東日本の壊滅もあり得た原発事故

先日、政府は福島第一原発事故についてのいわゆる「吉田調書」を公開しました。この「吉田調書」の中に、2号機の原子炉水位が低下して危機的状況となった3月14日を振り返り、事故により東日本が壊滅状態に陥ると思ったという記述があります。

つまり、福島第一原発事故は、最悪の場合東日本に人が住めなくなるほどの深刻な結果になったかもしれないことが、この調書からは伺い取れるのです。

また、時の総理大臣である菅直人氏も、後に原発事故当時は東日本壊滅を覚悟したと述べています。菅氏は、3月22日に原子力委員会委員長の近藤駿介氏に対し、「最悪シナリオ」の作成を依頼し、近藤氏は首都圏まで放射能汚染が広がるとの分析をしました。

筆者は、東日本大震災が起こった翌週の月曜日(3月14日)、建設株を除く持ち株を一旦売却しました。それは、様々な情報を独自に収集した結果、最悪の場合原発事故により東日本壊滅さえ十分にあり得ると感じたからです。実際には日経平均株価は翌15日の8,227円63銭で下げ止まり、その後は急速に値を戻す展開となりましたが、これはあくまでも結果論です。もし、本当に東日本壊滅という事態に陥れば、株価の下落はこんなものでは済まなかったでしょう。

暴落時に買い向かう投資家は「株価暴落の理由」が分かっているのか?

ところが、メディアやネットに登場する「カリスマ個人投資家」の中には、あの東日本大震災後の株価急落で株を安く買い集めて多額の利益を出した人も多いようです。そして口々に「あの暴落は絶好の買い場だった」と語っています。

しかし、彼らのうち、原発事故による株価急落時に「東日本が壊滅するかもしれない」と思いながら安値を買い向かった人は果たしてどれだけいたでしょうか。もし、筆者のように東日本壊滅の可能性を感じていたならば、恐ろしくて買い向かうどころか持ち株を整理したくなるのではないでしょうか。

ここで筆者が言いたいのは、株価が急落しているときは、急落する何かしらの理由が隠れているということなのです。もしその理由が分かったなら恐ろしくて買う気が起きないはずですし、理由が分からないならなおさら逆張りで買い向かうべきではありません。

リーマンショック時は、暴落に次ぐ暴落で、株価が半値以下にまで下落した個別銘柄が後を絶ちませんでした。日経平均株価の25日移動平均線からのマイナスかい離率など、下値メドを表す各種テクニカル指標が全く通用しない異常事態でした。

そんな中、暴落の初期段階で、いつもと同じように逆張りで買い向かった投資家は、全く底値買いとはならずにさらなる株価下落に苦しんだのは記憶に新しいところです。

暴落時でも下降トレンド入りで速やかに売却すれば問題なし

株価の急落時に問題となるのは、持ち株の処理です。すでに下降トレンド入りしてからかなり時間が経過した後であれば、基本的に持ち株はありませんので特段問題ありません。一方、急落前の株価が堅調で個別銘柄の多くも上昇トレンドを維持しているような場合、投資可能資金の多くを株式に投下しているだけにやっかいです。それでも、トレンドが上昇から下降に転換したならば、持ち株の売却を進めて損失の拡大を防ぐ必要があります。

東日本大震災後、筆者は週明けの3月14日に窓を開けて急落するのを承知しつつ、持ち株につき売却注文を出しました。ただ、阪神淡路大震災後の株価の動きから予想して、逆行高が期待できる建設株は翌日に持ち越しました。その結果、含み益は減少したものの、トータルではそれなりの金額の利食いで撤退することができました。

リーマンショックの時もそうでしたが、下落スピードがマイルドであろうが暴落であろうが、株価のトレンドが下降トレンドに転じた時点で速やかに売却していれば、例え損失が生じても致命的なダメージは負わずに済ませることができます。

もしその後反発したとしたら、そのときに再度ポジションを構築し直せばよいのです。東日本大震災後は、何よりも損失の拡大を回避することが重要と筆者は感じていました。

資金の一部のみを使うならば優良株の「打診買い」も一考

ただし、株価急落時、投資可能資金の一部を使って「打診買い」をする程度であれば戦略の1つとして悪くないとは思います。この方法は順張りを是とする筆者には肌に合いませんが、逆張りに抵抗のない方は検討に値するでしょう。

例えば、さらに株価が下がったとしても買い増しをする覚悟で、株価急落時に投資可能資金の10%~20%ほどを投入して好業績銘柄の突発的な安値を買い向かうのです。

株価の急落時は、好業績で株価が長期間上昇し続けているような銘柄も連れ安して、普段買えないような価格で買うことができます。そして、それらの銘柄は株価急落が落ち着くと、他の銘柄に先駆けていち早く株価が回復するのも事実です。

したがって、好業績で長期的な株価上昇が期待できる銘柄をあらかじめピックアップしておき、株価急落時に備えておくのがよいでしょう。

どのような銘柄が該当するかは、各個別銘柄のリーマンショック後や東日本大震災後の株価の動きをみればある程度目星をつけることができると思います。

具体的には、毎年売上高、利益とも増加していて今後も上昇が見込まれる銘柄や、将来性が非常に高い銘柄で、右肩上がりに長期間上昇を続けてきた株価が大きく崩れたところを狙います。

例えばカカクコム(2371)の株価チャートをみてみると、リーマンショック時の2008年10月には確かに大きく株価が下がっていますが、他の銘柄に比べるとそれほどひどいものではありませんでした。そして、2カ月後の12月には早くも高値更新をしています。東日本大震災のときも、下落は軽微で、2カ月後の5月に高値更新と強い動きをみせました。

カカクコム(2371)の株価チャート

順張り派と逆張り派で、株価急落時の投資行動は真逆になります。順張り派は持ち株を売却しますが逆張り派は買いを入れます。

どちらが正解、とはっきり結論付けることはできないのも事実ですが、もし逆張りでうまくいかないとお悩みの方は、逆張りがご自身に向いていない可能性もあります。そんなときは、順張りもぜひ試してみてください。