FRBの秘められたマンデート
現在、市場ではインフレが予想を超えて上昇していることを示すデータに注目が集まっている。その一方で、FRB(米連邦準備制度理事会)がドルの購買力を絶え間なく低下させるという、明確に語られてはいないが、確実な目標を持っていることに気付いている人はいないだろう。
FRBは、新しいお金を印刷し、それを経済に押し出すことによって、ドルの価値を弱め、モノの値段を押し上げている。FRBが2%の物価目標を達成した場合、米ドルの購買力は下がっていくことを意味している。
通貨の購買力は、1単位の通貨で購入できる商品とサービスの量である。たとえば、1933年には1ドルで10本のビールを購入することができた。
現在、1ドルで購入できるものはマクドナルドのコーヒー1杯だ。ドルの購買力(購入できるものの観点からの価値)は、価格水準が上昇するにつれて時間とともに減少を続けてきた。
ドルの購買力の推移(1913~2020年)
FRBが設立された1913年当時、1ドルでハーシーズのチョコレートバーを30本買うことができた。より多くのドルが流通するようになると、ドルの購買力が低下する一方で、商品やサービスの平均価格が上昇した。
1929年までに、消費者物価指数は1913年当時より73%高くなり、1ドルで購入できるものはトイレットペーパー10ロールとなった。
1929年から1933年にかけて、デフレとマネーサプライを縮小させたことにより、ドルの購買力は一時的に増加したが、その後、再び減少に転じる。1944年には、ブレトンウッズ協定の下でドルは世界の準備通貨となり、35ドル/オンスのレートでゴールドに固定された。
一方、米国は第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争の戦費を賄うためにマネーサプライを増やした。1944年に20本のコカコーラに相当した1ドルの購買力は、1964年にはドライブイン映画のチケットに減少した。
ニクソン大統領は1971年に金本位制を停止する。当時、1ドルで17個のオレンジを購入することができた。
金融市場におけるイベントとドルの購買力
COVID-19パンデミックによって増幅され、米国のマネーサプライは、ここ数年で急増している
そうした中、カナダ中央銀行は先週、「QE(量的緩和)など、COVID-19のパンデミックに対処するために使用している金融政策ツールのいくつかは、富の不平等を拡大する可能性がある」と認めた。
先月下旬には週40億カナダドルの国債購入を、30億カナダドルに削減し、主要国の中銀でいち早く金融緩和の正常化に動き出している。さらに、カナダ中銀は2021年の経済成長率を6.5%、2022年は3.75%と予想。
失業の減少によって2022年後半には物価上昇率が2%程度に達する見通しを示した。時期は明言していないものの、経済が予想通りに回復すれば利上げを進める可能性が指摘されている。
こうした流れを受けてカナダドルは堅調地合いとなっている。
ドル/カナダドル(日足)
カナダドル/円(日足)
同様に強さの目立つのがイギリスポンドである。ポンドについては上昇の理由をさまざま探しているが、なかなか明確な理由が見つからないのが現状である。
ポンド/ドル(日足)
ポンド/円(日足)
カナダもポンドもADXや標準偏差ボラティリティというトレンド指標を見ていると、ここからはいったん調整相場に入ってもおかしくないが、米国との金融政策の差異から今後もトレンドが発生しやすい通貨ペアであろう。