原油市場に存在する、懸念を強める要素と、期待を弱める要素。

 前回書いた、ロシアが減産を順守しない可能性は、下落要因の中の思惑(懸念)を強める要素の1つです。上記の資料の中で示した“そもそも、20ドルでよいのではないか?”という、20ドル台の原油価格を肯定する思惑が、複数の方向から働いている可能性があります。

・20ドル台の原油相場を肯定する思惑

【1】“買い手市場化”した原油市場をそのままにしたい

 航空燃料を含む各種輸送用燃料、暖房用燃料、化学繊維、インク、プラスチック部品、農業用燃料、などの調達コストが下がることは、消費国(者)にとって好ましい。新型コロナの感染拡大で打撃を被っている消費国経済の回復のため、低水準の原油価格は必要。

 原材料の調達コストがこのまま低水準であれば、消費国が金銭面のメリットを享受できるだけでなく、産油国に対して政治的に有利であり続けることができる。

【2】政治的・倫理的側面から、原油価格を低水準で維持したい

 原油価格が上昇した場合、石油票を欲しがるトランプ大統領、原油を政治利用するサウジ・ロシアなどの産油国、環境汚染をまき散らす一部のエネルギー企業がその恩恵を受ける。このような人物・国・企業に恩恵を与えてよいか? 政治的・倫理的に、原油価格は上昇しないほうが良いとする、反トランプ、反産油国・反エネルギー企業を訴える人の思惑が強まっている可能性がある。

 また、原油価格を現在の水準で維持させた方が、産油国であり米国と政治的に対立関係にあるロシア、イラン、ベネズエラなどをさらに弱体化させることができる。

 次は、上昇要因の中の思惑(期待)を弱める要素です。この点については、先週月曜日に、EIA(米エネルギー省)が公表した、米シェール主要地区の原油生産量の実績値と見通しに注目します。

図:米国の原油生産量と米シェール主要地区の原油生産量 単位:百万バレル/日量

出所:EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成

 EIAは、米国全体の原油生産量が今年秋にかけて減少することを見込んでいます。米国全体の原油生産量のおよそ70%とみられる、米シェール主要地区の原油生産量の減少を織り込んでいると考えられます。

 現実的に、すでに米シェールの生産量の減少が始まったのだと思われますが、その規模は、これらのデータより、秋までにおよそ日量100万バレル程度の減少にとどまると予想されます。

 米国も減産に参加する期待があるものの、米シェール企業は先進国である米国の一企業であり、サウジアラムコのような国営の企業ではないため、米国政府が米シェール企業に産油量を調節するよう、働きかけはできないとみられます。

 また、反カルテル(関係者間で生産量を調整して、価格や数量の面で消費者にマイナスの影響を与える行為)という観点からも、米国政府も米シェール企業も、進んで原油価格を操作することにつながる減産に加担することはないとみられます。

 米シェールの生産量の減少は、いわゆる減産(人為的な生産調整による生産減少)ではなく自然減であるため、カルテルには当たらないと考えられます。米国は減産には“3月比日量100万バレル程度の自然減”で参加する可能性があります。

 また、中国などが一時的に在庫を拡大することで供給過剰感を低減する、との報道もありますが、これは在庫積み上げですので、見方を変えればモノ余りが起きている場所を変えるだけ、とも言えます。

 特に中国の石油在庫は、世界の石油在庫の指標であるOECD(経済協力開発機構)石油在庫に含まれていないため(中国がOECDに加盟していないため)、中国の石油在庫の積み上げは“在庫隠し”の要素を含むと筆者は思います。

 懸念が強まり、期待が薄まる要素があり、なおかつ下落要因に大きな“実態”がある原油相場はまだ目先は、現在の水準で推移する可能性があります。

 しかし、EIAの見通しのとおり、新型コロナによる世界の消費減少の最悪期が、2020年4月で、順次、その後、消費が回復していくのであれば、徐々に原油も回復する可能性が出てきます。原油相場は、長期的な視点で見守ることが重要だと思います。

 今回は、金価格が1,800ドルを超えるための条件と、原油価格がOPEC減産でも上昇しないわけ、と題して書きました。

[参考]具体的な原油関連の投資商品

種類 コード/
ティッカー 
銘柄
国内ETF/
ETN
1671 WTI原油価格連動型上場投信(東証)
1690 WTI原油上場投資信託 (東証)
1699 NF原油インデックス連動型上場(東証)
2038 NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル
2039 NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア
海外ETF OIL iPath シリーズB S&P GSCI原油トータルリターン指数ETN
投資信託   UBS原油先物ファンド
外国株 XOM エクソンモービル
  CVX シェブロン
  TOT トタル
  COP コノコフィリップス
  BP BP

[参考]具体的な貴金属関連の投資商品

種類 コード/ティッカー 銘柄
純金積立   金(プラチナ、銀もあり)
国内ETF/ETN 1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN
海外ETF GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF
投資信託   ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
  ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
  ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
  三菱UFJ純金ファンド
外国株 ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV Franco-Nevada:フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ
国内商品先物   金、ミニ金、ゴールド100(プラチナ、銀、パラジウムもあり)
海外商品先物   金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)
出所:筆者作成