前々回前回とREITについて考えてきましたが、今回はその完結編として、個人投資家がREITに投資する際にどのような点に考慮すべきかを、筆者の考えや経験などを踏まえてお話ししたいと思います。

筆者が考える簡単かつ実践的なREIT投資の戦略とは

REIT投資では、不動産投資に精通していない個人投資家が適切なファンダメンタル分析を行って投資判断を下すのは困難であることはすでに述べたとおりです。

そこで、ここまでお話ししたことを踏まえた、筆者が考えるより簡単かつ実践的なREIT投資の戦略として挙げられるのは次の2点です。

  • REIT全体としての分配金利回りに注目して判断をする

    REITの個別銘柄ごとのファンダメンタルの違いは当然あるものの、価格の推移をみるとおおむね同じような値動きとなっています。そこで、REIT全体としては分配金利回りを重視するべきです。

    幸い、REITは株式の個別銘柄の配当金とは異なり、分配金の水準が比較的安定しています。そのため分配金利回りの水準によって割安かどうかを判断することは比較的容易です。

    現在のREITの分配金利回りは平均で3%台ですが、アベノミクスが始まる前の2012年前半は平均5~6%ほどの分配金利回りでした。つまり、REITの価格は2倍に上昇したことになります。

    分配金利回りが高ければ、投資金額に対して多くの分配金(インカムゲイン)が受け取れるだけでなく、REIT価格の値上がりによる利益(キャピタルゲイン)も期待できます。

    ですから、今後REIT価格が大きく下がって分配金利回りが上昇するようなことがあれば、新規投資の絶好のタイミングとなります。逆に現在のように分配金利回りが低い状況では、今後の不動産市況によっては価格が大きく下がってしまう可能性もありますから、あまり積極的に新規投資をする必要性は低いと思います。

    もし現時点から新規投資するのであれば、上昇トレンドかつできるだけ安い価格で買うよう心掛け、下降トレンドの間は手を出さないようにすべきです。

    REIT価格は国債利回りに連動して動く傾向にあります。そこでREIT価格のトレンドの変化に気を付け、下降トレンドに転じたときに利食いや損切りを行ってさえいれば、国債利回りの変化を踏まえたタイミングで売買できますから、大きな損失を被る心配は少ないはずです。

小さな投資金額でREITの分散投資を最大限享受しよう

  • 複数のREITへ分散投資し、個別銘柄リスクを可能な限り軽減する

    個人投資家が個々のREITごとにファンダメンタルを正確に見極めることが困難だとすれば、複数の銘柄に分散投資して、個別銘柄が有するリスクを可能な限り極小化することが非常に有効です。しかし、銘柄によっては最低投資金額が100万円を超えることもあり、分散投資するにも資金面でのハードルが意外に高いのが現実です。

    そこで、REITを投資対象としたETFや、複数のREITに投資する投資信託(ファンド)への投資が有効になります。これなら、個別銘柄のリスクを最小限に抑えながら、REITの平均的な利回りを得ることができます。さらに、最低投資金額もそれほど大きくありません。

    例えばREITのETFの1つである上場インデックスファンドJリート隔月分配(1345)であれば、1単位20万円以下の金額で、複数のREITに分散投資する効果を得ることができるとともに、現時点で3%程度の分配金利回りを得ることができます。

REITのETFとREITファンドのどちらに投資すべきか?

では、REITのETFとREITファンド、どちらに投資するのが望ましいのでしょうか。あくまでも個人的な見解ですが、コスト面と、分配金のポリシーの面で、筆者であればREITのETFに投資しますし、実際に投資することもよくあります。

REITのETFはネット証券を使えば売買手数料は非常に安く済みますし、信託報酬もかなり低く抑えることができます。対してREITファンドは、ファンドにより異なりますが、購入時に3%の手数料を取られ、信託報酬もREITのETFよりかなり高い金額となることが多いです。REITに幅広く分散投資すれば、ETFやファンドによってリターンもそれほど大きな差は生じないはずです。それならば、できるだけコストの低いものを選ぶのが正解と思います。

もう1つは、分配金のポリシーです。REITのETFは、基本的にETFが受け取った分配金の範囲内で投資家に分配金を支払っています。一方、REITファンドの多くは、毎月分配型として高い分配金を毎月支払っていますが、これはファンドが受け取った分配金やREITの値上がり益をはるかに上回る水準です。つまり、REITファンドは、投資家が払い込んだ投資元本の一部を、分配金として毎月投資家に返却してしまっているのです(この点については後述します)。

もちろん、世界中のREITを投資対象とするREITファンドは、REITのETFでは実現できない「グローバルな分散投資」が可能な点が魅力です。しかし、毎月分配型のファンドでは、自身が投資した金額の一部が分配金として戻ってきてしまい、投資効率の面であまりよくありません。REITファンドの中には、インデックスファンドのように、コストが比較的安く、毎月分配型でないものもあります。また、少し敷居が高くなりますが、アメリカ市場ではグローバルに投資できるREITのETFが上場していますので、そちらに投資するのもよいでしょう。

20%に迫る利回りに「何かある」と思える感覚が必要

ご存知のように、日本国債の利回りは1%を大きく割り込み、個人投資家に人気のあるソフトバンク社債でさえ、1.5%前後の水準です。そして、債券よりリスクが高いといわれるREITの利回りが、3%~4%程度です。

そんな中、あるREITファンドの分配金利回りは、年率換算で20%に迫る数字となっています。REITファンドは世界中のREITを投資対象としていますから、日本のREITの利回りより多少高くなってもおかしくありませんが、20%近い利回りというのはどう考えても高すぎます。

となれば、分配金利回りが非常に高いREITファンドには、REITのETFとは異なる「からくり」が隠されていると思わなければなりません。しかし多くの個人投資家は、この点に気づいていないように思えます。なぜなら、分配金利回りの高いREITファンドは、個人投資家から多額の投資資金を集め続けているからです。

多額の分配金が支払われている「からくり」は、非常に簡単なことです。分配金のうちREITファンドが受け取っている配当やREITの値上がり益を上回る分は、投資家自身が払い込んだ投資元本が原資に使われているのです。

自身の投資元本が、分配金支払いの原資に使われてしまえば、REIT価格が上昇したときの恩恵が小さくなってしまいます。例えば100万円を投資した後、REIT価格が20%上昇したならば、100万円が120万円まで上昇し、20万円の含み益が生じます。ところが、100万円のうち50万円がすでに分配金支払いにより戻ってきてしまっているなら、投資元本の残り50万円の20%である10万円しか含み益が増えないことになってしまうのです。

分配金を再投資すれば上記の事態はある程度免れますが、受け取る分配金にかかる所得税等の分だけ投資元本が目減りしてしまいますから、分配金を受け取らずにそのまま投資するよりも不利になってしまいます。

ですから、純粋に分配金の受け取りや値上がり益の享受を目的にするならば、REITのETFの方が優れていると筆者は思います。

利回りの高さが魅力のREITではありますが、あまりに利回りが高いものについては、「お買い得」と思うのではなく、「何かあるのではないか」と感じるような猜疑心が必要です。これは、株式投資をはじめ投資全般についていえる非常に重要なことです。