ようやくアメリカが利上げに踏み切ったものの、まだまだ日本だけでなく世界中で金融緩和の状況が続いています。金融緩和が広がるにつれ、実体経済とのかい離も大きくなってきており、今までのような景気と株価の連動性が薄れているような感もあります。

そこで今回は、「大金融緩和時代」に入ってから景気と株価がどのような関係になっているのか、そして今後どのような点に注意したらよいかを考えてみたいと思います。

株価は景気の先行指標という大前提

1月の株価大幅下落のさなか、ある専門家が日経平均株価の下値メドとして、2014年10月の16,500円どころを挙げました。ただその専門家は、2014年10月と現在とでは明らかに現在の方が景気が良いから、そこまで下げることはないだろう、とコメントしていました。しかし実際は16,500円を下回る株価下落となったことはご承知のとおりです。

筆者はあまり他の専門家のコメントにどうこう言うつもりはないのですが、個人投資家をミスリードする可能性のあるコメントについては、どうしても注意喚起をしておかなければならないと思っています。

株式投資の基本中の基本として挙げられるのは、「株価は景気に先行して動く」ということです。決して足元の景気と株価がイコールになるわけではありません。

したがって、仮に2014年10月より現在の方が景気が良いとしても、2014年10月は先行きの景気見通しが良好だった一方、現在は先行きの景気見通しが良くないのであれば、現在の株価の方が低くなっても全く不思議ではありません。

一般に、株価は実際の景気より6カ月程度先行して動く傾向にあるといわれています。まずはこの大前提を押さえておきましょう。

金融緩和は「金融経済」と「実体経済」とのさらなるかい離を生む

しかしながら、ここ最近はこうした株価と景気の連動性が薄れている感が強まっています。どちらかというと、景気に先行して株価が動いているというより、為替レートの変動や原油価格、海外の株価に日本株も引っ張られることが多くなっています。

現在の日本株は、日本国内の景気動向よりも、外部要因によって動いているといえます。この大きな理由が、大規模な金融緩和による緩和マネーの存在です。

緩和マネーは世界中を駆け巡っています。そして、リスクオンの状況になると世界各国の株式市場にマネーが集まります。逆に、リスクオフの状態に転じると、逆に株式市場から一斉に資金が引き上げられます。

現在は、世界中に広まるマネーの量が膨張しているため、実体経済に比べて金融経済の規模の方がはるかに大きくなっています。その結果、実体経済の状況にかかわらず、株式市場にマネーが流入すれば株価は上昇、逆に流出すれば株価は下落、という図式になっています。いわゆる「過剰流動性相場」というものです。

つまり、日本株がここから上がるか下がるかは、緩和マネーが株式市場に流入してくるか、逆に流出してしまうかでほぼ決定してしまうといっても過言ではありません。

金融緩和相場では需要と供給の関係こそが株価にとって最重要

このように書くと、「いくら緩和マネーが流出傾向にあっても、日本の景気がさらに良くなれば再びマネーが日本株に流入し、株価は上昇するのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

でも、日本株がアベノミクス相場後ここまで上昇したのは、やはり緩和マネーが日本株に大量に流入したのが最も大きな要因です。日本の景気回復を見越した買いも当然あるでしょうが、やはり本質は緩和マネーの存在です。

現に、足元の日本株では、外国人投資家の大量の売り越しが生じています。この大きな要因の1つが、産油国のいわゆるオイルマネーが株式市場から資金を引き揚げているためといわれています。

オイルマネーは原油価格高騰により得た潤沢な資金を使って世界各国の株式へ投資していましたが、足元の原油価格下落により財政が悪化したため、投資していた株式を売却して現金化しているのです。

今後、上記のオイルマネーの逆流と同じように、何らかの理由で緩和マネーが逆流することで日本株の需給が悪化し、株価が思わぬ下落をすることをも考慮して行動する必要があります。

