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HEROZ(4382)

1.将棋用AIから建築、金融、エンタテインメントなどに展開中

 HEROZは日本を代表するAI(人工知能)開発会社の1社です。

 AI開発に特化しており、ビッグデータ分析は手掛けていません。一からAIのアルゴリズム開発が出来る会社は、日本では上場会社ではHIROZ、PKSHA Technology、ALBERT、NTTグループ(NTTデータ)、未上場会社では、プリファードネットワークス、アベジャなど10社に満たないと言われています。

 HIROZはこの中で、世界で最初にプロ棋士を負かした将棋用AI「ポナンザ」を開発した企業として知られています。そしてこのポナンザで培った技術をベースに開発したAI「HEROZ Kishin(棋神)」を建築、金融、エンタテインメント、その他の分野に応用しています。

2019年5月31日付け楽天証券投資WEEKLY「特集:AI関連企業の2019年1-3月期決算(ALBERT、PKSHA Technology)」も参照してください。)

 

2.2019年4月期は19%増収、19%営業増益

 HEROZの2019年4月期は売上高13億7,700万円(前年比19.2%増)、営業利益4億2,000万円(同18.7%増)となりました。

 売上高の約60%を占める「将棋ウォーズ」を中心とするスマホゲーム(BtoC)は2018年4月期に一部のゲーム配信を停止したため約10%減となりましたが、売上高の約40%を占める建築、金融、エンタテインメントなどの産業向けAI開発(BtoB)は前年比2.2倍となり、全体の業績をけん引しました。

 営業利益は前年比18.7%増と低い伸びとなりましたが、これは主に広告宣伝費、外注費、採用、GPUサーバーへの投資などが増加したためです。

 また、前4Q(2019年2-4月期)は、売上高3億3,600万円(2018年4月期は四半期決算を行っていないため前年比はない)、営業利益4,500万円となりました。前1~3Qは各々1億円以上の営業利益が出ていましたが、前4Qの営業利益は低水準でした。これは、広告費、外注費などが増えたことによります。

表1 HEROZの業績

株価 18,850円(2019/6/20)
発行済み株数 6,972千株
時価総額 131,422百万円(2019/6/20)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注:発行済み株数は自己株式を除いたもの

3.2020年4月期会社予想は18%増収、24%営業増益だが、上方修正の可能性がある

 2020年4月期会社予想は、売上高16億3,000万円(前年比18.4%増)、営業利益5億2,000万円(同23.8%増)です。会社側では成長ドライバーであるBtoB(産業向けAI開発)向け売上高が50%増~2倍となると見ています。また、BtoC(「将棋ウォーズ」などのスマホゲーム)は今期も不採算ゲームの配信を停止する可能性があるため、減収になる可能性があります。

 会社側は2020年3月期のBtoB、BtoCの売上高予想を開示していませんが、試算してみると、会社予想では、BtoBを50%増収、BtoCを3%程度の減収と見ていると思われます。

 これに対して前期から今期にかけての業績動向を見ると、建築、金融、エンタテインメント、その他(放送・メディアなど)の各分野で大口顧客、新規顧客問わず引き合いが多く、仕事量が増えています。そのため、会社側が想定していると思われるBtoB分野の前年比50%増よりも高い増収率が予想されます(楽天証券ではBtoBを70~80%増と予想)。BtoCは配信停止となるゲームが出ると思われるため、10~11%減収が予想されますが、全体の売上高は会社予想16億3,000万円(前年比18.4%)を上回る17億1,000万円(前年比24.2%増)となると楽天証券では予想します。

 売上高が会社予想に対して上乗せされるに従って営業利益も同様に上乗せの可能性があります。楽天証券では、会社予想営業利益5億2,000万円(同23.8%増)に対して5億8,000万円(同38.1%増)と予想します。

グラフ1 HEROZの分野別売上高

単位:百万円
出所:2020年4月期会社予想まではヒアリングより楽天証券推定、それ以降は楽天証券予想

 

