米株投資に円相場を生かす

 実質円高を招いた理由は他にも、金融政策、金融為替規制、対外投資・ヘッジ行動、日米貿易戦争などさまざまな観点で補足できます。ただ強調したいのは、日本は長らく円高に苦しみ、円高恐怖がトラウマにもなっています。そこから逃れようと、アベノミクス下の異次元金融緩和が円安を促すと、今度は「悪い円安」論がはびこり、「50年来の円安」などと無用な不安を呼んでいます。

 心配性なのか、円高も円安もどちらも進むと、まずは困ったとネガティブになるのが、国内論調の傾向です。

 また、株価次第で論調が振れやすいのも特徴です。円安の最中に日本株が安いと、原油高で企業収益圧迫とか、輸入価格上昇で家計を直撃とかネガティブな解説が増えます。恐らく今後、米株式が業績相場に移り、円安と日本株高が進むと、やはり円安は差し引きプラスという論調も出てくるでしょう。

 構造的な円高・円安は、それを尺度の一つにファンダメンタルズが適切かを検討するのみです。他方、今進行中の円安は、基本的に米金利高サイクルに沿った循環現象です。悪い円安も良い円安もなく、景気サイクルに沿った変動に粛々と対応するのみ。いずれまた方向転換したら、また対応するのみです。

 結論は、円相場を正しく理解し、無用な不安や慢心に陥ることなく、「米業績相場+円安」のWメリットも、そのことがやがてもたらす「Wの悲劇」も淡々と追求しようということに尽きます。現時点は、業績相場自体がまだ「捕らぬ狸の皮算用」ですが、一見面倒な為替ロジックは、中間反落という様子見期間のうちに習得していただきたいと考える次第です。

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