とはいえ、株価のトレンドにしたがって売買をしている限りは特段心配する必要はありません。

株価が景気悪化の引き金になることもある

株価が上昇したり下落する最大の要因は、「景気」でも「企業業績」でもありません。それは「需給」です。まずこの大原則を抑えておいてください。

もし日本の景気が良くても、個別銘柄の企業業績が良くても、日本株や個別銘柄に買いが入らなければ株価は上がりません。現に、アベノミクス相場が始まる前から好業績の優良株は数多くありましたが、それらはPER5倍とか7倍といった安値で放置されていました。それは、日本株に投資資金が流入してこなかったからに他ありません。

金融緩和の影響により、ここ数年は株価と日本の景気にはそれほど高い関連性はありません。株価が上昇すれば景気も回復する、という専門家もいましたが、アベノミクス相場スタートから日経平均株価が2倍以上、15年ぶりの高値まで上昇したにもかかわらず、日本の景気は大して上向いていません。アベノミクスの効果を80%以上の人が実感できていないという調査結果もあるほどです。逆に、昨年夏のチャイナ・ショックや今年に入ってからの世界同時株安では、ほとんどの銘柄の株価が下落しましたが、国内景気がいきなり悪化したということもありません。

ですから、今のような国内景気に関係なく外部要因で株価が変動する金融緩和相場では、基本は好業績の個別銘柄を投資対象とし、株価が上昇トレンドになったら新規買いして上昇トレンドが続く限り保有、下降トレンドに転じたら売却して下降トレンドが続く限り見送り、という投資スタンスが最もしっくりくるのではないかと思います。

ただし、時には株価の下落が景気自体に悪影響を及ぼすこともあります。その最たる例が2008年のリーマン・ショックです。リーマン・ショックによる株価急落の前は、国内景気もそれほど悪くなく、好業績の銘柄が数多くありました。ところが株価が急落すると一転して世界中の景気が悪化し、赤字に転落したり、経営破たんに陥ってしまう銘柄が相次ぎました。

だから筆者はたとえ好業績が続いている銘柄でも、株価のトレンドが下降トレンドに転じたら、一旦売却しておくのが無難であると一貫して主張しているのです。足元の好業績など、リーマン・ショック級の株価暴落で簡単に吹き飛んでしまうからです。

「長期保有」のリスクも考えたうえで投資手法を選択すべき

筆者が拙著や本コラム、ブログ「公認会計士足立武志ブログ」などで一貫して提唱し、自ら実践している手法は「トレンドフォロー戦略」のカテゴリーに入ります。株価の上昇初期段階で買い、上昇が続く限り保有、そして下落に転じたら売却して下落が続く限り様子見、というスタイルです。

一方、「長期保有」や「バイ・アンド・ホールド」といった投資手法もあります。最近では、これを毎月の積立投資により行う手法も流行しているようです。

しかし、筆者はバイ・アンド・ホールドの投資をしようとは全く思いません。なぜなら、失敗したことが明らかになるまで非常に長い期間を要するため、失敗した場合やり直しがきかず、取り返しのつかないことになってしまうからです。

特に、ここまで世界経済のグローバル化が進むと、どうしてもデフレ傾向になってしまいます。世界各国の潜在的成長率が過去に比べて著しく低下していることからも明らかです。日本でも、これほどの規模の金融緩和をもってしても、インフレにはならないのが実態です。

緩和マネーの存在を抜きにして考えれば、デフレでは企業の売り上げが伸びませんから業績は低迷し、その結果株価もあまり上昇しないでしょう。そうすると、株式を20年、30年とバイ・アンド・ホールドしたところで投資資金は増えないかもしれませんし、下手をすると大きく目減りしてしまっているかもしれません。

あくまでも長期投資が成功したのは、過去は世界中の成長率が今より高かったという前提があったからこそという点には十分な注意が必要です。

そうなると生き残るべき道としては、「好業績が見込まれる個別銘柄に投資する」こと、かつ「株価のトレンドにしたがって売買をし、世界同時株安などで株価が大幅に下落するリスクを回避すること」しかないのではないかと思っています。