執筆:香川睦

要旨(ポイント)

  • 原油相場の回復とトランプ新大統領の誕生を背景とする政治経済面での優位期待でロシア株が堅調展開。ロシア株式の年初来上昇率は円換算で約3割と日本株より優勢。
  • ロシアの個別銘柄投資には流動性とコストの問題が伴う。投資コストを抑制しながら手軽に分散投資したいなら、ロシア株式連動型ETF(ドル建てと円建ての上場投信)に注目。
  • プーチン大統領と安倍首相の首脳会談(12月15日)が注目される。極東地域の産業振興や資源開発などの経済協力で「ロシア関連」銘柄への関心が一段と高まる可能性。

(1)ロシア市場は原油相場回復とトランプ当選を好感

ロシア株式の堅調が注目されています。代表的な株式指数であるMICEX指数(ルーブル建て)の年初来騰落率は+22.7%で、米国株(S&P500指数の+9.7%)や日本株(TOPIXの-2.2%)より優勢となっています。また、通貨ルーブルの対円相場は年初来+9.1%と堅調で、円換算したロシア株式の年初来上昇率は3割強で推移しています。

本年初めまでのロシア経済は、ウクライナ問題を巡る欧米諸国からの経済制裁の影響に原油相場の下落トレンドが重なり、厳しい財政状況に追い込まれていました。ところが、原油相場が2月に底入れしたのを契機にロシア株式も回復に転じ、米大統領選挙でのトランプ氏勝利を好感して株価は一段と堅調になりました(図表1)。プーチン大統領とトランプ次期米大統領は「波長が合う」とされ、大統領選挙中にエールを交換する場面もありました。新年に米露関係が改善に向かうことが日露関係進展を後押しするとの期待も出ています。

図表1:原油相場とロシア株式の推移

(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年12月7日)

(2)ロシア株ETF(上場投信)でみる好パフォーマンス

ロシアの名目GDPは約1.33兆㌦と世界11位の韓国に続き12位。13位のオーストラリアよりやや大きい経済規模です。実質成長率は、2015年こそ前年比-3.7%と落ち込みましたが、16年は-0.8%、17年は+1.1%に持ち直しが見込まれています(IMF調査・予測)。国家財政と企業業績が資源市況の変動から受ける影響は大きく、今年2月までは株価も通貨ルーブルも低迷しましたが、原油相場の底入れを機に回復トレンドを辿ってきました。

こうしたロシア株式の回復トレンドをとらえる投資ツールとしては、市場指数連動型ETF(上場投信)を活用する方法があります。米国(NYSE)に上場されているドル建てETF「iShares MSCI Russia Capped ETF」(シンボル:ERUS)、東証に上場されている円建てETF「Next FundロシアRTS指数連動型ETF」(コード:1324)などがその一例です(図表2)。OPEC(石油輸出国機構)総会が11月末に減産合意に至ったことによる原油相場回復とトランプ新政権下での対露政策緩和を見込むなら、ETFを活用し手軽に分散投資できます。

図表2:ロシア株式ETF(ドル建て/円建て)の価格推移

(注1)ロシア株式ETF(ドル建て/NYSE上場)=iシェアーズMSCIロシアキャップトETF(ティッカー:ERUS)
(注2)ロシア株式ETF(円建て/東証上場)=NFロシア株式RTS連動型ETF(東証コード:1324)
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年12月7日)

(3)注目される「ロシア関連銘柄」への分散投資

プーチン大統領は12月15日に訪日し、安倍首相と首脳会談を行う予定です。日本側では、北方領土の返還を求める交渉進展と、日露の経済関係強化への期待が広まっています。とは言っても、北方領土問題の解決や日露平和条約の締結が早期に実現できるか否かは予断を許さない状況です。

ただ、日本もロシアも政治経済面の協力を深めることが、中国に対峙する地政学的な立ち位置(ポジション)を有利にするとの見方があります。こうした点で、日本政府は民間企業の対ロシア事業拡大を支援する姿勢を示してきました。具体的には、極東地域の産業振興やエネルギー開発など8項目(健康寿命の伸長、快適・清潔で住みやすく活動しやすい都市作り、中小企業交流・協力の抜本的拡大、エネルギー、ロシアの産業多様化・生産性向上、極東の産業振興・輸出基地化、先端技術協力、人的交流の抜本的拡大)の対露経済協力案を示しています。こうした分野でのロシアへの進出もしくはロシアとの共同開発に携わりそうな企業(銘柄)群が「ロシア関連」と呼ばれ注目されています(図表3)。東証33業種で分類すると、卸売業(商社)、鉄鋼、倉庫・運輸、水産・農林、食料品(たばこ)、鉱業、建設業(プラント)、機械(建機)、サービス業(旅行代理店業)などの銘柄が挙げられます。

図表3:(参考情報)「ロシア関連」と呼ばれる銘柄一覧(業種別)

(注1)来期予想PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、配当年額と配当利回り=Bloombergの調査・集計平均
(注2)上記は参考情報であり推奨銘柄ではありません。「ロシア関連」と呼ばれる全ての銘柄を網羅した一覧ではありません。
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年11月7日時点)

今後のメインシナリオとして、資源市況の回復持続や日露と米露の関係改善を想定するなら、上記銘柄群から業種を分散して複数銘柄に投資をしていく方法が有効だと思います。

ただ、ロシア市場に関連する潜在的なリスク要因には留意が必要です。例えば、(1)堅調に推移している資源市況が下落に転じる、(2)米金利高とドル高の進行で通貨ルーブルが下落に転じる、(3)日露交渉が暗礁に乗り上げ経済協力が頓挫する、(4)トランプ政権が対露姿勢を(オバマ政権と同様)軟化させない、(5)ウクライナ情勢が緊迫化し、NATO(北大西洋条約機構)とロシアとの緊張が再び高まる、などの可能性には目配りしたいと考えます。