皆さんは、「ロング・ショート」という戦略をご存知でしょうか?最近、筆者は株価調整局面での損失を軽減させるために、このロング・ショート戦略を採用しています。今回は、ロング・ショート戦略とは何か、そして二極化相場でロング・ショート戦略が有効な理由についてお話しします。

2015年8月の高値を境に調整局面が続く日本株

日経平均株価が20,946円93銭の高値をつけた2015年8月、思えばそこを境に日本株の値動きは大きく変わってしまいました。2012年11月以降続いたアベノミクス相場による中長期的上昇相場が一旦終わり、調整局面が続いています。今年に入ってからはその傾向がさらに強まっています。

ただし、それはあくまでも日経平均株価やTOPIXなどの株価指数に関しての話で、個別銘柄をみるとその様相は全く異なってきます。2015年8月の高値を大きく超えて上昇している銘柄も数多くある一方、2015年8月よりかなり前に天井を付けていち早く中長期的な下降トレンドに入ってしまっている銘柄も少なくありません。

このように、個別銘柄によって値動きが異なる「二極化相場」は今も続いているのですが、この二極化相場に有効と思われるのが「ロング・ショート戦略」です。

そもそも「ロング・ショート戦略」とはなにか?

では、「ロング・ショート戦略」とはいったいどんなものでしょうか。証券用語で「ロング」とは「買い」の意味で、「ショート」は売りの意味です。

つまり、買い建て銘柄と売り建て銘柄の両方のポジションを持ち、そこから利益をあげようとする手法です。

一般的なロング・ショート戦略は、例えば同じ業種間で割安な銘柄を買い、同時に割高な銘柄を売ります。各銘柄の割安・割高はいずれ是正されると考えれば、マーケット全体が上昇しようとも下落しようとも、割高な銘柄と割安な銘柄との価格差は縮小し、利益を得ることができるという考え方です。

A社とB社の株価はいずれも300円が妥当なはずだが、A社は350円、B社は250円の株価をつけているとします。本来A社とB社との価格差はゼロであるところ、100円の差があります。そこで、A社株を売り建て、B社株を買い建てます。その後マーケット全体が上昇基調となり、A社は450円まで上昇し、B社は380円まで上昇したとすると、A社株の売り建てでマイナス100円、B社株の買い建てでプラス130円、差し引き30円の利益となります。逆に、マーケット全体が下落基調で、A社は250円、B社は170円まで下落したとすると、A社株の売り建てでプラス100円、B社株の買い建てでマイナス80円、差し引き20円の利益となります。

筆者が採用している「ロング・ショート戦略」は?

このように、割高と思われる銘柄を売り、割安と思われる銘柄を買うことで、マーケット全体がどのような動きになろうとも利益を得ようとするのがロング・ショート戦略です。日経平均株価の現物と日経平均先物との間で行われる「裁定取引」は、先物を売って現物を買うことでサヤ取りを行うものです。これもマーケット全体の値動きにかかわらず利益を得ることが目的ですからロング・ショート戦略の1つといってもよいでしょう。

ただ、筆者が実践している「ロング・ショート戦略」は一般的なものとは少し異なります。筆者は株価のトレンドをとても重要視していますが、このトレンドが下降トレンドの銘柄を空売りし、上昇トレンドの銘柄を買うという組み合わせでロング・ショート戦略を行っています。つまり、強い銘柄を買い、弱い銘柄を売るという形で利益を狙っているのです。

なぜ筆者は「ロング・ショート戦略」を使おうと思ったのか?

2015年8月にいわゆる「チャイナ・ショック」により株価が大きく下落する直前、筆者は買いのみを行っており、ヘッジ目的のツナギ売りを除けば純粋な空売りは行っていませんでした。

そして、多くの銘柄の株価がピークをつけた後も、株価が下降トレンドになる、つまり25日移動平均線を割り込むまで買い銘柄は保有を続けていました。でも、株価が想定より大きな下落となったため、最終的には大部分の銘柄を売却するに至り、その過程で株価ピーク時から利益を大きく減らすことになってしまいました。もちろん、株価ピーク時というのはまさに上昇トレンド真っ只中であり、天井で保有株を売却できることはあり得ませんから、ピークからある程度利益を減らしたところで売却すること自体は仕方ありません。しかし、ピーク時からかなり利益が減ってしまったことを、何とかできないかとは思っていました。

その後株価は回復して年末を迎えましたが、ご承知のように今年に入って再び株価は大きく下落、特に年初から2月中旬までの急落はきついものでした。この過程でも、保有株が下降トレンドに転じて売却するまでの間に、利益が減ってしまいました。

このように、大きめの調整局面が到来した際に、利益が大きく減ってしまうのを少しでも軽減することはできないか、と考えた結果「ロング・ショート戦略」にたどりつきました。強い銘柄を買い、弱い銘柄を売るようにすれば、相場全体が堅調であっても軟調であっても利益を得ることができるのではないかと考えたのです。

これまでロング・ショート戦略を行わなかった理由とは

もちろん、「ロング・ショート戦略」自体は以前から知っていました。でも、なかなか実行に踏み切れなかった理由があります。それは、日経平均株価やTOPIXなどからみた日本株マーケット全体が、中長期的な上昇トレンドを続けていたからです。

基本的に、マーケット全体が中長期的な上昇トレンドであれば、個別銘柄の多くも同じような動きをします。中長期的な上昇トレンドにある銘柄に空売りを仕掛けても、一時的な調整局面を経れば再び株価が上昇してしまうので、失敗してしまう可能性が高いのです。

ですから、2015年8月~9月の急落時も、2016年1~2月の急落時も、基本は買い一本のみでやってきたわけです。

しかし、2016年1~2月の急落により、中長期的にみて下降トレンドに転換している個別銘柄が数多く出現していることに気がつきました。

中長期的にみた上昇トレンドの銘柄というのは、例え日足チャートで下降トレンドであっても、月足チャートや週足チャートが上昇トレンドを維持している銘柄をいいます。

一方、中長期的にみた下降トレンドの銘柄は、日足チャートだけでなく、週足チャートや月足チャートまでも下降トレンドになっている銘柄をいいます。

なぜこのような状況になったかといえば、日経平均株価やTOPIX自体が、2016年1~2月の急落によって週足チャート、月足チャートともに下降トレンドに転じたためです。株価指数自体が中長期的に下降トレンドになれば、個別銘柄の多くも同様な動きとなるのです。

次回は、筆者が実践するロング・ショート戦略の具体的な説明と、下落相場におけるロング・ショート戦略以外の防衛手法をお話ししたいと思います。

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