執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 2月決算銘柄には小売り・外食業などで、個人投資家に人気の高い株主優待制度を有する銘柄が多い。株主優待制度は、個人(小口)投資家を優遇する内容となっており、最小投資金額で投資すると優待取りの効率がいい。
  • ダイヤモンドダイニングは、優待人気が高いが故に、優待取りの買いで、1月から株価が急騰している。優待取りの買いが終わると、株価が急落する可能性もあり要注意。

本レポートでコメントする銘柄

ダイヤモンドダイニング(3073)・吉野家HLDG(9861)・日本航空(9201)・ビックカメラ(3048)・ローソン(2651)

(1)(個人投資家にとって)優待投資のすぐれた面

以下の①・②が挙げられます。

  • 株主優待制度は個人(小口)株主を優遇する内容となっています。
  • 自社商品や自社製品を贈呈する株主優待に魅力的な優待が多い。

それでは、それを詳しく説明します。

株主優待制度は個人株主を優遇する内容となっています

機関投資家には、株主優待制度に反対しているところが多数あります。ほとんどの株主優待制度が、小口投資家(主に個人株主)を優遇し、大口投資家(主に機関投資家)に不利な内容になっているからです。

1つ例をあげましょう。2月決算の吉野家HLDGの優待内容は、以下の通りです(注:優待内容は変更されることがあります。常に最新の情報を確認してください)。

吉野家HLDGの優待内容

毎年2月末と8月末の株主名簿に記載されている株主に以下の優待商品を送ります。2月末の株主名簿に登載されるためには2月23日(木)までに同社株を購入する必要があります。2月24日(金)に同社株を購入しても、2月の株主優待は受けられません。

保有株式数 株主優待(食事券贈呈)の内容 1年間の合計
100株以上 2月末3,000円 8月末3,000円 6,000円分
1,000株以上 2月末6,000円 8月末6,000円 12,000円分
2,000株以上 2月末12,000円 8月末12,000円 24,000円分

(注)優待食事券3,000円分は300円券10枚で贈呈される。1回の食事で2枚以上使えるが、優待券だけでの支払いにお釣りは出ない。牛丼の吉野家の他、はなまるうどん、ステーキのどん、しゃぶしゃぶどん亭、京樽、すし三崎丸など吉野家グループの多様な業態で利用可。食事券10枚(3,000円分)を定めた期限までに返送した場合、自社グループ製品詰合せセットと交換可能(詳細は同社HPで要確認)。

出所:同社HP

上記の優待内容から、100株当たり、1年間でどれだけの金額の優待を受けられるか計算したのが、以下の表です。

保有株式数 100株当たり優待 計算方法
100株 6,000円 6,000円
1,000株 1,200円 12,000円÷10
2,000株 1,200円 24,000円÷20
10,000株 240円 24,000円÷100
100,000株 24円 24,000円÷1,000

(出所:楽天証券経済研究所が作成)

ご覧いただくとわかる通り、100株当たりの経済メリット享受額は、最小単位(100株)を保有する株主が6,000円で最大です。保有株数の大きい株主は、100株当たりの優待受け取りが小さくなります。つまり、株主優待制度は、小額投資の個人株主を優遇するものであることがわかります。

個人株主数を増やしたい上場企業が、優待制度を積極活用して、個人株主にアピールしているわけです。また、自社製品やサービスを宣伝するために、株主優待を活用する企業も多数あります。

効率良く、優待を獲得するためには、最小投資金額で、さまざまな優待銘柄を保有することが有利です。

自社商品や自社製品を贈呈する株主優待に魅力的な優待が多い。

前掲の吉野家HLDGも、自社商品を優待に利用しています。

2月14日の同社株価は、1,660円です。最小投資単位である100株投資するのに、必要な金額は166,000円です(売買手数料は除く)。既にご説明した通り、100株保有すると、1年間に6,000円相当の優待券が得られます。166,000円投資して、6,000円相当の優待が得られるわけですから、効率の良い優待と考えます。

吉野家HLDGは、優待の他に、配当金も出します。今期(2017年2月期)は、中間配当と本決算での配当を合わせた配当利回りは、2月14日の株価に対して、1.2%となる見込みです。

(2)株主優待目当ての投資の困った側面

ここからは、株主優待目当ての投資の、困った側面を話します。以下の2点が挙げられます。

  • 優待魅力に惹かれて投資する人の一部に、財務内容や企業業績をまったく見ないで投資する傾向がある。また、株価をまったく見ない人もいる。気付かないうちに株価が大きく下落して損が膨らむこともある。
  • 株主優待制度が突然廃止されることがある。

