2)HEROZの建築市場での動き

 HEROZがAI開発の重点を置いている分野は、建築、金融、エンタテインメントの3分野です。また最近はその他の分野にも進出しています。

 この中で中長期的に重要と思われるのが建築向けAI開発です。HEROZは大手ゼネコンの竹中工務店と2017年11月に資本業務提携を行いました。主な目的はHEROZ Kishinを使った建築構造設計支援用AIの共同開発です。一級建築士の業務には、構造設計、設備設計、意匠設計の3分野がありますが、このうち最も業務量が多い構造設計の支援用AIを共同開発します(実質的にはHEROZが開発するもようです)。

 背景には、少子高齢化に伴う建築士の人手不足があります。開発中の構造設計支援用AIは構造設計の約70%を自動化できるものです。

 現時点では人手を使った構造設計のチェック用AIを既に開発しており、2019年4月期に納品し初期設定フィー(納品時に発生するフィー)が売上計上されたもようです。2020年4月期からは継続フィー(継続使用時に発生するフィー)が計上される予定です。

 本命の建築構造設計支援用AIは完成までに数年かかると思われます。ちなみに、筆者が知る限り日本のAI開発会社の中で設計支援用AIの開発に取り組んでいる会社はHEROZだけです。

3)建築構造設計支援用AIの業績へのインパクトに期待したい

 前述のように、一級建築士の業務には、構造設計、設備設計、意匠設計の3つがありますが、このうち最も業務量が多いのが構造設計です。一級建築士は約37万人いますので、この一部が構造設計支援用AIの潜在市場になると思われます。

 開発中の構造設計支援用AIは、竹中工務店が開発中の構造設計支援システムに組み込まれることになります。このシステムの対象者は、まず竹中工務店内の一級建築士約2,500人の一部になり、次いで数は不明ですが下請けの一級建築士の一部になる可能性があります。

 また、HEROZ製構造設計支援用AIは、構造設計のディープラーニング用ビッグデータを変えることで、竹中工務店以外の建設会社への販売も視野に入ると思われます。

 このAIでHEROZが受取る対価は未定です。ただし、あくまでも筆者の一つの考え方ですが、仮に構造設計支援システムの価値が1席につき200~300万円(建築構造設計用ソフトは高いもので約200万円(売り切り))、対象ユーザーを1000人とすればシステムの価値が合計で20~30億円、下請けを含めて1万人とすれば200~300億円となり、この中でHEROZ製AIの価値相当分がHEROZの取り分になる可能性があります。また、継続フィーが獲得できる可能性もあると思われます。

 今回の2020年4月期~2022年4月期の楽天証券業績予想では、この建築構造設計支援用AIの業績寄与は織り込んでいませんが、2022年4月期楽天証券業績予想の売上高35億円、営業利益18.3億円と比較して、業績へのインパクトが大きくなる可能性があります。

 このように、建築構造設計支援用AIの成否は、HEROZの企業価値にとって重要なものになると思われます。

 また、竹中工務店とは、AIを使った空間制御システム(空調、照明等の制御)の実証実験を始めました。実際の建物に応用されると、この方面でも業績寄与が期待できます。

 

4.HEROZの金融、エンタテインメント、その他の分野での動き

1)金融ではSMBC日興証券、マネックス証券、アルヒと提携

 HEROZとSMBC日興証券は、AIを活用した投資情報サービス「AI株式ポートフォリオ診断」を個人顧客向けに3月29日より提供開始しました。サービスが継続する場合、一定の年間収入とレベニューシェアが発生すると思われます。

 また、2018年1月より、マネックス証券のFX取引において、「トレードカルテFX」(FXトレードの診断書機能)にHEROZのAI「HEROZ Kishin」が搭載されています。

 住宅ローン会社のアルヒとは2019年6月20日付けで、住宅ローンの不正利用検知システム「ARUHIホークアイ」の構築に向け提携しました。過去10年間の住宅ローンの審査情報などを「HEROZ Kishin」に読み込ませることで、住宅ローンが投資用不動産に不正に利用される疑いのある申し込みを検知するシステムを構築する計画です。年内に運用を開始する予定です。

2)エンタテインメントではバンダイの「ゼノンザード」に「HEROZ Kishin」が搭載される

 エンタテインメント分野では、バンダイ(親会社はバンダイナムコホールディングス)が今年夏に発売する予定のデジタルカードゲーム(スマホゲーム)「ゼノンザード」に「HEROZ Kishin」が搭載されます。HEROZにとっての売上高は、固定継続フィーとレベニューシェアの組み合わせになる可能性があります。

 また、スマホゲームなどへのゲーム向けにAIで動かすキャラクターを提供しているもようです(Non Player Character、NPC)。

3)その他の分野

 建築、金融、エンタテインメントに次ぐ分野としては、放送・メディア業界が挙げられます。2019年4月期に放送会社向けにAIを使った解約予測システムを開発したもようです。この分野には今後も注力すると思われます。

 

5.引き続き投資妙味を感じる

 今後6~12カ月間の目標株価を3万円とします。前回の1万5,000円から引き上げます。

 視野を少し先に置いて、2022年4月期楽天証券EPS予想180.7円に対して、同期のPEGを2.0~2.5倍として、営業増益率72.6%増より想定PERを160~170倍として予想EPSに当てはめました。このまま順調に開発が進めば、建築構造設計支援用AIの発売が数年後になるため、業績への期待感から高いPERが持続する可能性があると考えました。

 引き続き投資妙味を感じます。

注:PEG(ペッグ)は成長企業に対して使う投資指標。PEG=PER÷増益率(ここでは営業増益率)と計算する。通常はPEG=1倍が基準になるが、高成長企業のPEGは2~3倍以上へ高くなる傾向がある。

本レポートに掲載した銘柄:HEROZ(4382)