執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 2月決算小売大手には最高益を更新する企業が多い。4月上旬に決算を発表する企業が多く、注目される。
  • セブン&アイは、リストラ効果に内外コンビニの成長が加わり、今期の最終利益は大幅増益となる見込みである。

(1)業績好調な2月決算小売業

家具・住居製品を展開するニトリHLDG(9843)は28日、2017年2月期決算を発表しました。連結経常利益は、前期比17.4%増の857億円と、30年連続の増益でした。続く今期(2018年2月)の経常利益(会社予想)は、前期比15.4%増の990億円と、最高益更新が続く見通しです。決算を好感して29日の株価は、前日比820円(6%)高の14,080円と大きく上昇しました。

小売業には、2月決算銘柄が多数あります。以下の3つの理由から、4月前半に2月決算の小売株が注目されやすくなります。

いち早く新年度(2017年度)の業績予想が出る

日本の上場企業はほとんどが3月決算で、4月後半~5月にならないと、決算が発表されません。4月前半は、3月期決算企業にとって「決算発表直前」に当たり、積極的な売買を仕掛けにくい時期です。

2月決算小売株は、3月末~4月前半に決算を発表します。3月決算企業が売買しにくい時に、2月決算小売株は先に決算発表を終え、新年度(2018年2月期)に増益予想を出していると、注目が集まります。

小売業は新年度予想を増収増益で出す傾向が強い

日本企業は新年度の業績予想を低め低めに出す傾向があります。後から、業績予想を下方修正しないでいいように、できれば上方修正できるように、わざと低めに出すようです。ところが、小売業は増収増益で予想を作る傾向が強いのです。3月期決算企業の新年度予想がわからない中、いち早く増収増益で予想を出してくる小売株には注目が集まります。

小売業大手には最高益更新企業が多い

人口が減少する日本で、小売業は停滞産業のイメージがあります。ところが、実際には、大手小売業には最高益を更新する企業が多数あります。新年度で、最高益更新が続く見込みの小売株には、見直し買いが入ることがあります。

(2)小売業は成長産業

小売業の時価総額上位は、軒並み、最高益を更新しつつあります。小売業は、成長産業であるといえます。

最高益を更新しつつある小売大手には、以下のような特色を持った企業が多いことがわかります。

製造小売業として成長

利益率の低いナショナルブランド品の販売を減らし、自社で開発したプライベート・ブランド品を増やすことで競争力を高め、売上・利益を拡大させてきました。自社ブランド品について、商品開発から生産・在庫管理までやることが多く「製造小売業」とも言われます。最高益を更新中の専門店(ニトリHLDG、エービーシー・マートやセブン&アイHLDG)はこの取り組みが進んでいます。百貨店・家電量販店はこの取り組みが遅れています。

海外で成長

内需株であった小売業が、近年はアジアや欧米で売上を拡大し始めています。日本で強いビジネスモデルが、そのまま海外で通用するケースもあります。セブン&アイHLDG、良品計画などは海外での売上拡大が軌道に乗ってきました。

ネット販売で成長

ネット販売が本格性長期を迎えています。3月決算の小売業で、MonotaRO(3064)、スタートトゥデイ(3092)などがネット小売の成長企業となっています。大手スーパーや百貨店でも最近ネット販売を強化する努力を始めていますが、今のところコストに見合う利益を確保できていません。

(3)2月決算小売業(東証一部上場)時価総額上位12社の企業業績

2月決算小売業(東証一部上場)時価総額上位12社の連結経常利益:2017年2月期と2018年2月期

(金額単位:億円)

コード 銘柄名 2017年2月期
(会社予想)
前期比 最高益 2018年2月期
(市場予想)
前期予想比 最高益
3382 セブン&アイHLDG 3,510 0.2% 3,890 10.8%
9843 ニトリHLDG 【注】875 16.7% 1,010 15.4%
8267 イオン 1,850 3.0%   2,017 9.0%  
8028 ユニー・ファミリーマートHD 593 14.3% 700 18.0%
2651 ローソン 730 4.9% 718 -1.6%  
7453 良品計画 380 16.2% 423 11.4%
8227 しまむら 469 15.2%   511 9.0%
2670 エービーシー・マート 429 1.6% 447 4.4%
3086 J.フロント リテイリング 440 -8.2%   496 12.6%
8273 イズミ 338 8.7% 374 10.5%
8233 高島屋 360 -4.7%   383 6.5%  
3141 ウエルシアHD 237 16.3% 296 24.7%

【注】ニトリのみ2017年2月経常利益は実績。他は会社予想。2018年2月期の市場予想は、
3月29日時点のアイフィスコンセンサス予想。楽天証券経済研究所が作成。

上の表でわかる通り、2月決算小売業の時価総額12社のうち、8社が前期に最高益を更新する見込みとなっています。小売業が成長産業であることがわかります。

ただし、総合小売業(百貨店・大手スーパ-)は苦戦しています。イオンは、金融業・不動産業で利益を稼ぎ、高い収益を維持していますが、小売業は苦戦しています。J.フロント、高島屋は、インバウンド(訪日外国人の買い物)需要の失速で前期は減益の見通しです。

上の表で、特に注目できるのは、セブン&アイHLDGです。2017年2月期の経常利益(会社予想)は前期比0.2%増益で、最高益を更新する見込みですが、連結純利益(会社予想)は、同50%減益の800億円の見込みです。百貨店(そごう西武)・スーパー(イトーヨーカ堂)のリストラで特別損失を1,000億円あまり出すことが影響します。

セブン&アイの2018年2月期経常利益(市場予想)は、内外コンビニの成長により、10.8%増の3,890億円となる見込みです。連結純利益(市場予想)は、リストラ特損が減少する効果もあり、前期比136%増の2,039億円と大幅に伸びる見込みです。

コンビニの成長とリストラ効果の発現で、最終損益が大きく改善することから、投資家の注目を受けやすくなると考えています。

なお、今期(2018年2月期)の経常利益(市場予想)を見ると、時価総額上位12社のうち、9社が最高益を更新する見込みです。小売業が成長産業であることがわかります。