4.2021年3月期、2022年3月期業績予想

 後述のように、現在竹中工務店と建築構造設計用AIを開発中ですが、それにかかる研究開発費が竹中工務店からHEROZに支払われているもようです(HEROZの売上高になる)。また、金融、エンタテインメント、その他の分野でも、大小様々なAI開発が行われています(これらの分野別動向は後述)。

 そのため、2021年3月期のBtoB売上高は前年比70~80%増、2022年3月期は同60~70%増と予想しました。なお、この予想には建築構造設計支援用AI完成版の業績寄与は織り込んでいません。

 また、BtoCは、将棋ウォーズ中心に伸びは期待できませんが、安定した売上高が続くと予想されます。

 AI開発が増えるに従って、AI納入時に受取る初期設定フィーだけでなく、継続使用する時に各年度に受取る継続フィーが多くなっています。そのため営業利益率は、採用増加(2019年4月末現在で全社員は45名。今期は5~10名採用する予定)に伴う人件費の増加やGPUサーバー増強による減価償却費の増加を吸収して、傾向的に上昇しています。

 これらを総合的に検討して、楽天証券ではHEROZの2021年3月期を売上高24億円(前年比40.4%増)、営業利益10億6,000万円(同82.8%増)、2022年3月期を売上高35億円(45.8%増)、営業利益18億3,000万円(同72.6%増)と予想します。

 

3.HEROZの中長期見通し

1)国内AI開発市場は年率53%成長

 AI開発、ビッグデータ分析と必要なハードウェアを含む日本国内の「AIビジネス」は2016年度に2,704億円だったものが2021年度には1兆1,030億円になると予想されています(富士キメラ総研2018年1月12日付けプレスリリース)。年率32%成長です。

 また、AI開発(ソフトウェア、サービス、ハードウェアを含む)だけを取り出すと、2018年の532億円が2023年には3,578億円に拡大し(年率46%増)、このうちソフトウェアは同じく191億円から1,619億円に増加すると予想されています(年率53%増)(IDC Japan2019年5月21日付けプレスリリース)。

 このようにAIビジネスは高成長が期待されていますが、中でもAIソフトウェア開発はより高い成長が予想されています。

グラフ2 AIビジネスの国内市場

単位:億円
出所:富士キメラ総研2018年1月12日付けプレスリリースより楽天証券作成

グラフ3 国内AIシステム市場予測

単位:億円
出所:IDC Japan2019年5月21日付けプレスリリースより楽天証券作成

2)HEROZの建築市場での動き

 HEROZがAI開発の重点を置いている分野は、建築、金融、エンタテインメントの3分野です。また最近はその他の分野にも進出しています。

 この中で中長期的に重要と思われるのが建築向けAI開発です。HEROZは大手ゼネコンの竹中工務店と2017年11月に資本業務提携を行いました。主な目的はHEROZ Kishinを使った建築構造設計支援用AIの共同開発です。一級建築士の業務には、構造設計、設備設計、意匠設計の3分野がありますが、このうち最も業務量が多い構造設計の支援用AIを共同開発します(実質的にはHEROZが開発するもようです)。

 背景には、少子高齢化に伴う建築士の人手不足があります。開発中の構造設計支援用AIは構造設計の約70%を自動化できるものです。

 現時点では人手を使った構造設計のチェック用AIを既に開発しており、2019年4月期に納品し初期設定フィー(納品時に発生するフィー)が売上計上されたもようです。2020年4月期からは継続フィー(継続使用時に発生するフィー)が計上される予定です。

 本命の建築構造設計支援用AIは完成までに数年かかると思われます。ちなみに、筆者が知る限り日本のAI開発会社の中で設計支援用AIの開発に取り組んでいる会社はHEROZだけです。

3)建築構造設計支援用AIの業績へのインパクトに期待したい

 前述のように、一級建築士の業務には、構造設計、設備設計、意匠設計の3つがありますが、このうち最も業務量が多いのが構造設計です。一級建築士は約37万人いますので、この一部が構造設計支援用AIの潜在市場になると思われます。

 開発中の構造設計支援用AIは、竹中工務店が開発中の構造設計支援システムに組み込まれることになります。このシステムの対象者は、まず竹中工務店内の一級建築士約2,500人の一部になり、次いで数は不明ですが下請けの一級建築士の一部になる可能性があります。

