利益確定は常に難問である

中長期での運用益獲得をねらう投資家にとって、昨今の上昇相場はありがたい含み益獲得機会となっているはずです。今までコツコツと割安時に資金投入してきた甲斐は報われますし、含み損から含み益に転じれば保有したままであっても精神的にもぐっとラクになります。

しかし利益確定となると投資家にとってはまた別の難問が生じます。「いつ売ればいいのか」「もしかしたらもっと上がるのではないか」「ゴールはまだ遠いのだが売ってもいいのだろうか」と悩みはつきないからです。

タイミング的にいえば、サブプライムローン問題やリーマンショック直前の相場で投資を始めた人、あるいはリーマンショック以降に投資をスタートさせた人の多くは、投資をしたものの塩漬け期間が長く、利益確定した経験があまりないのではないでしょうか。

上手に利益確定を行うことは、「なんとなく投資」から卒業するために欠かせないプロセスです。そこで、まだ利益確定としての売却をしたことのない個人投資家のための「初めての利益確定入門」を考えてみたいと思います。

利益確定の基本的な考え方

まず、利益確定にはやる気持ちを抑えて、基本的なルールを確認しておきましょう。

売り注文をだして約定すれば、あなたの保有していた有価証券を誰かが購入したということになります。この際、購入価格より高い値段で売却をできればその差が譲渡所得ということになります。利益確定の大原則です。

利益を得た際に生じた譲渡益は課税対象です。つまり売却によって得られた利益は全額手元に残るわけではなく、その一部は税金として納めます。現在は10%、2014年1月からは20%が譲渡所得の税率です。

また、売り注文を出し成立すれば、売買手数料が生じます。トレードの条件によって異なりますが(楽天証券の日本株式の売買手数料はこちら)、何らかの費用が生じることになります。

つまり、最終的な譲渡益は、税金と手数料を引いたものとなります。税金は一定率ですから売却益がゼロになることはありませんが、手数料が定額で生じますので売却益が小さい場合は、トータルでマイナスになってしまうかもしれませんので注意が必要です(正確にいえば、売却時の手数料のみでなく、購入時と売却時の売買手数料の合計を考える必要がある)。

まずは投資初心者のために基本中のキホンを整理してみました。

「売る」はおしまいでなく、次の「買う」の始まりである

こうした利益確定の基本ルールを踏まえ、投資初心者に考えてほしいことは「売ればおしまいではない」ということです。

もし、あなたの投資のゴールがもっと先にあったとすれば、今現金化して利益確定した資金について「売った後どうするか」を考えなくてはなりません。仮にあなたの資金ニーズが60歳時であって、今はまだ40代であれば、一度売ったとしても、その資金はまだ運用を継続しなければなりません。

売買手数料を払い納税もした後、売却時と同等の値段でまた買い直しをしたとすれば、そのトレードはほとんど意味がありません。むしろマイナスです。一度売った人は、投資の再エントリーについて考えなければならないわけです。できれば売却時が高値で売り抜け、再び買い直すときは安値であることが理想ですが、そうなるように検討と判断が求められます。

一方で、「売らないままほったらかし」も中長期投資としてはアリですが、なんでもほったらかしが誉められるわけではありません。どんな含み益も確定しなければまだ実現していないわけで、その後また値下がりすれば元の木阿弥になってしまうからです。中長期投資であっても、利益確定を実現させるかは問題であり、どのように実行していくかが問われます。

つまり、利益確定で売ってしまえば投資はおしまいではなく、「売るは、買うの始まり」でもあるわけです。

売りのタイミングをどう考えるか

売りのタイミングをどう考えるかは難しい問題です。まずあまり上策とは言えない方法は「購入時価格を上回ったかどうか」だけを基準とすることです。個人が投資をすれば誰でも損益ラインを考えますので、「購入時価格を上回った」あるいは「購入時価格+売買手数料相当分を上回った」かどうかが判断基準だと考えます。しかし、そこが投資初心者の落とし穴です。

「そもそも、その投資商品の価格は今、割安なのか割高なのか」あるいは「今後値上がり期待があるのか値下がりの可能性が高いのか」をひとつの基準とするべきです。この観点を持たないと、「今日売るのか」「もうちょっと粘って明日売るのか」の判断もつきませんし、塩漬けした商品を抱え込むことになります。

自分の購入時価格は、毎日値動きする市場にとって何の価値もありません。まだ上昇余地があるなら、含み益があっても急いで売る必要はありません。下落する可能性が高ければ含み損があろうと売ったほうがましです。自分の購入時価格がバイアス(偏り)となって、投資判断をくもらせない意識が求められます。

購入時価格を売買判断の基準としない、ということは、自分という小さな存在を超越して神の目線を持ってみるような気分に似ています。あるいは空を飛ぶ鳥の目のようなイメージです。投資においては、自分を離れて俯瞰した目線を持つ経験を積むといろいろ役立ちますので、ぜひチャレンジしてみてください。

しかし、なかなか神の領域にはたどりつけないという人も多いでしょう。割安か割高かの判断を指標等から導き出すのも初心者にはなかなか難問です。何か代わりの投資判断方法はないものでしょうか。