運用で大事な10個の考え方

 実は、数日にわたって、メモ用紙にあれこれ書いては消しながら、運用教育としてぜひ伝えたいのは何かを考えてみた。

 その過程で浮上し、現時点で生き残ったのは以下の10個のコンセプトだ。以下、個々の項目で説明したい内容を簡単に挙げてみる。

賢くお金をふやす10のポイント

・運用の能率としての「利回り」

・「割引」という考え方

・フェアな市場価格の情報価値

・投資はプラス、投機はゼロサム

・まず手数料を評価せよ

・リスクとの付き合い方

・分散投資で何が得か

・機会費用の考え方

・サンクコスト(埋没費用)の考え方

・他人を信じないことの重要性

1:運用の能率としての「利回り」

 運用の選択肢が複数ある場合に、どの選択肢が最も得なのかを判断するためには、「運用の能率」の評価尺度を理解する必要があるが、それは「利回り」(リターン)だろう。もちろん、複利を理解してもらう必要がある。

 その他の条件が同等な場合、100の投資が(A)1年で105になるのと、(B)2年で110になるのと、どちらが得なのかを判断できないようでは話にならない。

 また、項目を分けるべきか否か少し悩むが、インカムゲインとキャピタルゲインは両方を「合わせて」利回り評価することが大原則であることも伝えなければなるまい。このレベルでだまされる客(「カモ」と読んでください)が多すぎて、他人事ながら気が気でない。

 複利の効果は、単純な数学的真実なので、これこそが人類の偉大な発明だと感心するようなアインシュタインのような感性を筆者は持っていないが、「72の法則(あるいは「70の法則」)」と呼ばれるような、利回りと複利運用した場合に運用資産が2倍になるまでの期間の簡便計算方法も伝えることは有益だと思う。

 複利が特に問題になるのは、運用よりも、むしろ借金の場合だろうから、「複利の威力」を説明する題材は借金がいいだろう。

 ついでに、運用の利回りに対して、借金の利率がいかに高くて、借金をすることが損であるかについても伝えたい。

 ちなみに筆者は以前、大学の授業では必ず「クレジットカードのリボルビング払いを利用するような恋人とは結婚しない方がいい(小さな借金に鈍感だから)。経済観念のない相手と結婚すると苦労しますよ」と教えることにしていたのだが、学生さんたちがどの程度理解してくれているかは確認できていない。

2:「割引」という考え方

 投資というものを考える上で最も重要なのは、「割引」の考え方だろう。適当な利率を選んで、将来の価値を現在の価値に換算し、現在の価格がいくらなら、その対象を、買うか或いは売るのかを考えることが、運用の意思決定では最も重要でかつ有用な考え方ではないかと思う。

 一期先にEで、一定の成長率gで増える毎期毎期の将来キャッシュフローの合計を利率rで割り引いた現在の価値をPとすると、P=E/(r-g)となる、という計算式は、本連載でも書いたことがあるが、金融的な意思決定にあって最も有用な公式であると筆者は考えている。割引の考え方をどの程度実感をもって理解するかが運用に関するリテラシーの中核をなす。

 将来キャッシュフローを生む資産の価格は「割引」によって決定されるのだが、この場合、利率が上がる(下がる)と資産価格が下がる(上がる)こと、資産価格が決まることによって利回りが増減していることを理解して貰うと具合がいい。この点が分かると、低成長な国の株式でもリスク見合うリターンがあっておかしくない、ということが分かるようになる。「日本は人口が減って低成長だから、日本株を買っても儲かるはずがない」と言うような人は、一つには割引による資本の価格形成の理屈が分からないのだろう。

 rとgは、トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』によって大いに流行していたこともあり、注目度が高いものだった。それぞれの中身の変化とバランスが資産価格(P)にどのような影響を及ぼすかが分かると、景気循環や金融政策と株価の関係などもすっきり分かるようになる。

 ただし、内容をあまり盛りだくさんにしてしまうと、受け手の側で持て余してしまう心配がある(これまでの筆者の反省点でもある)。深い理解については後日を期して、まずは最小限のポイントに絞って伝える方がいいのかもしれない。