 また、HEROZ製構造設計支援用AIは、構造設計のディープラーニング用ビッグデータを変えることで、竹中工務店以外の建設会社への販売も視野に入ると思われます。

 このAIでHEROZが受取る対価は未定です。ただし、あくまでも筆者の一つの考え方ですが、仮に構造設計支援システムの価値が1席につき200~300万円(建築構造設計用ソフトは高いもので約200万円(売り切り))、対象ユーザーを1000人とすればシステムの価値が合計で20~30億円、下請けを含めて1万人とすれば200~300億円となり、この中でHEROZ製AIの価値相当分がHEROZの取り分になる可能性があります。また、継続フィーが獲得できる可能性もあると思われます。

 今回の2020年4月期~2022年4月期の楽天証券業績予想では、この建築構造設計支援用AIの業績寄与は織り込んでいませんが、2022年4月期楽天証券業績予想の売上高35億円、営業利益18.3億円と比較して、業績へのインパクトが大きくなる可能性があります。

 このように、建築構造設計支援用AIの成否は、HEROZの企業価値にとって重要なものになると思われます。

 また、竹中工務店とは、AIを使った空間制御システム(空調、照明等の制御)の実証実験を始めました。実際の建物に応用されると、この方面でも業績寄与が期待できます。

 

4.HEROZの金融、エンタテインメント、その他の分野での動き

1)金融ではSMBC日興証券、マネックス証券、アルヒと提携

 HEROZとSMBC日興証券は、AIを活用した投資情報サービス「AI株式ポートフォリオ診断」を個人顧客向けに3月29日より提供開始しました。サービスが継続する場合、一定の年間収入とレベニューシェアが発生すると思われます。

 また、2018年1月より、マネックス証券のFX取引において、「トレードカルテFX」(FXトレードの診断書機能)にHEROZのAI「HEROZ Kishin」が搭載されています。

 住宅ローン会社のアルヒとは2019年6月20日付けで、住宅ローンの不正利用検知システム「ARUHIホークアイ」の構築に向け提携しました。過去10年間の住宅ローンの審査情報などを「HEROZ Kishin」に読み込ませることで、住宅ローンが投資用不動産に不正に利用される疑いのある申し込みを検知するシステムを構築する計画です。年内に運用を開始する予定です。

2)エンタテインメントではバンダイの「ゼノンザード」に「HEROZ Kishin」が搭載される

 エンタテインメント分野では、バンダイ(親会社はバンダイナムコホールディングス)が今年夏に発売する予定のデジタルカードゲーム(スマホゲーム)「ゼノンザード」に「HEROZ Kishin」が搭載されます。HEROZにとっての売上高は、固定継続フィーとレベニューシェアの組み合わせになる可能性があります。

 また、スマホゲームなどへのゲーム向けにAIで動かすキャラクターを提供しているもようです(Non Player Character、NPC)。

3)その他の分野

 建築、金融、エンタテインメントに次ぐ分野としては、放送・メディア業界が挙げられます。2019年4月期に放送会社向けにAIを使った解約予測システムを開発したもようです。この分野には今後も注力すると思われます。

 

5.引き続き投資妙味を感じる

 今後6~12カ月間の目標株価を3万円とします。前回の1万5,000円から引き上げます。

 視野を少し先に置いて、2022年4月期楽天証券EPS予想180.7円に対して、同期のPEGを2.0~2.5倍として、営業増益率72.6%増より想定PERを160~170倍として予想EPSに当てはめました。このまま順調に開発が進めば、建築構造設計支援用AIの発売が数年後になるため、業績への期待感から高いPERが持続する可能性があると考えました。

 引き続き投資妙味を感じます。

注:PEG(ペッグ)は成長企業に対して使う投資指標。PEG=PER÷増益率(ここでは営業増益率)と計算する。通常はPEG=1倍が基準になるが、高成長企業のPEGは2~3倍以上へ高くなる傾向がある。

本レポートに掲載した銘柄:HEROZ(4382)