3:フェアな市場価格の情報価値

 株価、為替レートのように市場で形成される価格には、市場参加者の持っている情報と判断が反映する。たとえば、東証一部で売買されているトヨタ自動車の株価は、この株価で売ってもいいと思った参加者と、この株価で買いたいと思った参加者の双方がいて、拮抗した時に形成される。

 投資家はトヨタ自動車のことを詳しく知らなくても、市場で形成されたトヨタの株を買うことで、トヨタに詳しい株主と同じリターンを手に入れることができる。これは、小さくないメリットだ。

 全ての株の株価が、常に、完全に信用できるわけではないが、株価には市場参加者が持つ情報と判断が反映している。「フェアに市場で売り買いされている株であれば、どれを買っても、或いは売っても、大まかには有利不利はない」というのが大まかな現実であり、初心者は、市場に参加することが案外怖くないことを知るべきだ。

 また、ある投資銘柄について自分が儲けるために有利な情報を知っていると思った場合、まず、その情報が既に株価に反映している可能性を疑うべきだ。

 情報は価格に反映する。但し、価格だけを分析しても情報は分からない(チャート分析はリターンの改善には、ほぼ無意味だ)。

4:投資はプラス、投機はゼロサム

 株式投資にはリスクがあるし、外国為替取引にもリスクがある。事後的に運が悪かった場合に大損するかも知れない対象であることは同じだ。共に油断はできない。しかし、両者のリスクは性質が少々異なる。

 外国為替の取引の仕組みを理解することは投資の初心者ばかりでなく、FP(ファイナンシャル・プランナー)や時にはファンドマネジャーにとっても(株から入った人は為替に疎いことがある)、時に難しいことがあるが、為替は「通貨の交換比率と金利をセットで取引しているゼロサムゲーム」だ。「A通貨とAの金利」と「B通貨とBの金利」の、一方を借り入れて他方に換えて運用するという取引が市場では行われているが(銀行間の取引はそうなっている)、B通貨に対する借り入れを行いA通貨・A金利を買い持ちする人は、逆のポジションに人に対して、同じ大きさのリスクを持つが、自国通貨のリスクフリー金利での運用と比較した場合、両者の損益の合計はゼロだ。つまり、外国為替取引は、リスクはあるが原則としてリターンはゼロのゼロサムゲームなのである。

 他方、株式への投資は、企業の資本の一部をある期間提供することであり、その条件は、前述の「割引」の原理によって決まる。この場合、100の資本を1年間提供して、たとえば平均的には105の戻りが期待できるといった、ギャンブルで言うと「100%を超える回収率」が可能だ。割引率の中に「リスク・プレミアム」を含ませることによって、投資のリスクにはリスクに見合ったリターンを与えることが可能だ。

 外国為替、金などを含む商品相場のリスクは、ゼロサムゲーム的ないわば「投機のリスク」であり、株式・不動産・債券などのリスクはリスクを補償するリターンを期待できる「投資のリスク」だ。

 両者に善悪の差はないが、長期的な資産形成に有利なのは「投資のリスク」の方だ。