「鎖国」できるロシアの狙いは混乱の長期化?

「豊か」かどうか?を基準に考える

 しばしば、その国が「豊かかどうか?」をはかるモノサシに、「一人あたりGDP」が使われます。この値の元になるGDP(国内総生産:Gross Domestic Product)は、一定期間内に国内で生み出されたモノやサービスの総額で、国の経済活動の活況の度合いを示すモノサシの一つです。

 GDPを人口で割った「一人あたりGDP」は、その国の国民一人が、モノやサービスをどれだけ生み出したか、裏を返せばどれだけ消費したかの目安となります。国民一人あたりの生産と消費の規模の大きさは、その国の「豊かさ」のモノサシと言えます。

図:一人あたりのGDP(OECD全加盟国+ロシア・中国) 単位:万ドル

出所:IMF(国際通貨基金)のデータをもとに筆者作成

 OECD加盟国(現在38カ国)の一人あたりGDPは、平均で3万8,780ドルです(IMFのデータより 2020年)。米国は約6万3,000ドル、日本は約4万ドルです。「1万ドル超え」が、先進国入りの登竜門のように見えます。

 その意味では、足元の水準でいえば、ロシアは先進国入りしたかしていないか、という規模感と言えます(原油相場が高騰していた2013年でも1万6,000ドル前後)。ロシアは「豊か?」と問われれば、「先進国ほどではない」と回答することになるでしょう。

「鎖国」をすれば周辺国の混乱を傍観できる

 また、以下の「一人あたり原油輸入量」「一人あたり小麦輸入量」に注目します。ロシアは「資源を持つ国」です。このため、原油や小麦の「一人あたりの輸入依存量」は、先進国に比べて格段に少ないことがわかります。

図:一人あたりの原油と小麦の輸入量

出所:BPおよびUSDA(米農務省)のデータより筆者作成
 先述のとおり、ロシアの豊かさは「先進国ほどでない」ため、過剰なエネルギー消費はなされていません。また、エネルギーも食糧も、他国に依存していません(自給自足できる)。これらのことは、実はロシアの強みとも言えると筆者はみています。

 西側諸国の制裁により、銀行決済システムから主要銀行が排除されたり、エネルギーの不買が本格化したりしている中、他国に対して貿易の際にルーブル建てで決済するよう求めるなど、ロシアは他国との交易が途絶えようとしています。

 つまり日に日に、「鎖国」状態になりつつあるわけです。鎖国することで、周辺国の混乱をある意味傍観できます。インフレにあえぎ、エネルギーや食糧の需給に強い不安が広がる世界を外界とし、自らは「鎖国」状態で時が過ぎるのを待ちます。

 こうした状態が長期化すればするほど、備蓄放出が時間的な限界を迎えたり、インフレが長期化して経済や政治的面で問題が大きくなったりする可能性があります(米国の中間選挙にも影響する可能性あり)。ロシアが自らの利点を生かして「鎖国」をし、時間を経過させ、外界の混乱を拡大しようとしている可能性は、筆者はゼロではないと、考えています。