大統領選後の豹変はあるか?

 選挙結果以上に、注目されるのは、選挙後に、大統領が実際にどういう政策を行うかです。大統領選挙キャンペーン中に言っていたことと、当選後に実際にやることが、まったく一致しない大統領も、います。何が選挙戦のためのリップサービスで、何が本当の政策か、選挙後に、慎重にみきわめる必要があります。

 トランプ大統領は、前回の大統領選の最中、言っていたことと、実際にやったことがかなり大きく異なっています。前回の大統領選中には、やや社会主義的、左寄りの発言が目立っていました。「見捨てられた人々が、これ以上見捨てられない社会にする」と言っていました。大企業にネガティブ、低所得層にポジティブな政策を取ると思われていました。そのため、選挙期間中、「トランプ氏が当選したら米国株は暴落する」と言われていました。伝統的な共和党の政策は、資本主義重視なので、共和党内の異端と言われていました。

 ところが、当選が決まったとたんに、発言内容が変わりました。トランプ大統領の「豹変」を好感し、米国株は、トランプ氏当選直後から急騰し、「トランプ・ラリー」と言われました。
トランプ大統領が実際にやった政策は、株式市場重視、大企業重視の、典型的な共和党の政策でした。オバマケアを廃止し、低所得層への給付もさまざまな形で縮小しました。一方、大企業・富裕層に有利な大型減税を、推進しました。減税は納税額が大きい企業・個人ほどメリットが大きく、大企業・株式市場を喜ばせる政策です。一連の、資本主義政策を好感し、米国株は大幅に上昇しました。選挙前後で言動が一致しているのは、米国第一主義で、対外強硬策を取ることだけでした。

 トランプ大統領、バイデン候補が、今やると言っていることで、本当にやることと、実際にはやらないことが、見えてくるのは、来年一般教書演説をする辺りです。その頃のどんでん返しにも注意が必要となります。

 当選した大統領が、思い通りに政策を実行できるかは、議会の協力があるかないかによっても、変わります。現在、下院は民主党、上院は共和党がマジョリティを得ています。大統領選と同時に行われる、議会選挙の結果も重要です。特に、下院のマジョリティをどちらが取るかが重要です。

【参考】大統領選後の「豹変」

 トランプ大統領の「豹変」を振り返ります。

【1】2016年11月:トランプ大統領による、大統領選の勝利宣言

 大統領選挙期間中に、トランプ氏は、過激発言「イスラム教徒の米国への入国禁止」、「メキシコとの国境に壁を建設」、「中国からの輸入品に45%の関税をかける」などを繰り返していました。そのため、株式市場では、トランプ氏が当選すると、株が暴落するというコンセンサスができあがっていました。
 ところが、トランプ氏の勝利宣言は、美しい言葉で飾られており、株式市場にフレンドリーな内容でした。

 2016年11月のトランプ氏「勝利宣言」抜粋
●すべての共和党、民主党の党員に対して、米国の国民として団結することを訴えたい。
●すべての国と共通のグラウンドを持ち、良好な関係を築いていきたい。
●高速道路・橋・トンネル・空港・学校・病院といった社会インフラを再建する。インフラ再建で何百万人の雇用を生み出したい。

トランプ氏の豹変を受けて、2016年11~12月には、トランプ・ラリーと呼ばれた株高・ドル高が進みました。

【2】トランプ大統領の経済政策

 大統領選期間の発言では、トランプ大統領は、低所得者層の味方で、大企業や富裕層に厳しいイメージでした。ところが、実際にやったことは、その逆でした。大規模減税では、大企業・富裕層に大いなるメリットを与えました。その財源として、低所得者向けの給付カットを行いました。

 これまでの共和党大統領と異なる異端児と見られていましたが、実際は、きわめて資本主義色の強い、伝統的な共和党の政策を実行してきたと言えます。米国株式市場は、トランプ大統領の「豹変」を好感して、大きく上昇しました。