「実態なきインフレ」で、FRBは金融引締めを実施しないだろう。金にとっては好材料

 ではこの「実態なきインフレ」をはじめとしたさまざまなインフレを、金(ゴールド)市場の動向を考える上で重要な、筆者が提唱する6つのテーマにあてはめてみます。

図:各種インフレと金市場の重要テーマの関係

出所:筆者作成

「インフレ」は、全体的には金(ゴールド)相場の上昇要因になり得るものの(図内の○)、部分的には下落要因にもなり得ます(図内の△や▲)。

 物の本には、インフレは金の上昇要因と書かれていますが、景気が好転しつつある中で、物価が上昇するムードが生じる「インフレ期待発生時」や、実際の需要増加という「実態をともなったインフレ発生時」は、楽観論や株高などが起こりやすく、有事のムードが後退したり、株の代わりに金を保有する妙味が低下したりして、金の上昇要因が弱まる、もしくは下落要因が強まる可能性があります。

 また、インフレ(物価高)というキーワードが盛んに報じられるようになると、期待・懸念の思惑の方向性や、実態の有無にかかわらず、物価を調整する役割を担う中央銀行(日本では日本銀行、米国であればFRB(米連邦準備制度理事会))は、金融引締め策を実施する可能性が生じます。

 金融引締め策では、法定通貨(FRBであれば米ドル)の金利を引き上げたり、資産の買い入れ額を縮小したりするため、法定通貨に対する金の相対的な保有妙味が低下する(金相場の下落要因が生じる)ことがあります。

 中央銀行というテーマにおいては、どのようなパターンであれ「インフレ」は、下落要因になり得ますが、程度の問題で言えば、「実態なきインフレ」の場合が、最も下落圧力が小さくなると考えられます。需要を伴わない実態なきインフレの場合、中央銀行が市中で起きている事象を「インフレ」と認識せず、金融引き締めを行わない可能性があるためです。

 現在のように、金融緩和を実施している場合は、金融緩和を停止しない(金融緩和が続く)可能性があります。金相場としては、下落要因の一つを回避することにつながります。

 先述のように、銅の需要に頭打ち感が生じていたり、石油の需要が「7割経済化」していたりする中で、価格が上昇する(銅相場は史上最高値水準、原油相場はこの半年間で76%上昇)、「実態なきインフレ」状態にあっては、金相場は、中央銀行からの下落圧力を回避しつつ、重要6テーマの複数から、上昇圧力を受けやすくなっていると、筆者は考えています。

 例えば、目先、「期待先行」「実態なきインフレ」などの状況が続けば、金相場は上値を伸ばす可能性があると考えています。具体的には、2021年年初につけた1トロイオンスあたり2,000ドルが、具体的な上値の目標になると、考えています。

 また、金(ゴールド)の他、複数のコモディティ(商品)銘柄がお祭り騒ぎの様相を呈する昨今、複数のコモディティ銘柄の値動きを指数化した金融商品に着目してみるのも、良いかもしれません。

図:NY金先物(期近 月足) 単位:ドル/トロイオンス

出所:マーケットスピードⅡより筆者作成

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

[参考]コモディティ(全般)関連の具体的な投資商品例

投資信託             

 eMAXISプラスコモディティインデックス

 SMTAMコモディティ・オープン

iシェアーズコモディティインデックスファンド゙   

 ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド

 DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)             

 DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)

 損保ジャパン・コモディティ ファンド      

外国株 

 iPathピュア・ベータ・ブロード・コモディティ(BCM)

 インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド(DBC)         

 iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN(DJP)           

 iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト(GSG)