決算コメント

日本電産

1.業績は順調に拡大中

日本電産の2017年3月期3Q(2016年10-12月期)業績は、表1のように順調に拡大しました。3Q営業利益は前年比21.2%増の371億9,300万円となりました。

製品グループ別にみると、精密小型モータ(HDD用スピンドルモータなど)は3.3%営業増益となりました。伸びは小さかったものの、高水準の利益を維持しました。HDD市場は数量減少が続いていますが、HDD単価が底打ちしつつあり今後緩やかに上昇するという業界予測が出ています。大手の寡占化が進んでいるためです。この動きに伴い、日本電産のHDD用スピンドルモータ(世界シェア80%)の採算も緩やかに向上しています。

その他小型モータ(電機、機械など幅広い産業で使われている)も、モジュール化に伴う単価上昇によって採算が改善しています。

ハプティック(触覚)デバイス用モータ(世界シェア40%で2位)は、特定のスマホメーカー向けが主力なので、変動が大きい模様ですが、今後は中国スマホ向けなどへ拡販する意向です。

車載及び家電・商業・産業用は、パワーステアリング用モータ、コントロールバルブ、ADAS(先進運転支援システム)関連のミリ波レーダー、車載カメラなどが好調で、前年比31.5%増益の大幅増益となりました。

機器装置は、液晶ガラス基板及び有機EL搬送用ロボット、ロボット向け関節部品が好調で55.4%増益。

電子・光学部品は車載用カメラ事業の立ち上げが進んだこと、構造改革が成功したことによって94.2%増益となりました。

今3Qは営業利益に対する円高デメリットが50億円(平均為替レートは前3Qが1ドル=121.50円、今1Qが109.31円)ありましたが、各部門の好調で吸収しました。

表1 日本電産の業績

2.2017年3月期会社予想業績は上方修正された

今3Qの結果を受けて、会社側では2017年3月期見通しを上方修正しました。通期営業利益は前回予想は1,350億円でしたが、今回予想は1,400億円(前年比18.7%増)です。

来期2018年3月期も順調な業績拡大が予想されます。精密小型モータの営業利益は一桁増が続くと思われます。車載用はパワステ用モータの受注が積みあがっており、業績への寄与が大きくなっています。またADAS関連は、メイン顧客である本田技研工業以外の新規顧客にも納入が始まっている模様です(ホンダの子会社でADAS関連製品を開発していたホンダエレシスを2014年に日本電産が買収した)。

このため、2018年3月期も15~20%以上の営業増益が予想されます。会社側は、車載、一般産業などの分野でモータ事業を積み上げ、中長期で安定成長を目指す方針です。

また、2016年8月に米エマソン・エレクトリックのモータ・ドライブ事業及び発電機事業を買収すると発表しました。この買収が2017年1月中に完了する見込みです。買収価額は12億ドル(1ドル=114円換算で約1,370億円)、買収事業の売上高は2015年9月期1,674百万ドル(同約1,910億円)で損益は不明ですが、発電機から一般産業用モータまで幅広い製品を持ち、優良顧客を多数持っています。来期はこの買収による売上高、利益の上乗せが見込まれます(買収に伴うのれん(国際会計基準では償却しない)と無形資産(償却性と非償却性に分かれる)の金額が確定していないため、実際の収益寄与は会社側の報告を待ちたい)。

3.人材を強化中、引き続き投資妙味を感じる

これまで注力してきた各事業が大きくなろうとしています。特に車載用モータ、ADAS関連事業、精密小型モータの中のその他の小型モータです。

人材の強化も始めており、今来期に計1000人の中途採用を計画しています。3Qまでに約500人を採用していますが、この中には、IoT、AI、ソフトウェア技術者など、従来当社の弱点だった分野の技術者が含まれています。

引き続き投資妙味を感じる銘柄です。

グラフ1 日本電産のセグメント別営業利益

(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

表2 日本電産の製品グループ別業績推移

ファナック

1.営業減益が続いているが、会社側は中国、アジアが底を打ったと見ている

ファナックの2017年3月期3Qは、表3のように前年同期比、前四半期比(2Q比)ともに営業減益となりました。通期見通しは上方修正されましたが、4Q見通しも二桁減益となっています。営業利益の減少は、設備投資、研究開発費の増加、働き方改革のための人員増加などで経費が増加したことにもよります。この経費増加は来期も続く模様です。

表3 ファナックの業績

2.自動車、建設機械向けのFA、ロボットから回復か

会社側は、アメリカ、中国の自動車向け、アジアの建機向け中心にFA(NC制御機器とサーボモータ)、ロボットが底を打ったとしています。表5の部門別地域別売上高を見ると、FAのアジア向けが前年比、2Q比ともに回復しています。中国の自動車産業向けの増加です。FAの国内向けも下げ止まり感があります。

