「原油市場」でぶつかるロシアと西側の思惑

 ここまで、西側が利上げを敢行している理由を、国内情勢に注目して述べました。ここからは、範囲を西側と敵対するロシアに広げ、西側が利上げなどを行う(原油相場を下げたい)理由、ロシアが資源の囲い込みなどを行う(原油相場を上げたい)理由について、考えます。

図:「原油市場」でぶつかる西側とロシアの思惑

出所:筆者作成

原油相場は「戦場」

 原油相場は今、西側とロシアにとって、相手にダメージを与えたり、メリットを享受したりする場になっています。さしずめ「戦場」と化していると言えるでしょう。西側は利上げなどを敢行し、原油相場に下落圧力をかけています。たとえ景気鈍化が深刻化しても、です。

 一方、ロシアは自国資源の囲い込みを強化したり、ウクライナで蛮行を繰り返し、西側にロシア産のエネルギーを買わないように(制裁を強化するように)仕向けたりして、エネルギー需給を引き締め、原油相場を高止まりさせています。たとえ世界で孤立しても、です。

 原油は「経済の血液」といわれることがあります。経済の循環に欠かせない存在であり、かつ世界の隅々まで行き渡っているもの、という意味です。原油の市場が戦場になっているのであれば、その戦争は世界規模で起きている、さながら「世界大戦」と言えるでしょう。

 この2週間、西側は一丸となり「利上げ攻勢」で原油相場を下落させ、西側なりのメリットを享受し、ロシアにも一定のダメージを与えました。それまで、原油相場が高騰し、西側は劣勢だったわけですが、この2週間は、西側が「反撃」をしたと言えます。

「原油相場上昇」それぞれの意味

 西側にとって、原油相場の上昇は、デメリットが大きくなる要素です。インフレがさらに進行して、社会がより不安定化する、リーダーたちに対する国民の支持が一段と低下するなど、ダメージが大きくなるためです。

 対ロシアでみてもデメリットがあります。原油相場が上昇すれば、ロシアが、ウクライナ戦のための戦費をより多く獲得したり、他の産油国からのさらなる支持を取り付けたりすることを、許してしまうためです。

 一方、ロシアにとって、原油相場の上昇は、メリットが大きくなる要素です。獲得できる戦費や産油国内での発言力が増したり、敵対する西側が高インフレと強い不安感にあえぐ姿を傍観(ぼうかん)したりできるためです。(世界で孤立するというデメリットも発生)

「原油相場下落」それぞれの意味

 西側にとって、原油相場の下落は、メリットが大きくなる要素です。先述のとおりリーダーの支持率が上昇するだけでなく、ロシアの戦費が減少したり、産油国のロシアに対する支持が低下したりするためです。(利上げ起因であるため、景気鈍化というデメリットも発生)

 一方、ロシアにとって原油相場の下落は、デメリットが大きくなる要素です。獲得できる戦費や産油国内での発言力が低下したり、敵対する西側が高インフレから解放され、経済回復が進むことを、許したりしてしまうためです。