日経平均株価が20,000円超えを果たす一方、個人投資家の投資成果はまちまちのようです。そこで今回と次回の2回にわたり、オリエンタルランド(4661)を題材に、今の相場をうまく乗りこなすために知っておきたい基礎知識について再確認していきたいと思います。

オリエンタルランドをファンダメンタル分析で評価してしよう

オリエンタルランドは2011年3月の震災後からの4年間で株価が6倍以上に上昇しました。これは筆者も予想していなかったことです。なぜなら、それ以前の10年間は、多少の変動はもちろんあるものの、株価はおおむね横ばいで推移していたからです。

そこで、オリエンタルランドをファンダメンタル分析で評価し、現在の株価が妥当な水準であるかどうかを考えてみることにしましょう。

まず過去の決算と、今後の予想です。

(単位:百万円)

  売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2012年3月期 360,060 66,923 66,238 32,113
2013年3月期 395,526 81,467 80,867 51,484
2014年3月期 473,572 114,491 112,671 70,571
2015年3月期 466,291 110,605 110,486 72,063
2016年3月期(予) 470,310 106,050 107,300 72,240

(出典:決算短信)

PERからみた現在のオリエンタルランド株は割高か?

オリエンタルランドは、3月30日には9,890円まで上昇しています。現在は少し下がりましたが、それでも2016年3月期の予想利益をもとにPERを計算すると、およそ40倍となります。

40倍というのはかなり高い数値であり、年率30%程度で利益が増加を続けるようでなければ適正水準とはなりません。上の業績推移でいえば、2012年3月期~2014年3月期までのような業績の伸びが今後もずっと続けばPER40倍でも妥当な評価です。

しかし、2015年3月期の売上高や利益は2014年3月期と比べてほぼ横ばい、2016年3月期の予想数値も同様です。年率30%の成長とはほど遠い予想です。これだけで判断すると、現状のオリエンタルランドの株価はかなり割高という結論になります。

そこで、業績予想よりもっと業績が伸びる余地がないかどうかを調べていきます。業績予想は控えめでも、実際は非常に好調な業績をあげるケースはよくあるからです。

「入場制限」を知らなければオリエンタルランド株は分析できない

ところで、言うまでもなく東京ディズニーリゾート(TDR)は日本最多の集客を誇るテーマパークであり、年間の入場者数は3,000万人を超えています。

筆者も最近では子供を連れて年に6~7回は通っていますが、東京ディズニーランド(TDL)や東京ディズニーシー(TDS)によく行かれる方であれば、最近はかなり混雑していることが多いとお感じになると思います。ひどいときにはレストランでの昼食に2時間待ち、ポップコーンを買うのに1時間待ち、女性の場合はトイレでさえ30分も並ばされるほどです。

せっかく入場しても、大混雑しては何もすることができず、パーク内は大混乱となってしまいます。そのため、TDLやTDSでは、入場者数が一定の人数に達すると、「入場制限」を行います。これにより、混雑時には一定の人数以上は入場できない仕組みとなっています。

TDLで入場制限が行われる直前には、キャストが舞浜駅から後ろ向きにゆっくりと歩きながら「これから入場される方は私たちを追い越してください」とアナウンスします。キャストを追い越さないと入場制限により入れなくなるため、アナウンスを聞いた来園者があわてて追い越していくという面白い光景が見られます。

実はオリエンタルランド株をファンダメンタル分析で評価するためには、この「入場制限」という制度の存在を知っていることが必要不可欠なのです。

オリエンタルランドは現状のままでは「売上数量」を大きく増やすことができない

企業の売上を計算するための基本式は「単価×数量」です。オリエンタルランドにあてはめれば、単価は「客単価」、数量は「入場者数」を意味します。この基本式から、売上をアップさせるためには、①客単価を上げる、②入場者数を上げるという2つの戦略が考えられます。

ところがオリエンタルランドの場合、少なくとも現状では②の戦略を取ることができません。そのことに気づかなければ、オリエンタルランドのファンダメンタル分析をしたところで誤った分析結果しか導き出せません。

なぜ②の戦略を取ることができないのか、それは上でお話しした「入場制限」があるからです。

2014年度は、今年1月から3月に開催された「アナと雪の女王」のイベントが大好評で、2月や3月の閑散期でさえ入場制限が連発されました。この状況から考えて、筆者は2014年度の入場者数が2013年度よりかなり増加する可能性さえあると思っていましたが、会社が発表した入場者数は3,137万人で、2013年度の3,129万人とほぼ変わらない数字でした。

入場制限の目安はTDLが7万人、TDSが5万人です。したがって、年間の最大キャパシティは(7万人+5万人)×365日=4,380万人となります。延べ人数で考えればもう少し増えるとは思いますが、毎日入場制限がかかるレベルの混雑でもこの数字が限界です。平日はほとんど入場制限がかかっていないことを考えると、4,380万人という年間入場者数は現実的ではありません。

例年にない混雑を実感した2014年度でさえも年間の入場者数が前年度比横ばいであること、そして入場制限の存在を考えれば、入場者数のこれ以上の大幅な増加は難しいと判断できるのです。

「入場制限」は、TDLやTDSに足繁く通っている方であれば当たり前の話です。でも、TDLやTDSに自ら足を運ばなければこの事実に気づくことができないかもしれません。

「客単価」の上昇で高PERの説明がつくか?

以上のように、オリエンタルランドの売上の計算上、「単価×数量」の「数量」、つまり入場者数についてはこれ以上の大幅な増加は見込めません。

となれば、売上を大きく伸ばすためには計算式のもう片方の「単価」を上昇させるしかありません。このことは会社側も理解しているようで、今年4月からパスポートや駐車料金が値上げとなりました。でも、これによる客単価の増加はせいぜい10%程度でしょう。

PER40倍というのは、利益が毎年30%ずつ増えていかなければ適正水準とはなりません。でも、客単価を毎年30%ずつ増やし続けることなど不可能です。コスト削減による利益アップにも限界があります。そのため、筆者ならオリエンタルランド株の現状のPERからみて、株価はかなり割高という結論を導き出します。

もし、オリエンタルランド株のPER40倍が妥当と考えているなら、それは今後年率30%で成長を続けると思っているのと同じ意味です。そのファンダメンタル分析の精度は低いと言わざるを得ません。中途半端なファンダメンタル分析は、何も分析しないより悪い結果をもたらしかねません。

ファンダメンタル分析はもちろん重要ですが、その精度に自信がないのであれば、テクニカル分析や損切りなども併用することで、大きな損失を防ぐように心がけてください。

次回は、多くの投資家が割高と評価しているにもかかわらずオリエンタルランド株が上昇を続けた理由を探るとともに、保有株の売却や空売りを実行するタイミングについて考えていきたいと思います。