また、ロボットの米州向けが堅調で、アジア向けも回復感が出ています。これも自動車向けの寄与です。ロボットの受注は好調で会社側は設備増強を急いでいます。

新製品としては、今年9月からフィールドシステム(工作機械をネットワークで結び管理するシステム)をまず特定顧客に向けて販売します。これが軌道に乗ると、FA、ロボットの売上増加に繋がると思われます。

足下の円安も支援材料です。当社の輸出の大半は円建てですが、想定よりも円安になったので、海外で売り易くなっています。

一方で、ロボマシン(スマートフォンのアルミケースを削るロボドリルなど)は、IT向けに回復感が見られません。

このように、経費増加はあるものの、FA、ロボットのアジア向け、アメリカ向け中心に回復に向かう兆が出ています。この動きが続けば、来期2018年3月期1~2Qにも前四半期ベースで営業増益に転換する可能性があります。また、アメリカのトランプ新政権の雇用増加策によって、米系、日系の自動車メーカーや米系の加工型製造業の間でアメリカ工場を増強する動きが出ています。この動きが続くならば、アメリカで設備投資ブーム、特にロボットブームが起こる可能性があります。アメリカにはファナックのような産業用ロボットメーカーがないため、国境税が設定されても競合他社との競争条件は変わりません。

会社側が考える通りに受注、売上が回復すれば、来上期中に今のような前四半期比で営業減益が続くトレンドが変わって増益転換への道筋が見えてくる可能性があります。PERは高めになっていますが、中長期で投資妙味を感じる銘柄です。

グラフ2 ファナックの連結部門別受注高

(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)

表4 ファナックの連結部門別売上高

表5 ファナックの部門別地域別売上高

アドバンテスト

1.半導体テスタの大手、今期会社予想は上方修正された

アドバンテストは、半導体を出荷する前に検査する半導体テスタの世界的大手です。アメリカのテラダインと世界市場を2分しています。半導体の生産工程は、シリコンウェハ上に回路を描く「前工程」と、そのシリコンウェハをチップに切り出してIC(半導体)に組み立てて検査する「後工程」に分かれており、検査工程で使うテスタは後工程の代表的な設備です。なお、前工程の代表的な日本企業は、東京エレクトロン、SCREENホールディングス、ニコンなどです。

業績は表6の様に一進一退が続いてきましたが、一方で、2017年3月期の1Q、2Q決算時に会社側は通期見通しを上方修正してきました。今回も今期の会社予想営業利益は前回会社予想の145億円(前年比15.1%)から160億円(前年比27.0%増)に上方修正されました。受注が上向いていることと、想定為替レートが円安になったためです(4Qの想定レートを、1ドル=100円から110円に、1ユーロ=110円から120円に修正)。

表6 アドバンテストの業績

グラフ3 アドバンテストの受注動向

(単位:億円、四半期ベース、会社資料より楽天証券作成)

グラフ4 アドバンテストの半導体テスタ受注動向

(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)

2.2018年3月期は、メモリ、液晶、有機ELの大型投資計画相次ぐ

来期2018年3月期は受注が更に伸びる可能性が大きくなっています。

メモリ・テスタの分野では、DRAM(ダイナミックRAM、パソコンやスマートフォンなどのメインメモリに使われる)、3次元NAND型フラッシュメモリ(スマートフォンやパソコンのストレージメモリに使われる)の大型設備投資が計画されています。

非メモリ・テスタ(スマートフォンに搭載されるロジックIC用など)では、第5世代移動通信システム(5G、今のLTE、LTE-Advancedの次の世代)向けの半導体需要が増えることに伴うテスタ需要に期待できそうです。中国では2017年後半から5G投資が始まると言われています。韓国でも2018年2月の平昌(ピョンチャン)オリンピックに向けて同様の投資の動きが出てくると思われます。

また、液晶パネルと有機ELディスプレイの大型投資も計画されています(アドバンテストは液晶パネルドライバー(液晶の制御用半導体)用テスタも手掛けています)。

ユーザー業界の動きを見ると、少なくとも来上期は好業績が期待できそうです。その後も半導体設備投資特有の受注の波は予想されますが、フラッシュメモリ、液晶パネル、有機ELは大型投資が続く可能性があります。投資妙味があると思われます。

なお、グラフ5は日本製半導体製造装置の受注額と販売額を表したものです。半導体業界と半導体製造装置業界では、受注額(3カ月平均)÷販売額(3カ月平均)をBBレシオとして業界の好不調を測る目安にします。BBレシオが1を上回っているときは好調、1を下回っている時は不調と見ますが、より詳細には受注額、販売額の各々のトレンドを見ます。グラフ5を見ると、販売額に対して受注額が大きく伸びていることが分かります。このモメンタムの強さが、半導体製造装置株の投資妙味に結びつくと思われます。

グラフ5 日本の半導体製造装置:受注額と販売額

(単位:百万円、日本製装置の3カ月平均、出所:日本半導体製造装置協会より楽天証券作成)

グラフ6 日本の半導体製造装置:BBレシオ

(単位:倍、BBレシオは受注額÷販売額、3カ月平均、出所:日本半導体製造装置協会より楽天証券作成)

