している国にとって大きなメリットです。西側以外を中心としたさまざまな国が、「一物二価」を発生させたロシアを支持するきっかけになっていると、考えられます。

 ウクライナ危機が長期化すれば、「一物二価」がさらに進み、「一物多価」が世界中で散見されるようになるかもしれません。それは世界で「価格の分断」が進んだことを意味します。この半年間で、「価格の分断」が芽吹いたと言えるでしょう。