それでは、上記の具体例をこれからお話しします。

2010年の日本航空破たんで、優待目当て投資の問題が浮きぼりになる

「優待目当ての投資は良くない」例として有名になったのは、破たん前の日本航空です。日本航空は、株主に対して、航空運賃が正規料金の半値になる株主優待券を配賦していました。日本航空は、かつて国営企業つまり「親方日の丸」企業でしたので、「まさか破たんすることはないだろう」と、財務内容を見ずに優待目当てで投資していた個人投資家が多数いたことが知られています。

破たん後に再生して再上場した現在の日本航空(9201)は、財務内容も収益力も回復し、魅力的な投資対象になっていると思います。ところが、破たん前の日本航空は、財務内容に重大な問題を抱えていました。私は、日本航空の破たん時にファンドマネージャーをやっていましたが、当時の日本航空は実質債務超過であったことから、投資不可リストに入れており、投資することはありませんでした。

「実質債務超過」とは、自己資本が実質マイナスということです。当時、表面上、自己資本はプラスでしたが、開示されている財務諸表の注記事項をきちんと見れば、退職給付債務(年金)の積み立てに大きな不足があり、差し引きすると、実質債務超過であったことがわかっていました。また、LCC(低運賃の航空会社)の新規参入で、世界的に航空会社の経営は悪化しており、米国では大手航空会社の経営破綻が相次いでいました。元「親方日の丸」企業だったからというだけで、信頼することはできない状況だったと思います。

優待狙いの買いで株価が急騰したところで買うと、優待の権利落ち後に、株価が急落することがある

魅力的な株主優待で有名な銘柄には、優待の権利取り直前に株価が急騰し、権利落ち後に株価が急落するものもあり、注意を要します。優待の権利取り前に、株価が急騰している銘柄は、投資を避けた方が良いと思います。

今月の人気優待銘柄で言うと、ダイヤモンドダイニングは要注意です。2月末の優待取りを狙った買いが1月から入って、株価が既に急騰しているので、ここからは買わない方がいいと思います。

ダイヤモンドダイニング週足:2016年7月1日―2017年2月14日

ダイヤモンドダイニングは、100株(2月14日の株価1,908円で評価すると190,800円)を保有する株主に対し、2月末に、食事券6,000円または6,000DDマイル(1マイル1円で交換できるポイント)が付与されます。投資額190,800円に対して、6,000円相当の優待を得られるので、魅力的な優待と言えます。

ただし、明らかに優待狙いと見られる買いで株が急騰しているので、要注意です。同社は、優待内容を2月9日に変更しています。それまでは、2月末の100株の保有者には、食事券4,000円または4,000DDマイルを付与するとしていました。優待内容を5割増しにする発表を受けて、同社株は、2月10日以降、上昇が加速しています。

優待取りの買いが終わると、株価が大きく下がるリスクもあります。私が今ファンドマネージャーで、この銘柄を保有していれば、即、売ります。ただし、それはあくまでも私の判断ですので、売買の最終判断はご自身でなさってください。

(3)株主優待とどう付き合っていくか

株主優待は、昨日のレポートで書いた通り、個人株主にとって、とてもありがたい制度です(機関投資家の多くにとっては迷惑な制度でもあります)。これを有利に生かさない手はないと思います。自分にとって魅力的な優待を実施している企業に長期投資し、株式投資を楽しんだら良いと思います。

ただし、株式投資である以上、株価は上がることも下がることもあることを理解して投資すべきです。最低限、注意すべきことは、以下の2点です。

  • 優待取りで株価が急騰している銘柄は投資を避けた方が良いと思います。
  • 重大な不祥事を起こしている企業、赤字に転落している企業、構造不況におちいっている企業は、たとえ株主優待が魅力的でも、買わない方がいいと思います。保有している企業がそうなってしまったら、売るべきと思います。

株式投資である以上、業績が好調な銘柄に投資した方がいいわけです。2月決算銘柄では、優待内容が魅力的で、業績も好調なビックカメラに、注目しています。また、株主優待制度はなくとも、配当利回りが魅力的なローソンにも注目できます。

明日、ビックカメラやローソンなど2月決算銘柄について、さらに詳しくご説明いたします。