銘柄コメント

小野薬品工業

1.小野薬品とブリストル・マイヤーズ スクイブは、メルクと特許係争で和解した

2017年1月21日付けの小野薬品工業プレスリリースによれば、小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)は、免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)「オプジーボ」に関する特許係争について、米メルクと和解しました。内容は以下の通りです。

  • メルクは、小野薬品とBMSが保有する抗PD-1抗体の用途特許及び物質特許が有効であることを確認する。
  • 小野薬品とBMSは、メルクに対して「キイトルーダ」の販売を許諾する。メルクはライセンス契約の頭金として6億2,500万ドル(1ドル=114円換算で約710億円)を小野薬品とBMSに支払う。また、2017年1月1日から2023年12月31日までのキイトルーダの全世界売上高の6.5%、2024年1月1日から2026年12月31日までは同じく2.5%をロイヤルティとして支払う。
  • 頭金とロイヤルティの配分は、小野薬品25%、BMS75%。
  • キイトルーダの販売に関する小野薬品+BMSとメルク間の訴訟はこれで終結する。

2.小野薬品工業の業績へのインパクト

詳細は、2月2日開催の2017年3月期3Q決算カンファレンスで公表される模様ですが、頭金約710億円のうち小野薬品の取り分約178億円は、今期に損益計算書の「その他の収益」に計上される見込みです。これはそのまま営業利益になると思われます。また毎期のロイヤルティは、現在BMSから入金しているロイヤルティと同様、売上収益の中の「ロイヤルティ・その他の営業収益」の項目に入り、これも営業利益に反映されると思われます。

キイトルーダの売上高は表7の通りです。2016年7-9月期売上高は3億5,600万ドルで、1ドル=114円換算で約410億円です。この6.5%は約27億円で小野薬品の取り分25%分は約7億円、4をかけて年率換算すると28億円となります。キイトルーダの伸びを考えると、来期は小野薬品にとって30億円強の寄与になると思われます。大きくはない数字です。

3.今回の和解が意味するところ

今回の和解の意味は、キイトルーダに関する特許係争で、小野薬品+BMSが実質的に勝訴したということです。

頭金とロイヤルティの金額については、様々な意見があると思われます。頭金は納得できてもロイヤルティの比率が低いと考える向きもあろうかと思われます。会社側は、キイトルーダが伸びる場合は、ロイヤルティも伸ばしたいという考え方から、あまり高い率は求めなかったのかもしれません。

メルクが実質的に特許侵害があったことを認めたことは重要です。成分は異なりますが、キイトルーダとオプジーボはほぼ同じ作用機序(薬の働き方)であるということがはっきりしたわけです。そうであれば、オプジーボとキイトルーダの違いは、成分の違いと、臨床試験デザインの違いによる臨床試験の結果の違いということになると思われます。

2017年1月13日付けの本稿で指摘したChechMate227試験の重要性を改めて考えると、非小細胞肺がんファーストラインではメルクがKEYNOTE-021試験をベースとしたPD-L1発現率の制限がないキイトルーダと化学療法剤との併用療法をFDA(アメリカ食品医薬品局)に申請し、2017年1月10日付けで受理されました。一方でBMS+小野薬品も、オプジーボとヤーボイ、化学療法剤との併用試験(PD-L1発現率1%以上とこの制約なしを含む)を実施中です。次の焦点は、CheckMate227の成否です。1月20日のBMSプレスリリースでは、オプジーボとヤーボイの併用療法についてFDAの迅速承認を求めない(通常のペースで臨床試験を続ける)とのことですので、CheckMate227試験が早期終了する場合は、オプジーボと化学療法剤の併用療法試験が成功した時となると思われます。

4.株価上の悪材料の一つがなくなった

今回の和解はポジティブに受け取ってよい内容と思われますが、株価は軟調です。日本でのオプジーボの今後の薬価引下げ予想、キイトルーダとの競合や、薬品・バイオセクターへの不透明感(日本での毎年薬価改定の議論やアメリカでの薬価引下げの動きなど)に影響されていると思われます。小野薬品工業の株価には一定の戻り余地があるという意見は変えませんが、薬品・バイオセクターの不透明感がある程度払拭されるまで、株価は軟調な動きが続く可能性があります。

なお、1月26日に公表されたBMSの2016年10-12月期決算によれば、オプジーボのアメリカでの売上高の伸びが大きく鈍化したものの、アメリカ以外での売上高が急増しています(表7)。小野薬品はBMSからオプジーボの北米売上高の4%、欧州その他(日本、韓国、台湾と北米を除く地域)の売上高の15%をロイヤルティとして受け取ります。BMSのオプジーボのアメリカ以外の売上高には小野薬品からのロイヤルティ収入が含まれるため、それがどの程度なのかも論点になりますが、3Qの小野薬品のロイヤルティ収入に注目したいと思います。

表7 免疫チェックポイント阻害剤の売上高