執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 外国人売買が日本株の動きを決めている。10月以降、外国人の買いで日経平均は上昇してきた。
  • 日本の景気・企業業績の改善を映し、日経平均は来年前半に20,000円をつけると予想しているが、12月後半は一旦上値が重くなると見ている。

(1)外国人投資家の買いで日経平均が上昇

日経平均株価と13・26週移動平均線の動き:2015年1月5日―2016年12月7日

(注:楽天証券経済研究所が作成)

7月に底打ちした日経平均は、10月以降、外国人の買いで上昇ピッチが高まりました。

日経平均株価と、13週移動平均線からのかい離率:2015年1月5日―2016年12月7日

(注:楽天証券経済研究所が作成)

11月以降の日経平均の上昇ピッチが速く、13週移動平均線からのかい離率が一時7%まで開いたため【注】、足元、やや過熱感が意識されました。

【注】日経平均の上昇ピッチが速く、13週移動平均線からの上方かい離率が10%に近づくと、過熱感が意識されます。ただし、かい離率10%は単なる目安に過ぎず、時にはかい利率が15%以上まで開くこともあります。

(2)日本株は世界景気敏感株、世界景気の改善が続けば外国人の買いは続く

株は、短期は需給、長期はファンダメンタルズ(景気・企業業績)によって動きます。世界経済が回復に向かい、日本の景気・企業業績も上向きに転じると考えているので、日経平均は、来年前半に20,000円をつけると予想しています。

しばらく上昇基調が続いていますが、一本調子の上昇が続くとは考えていません。短期的には、外国人の買いの勢いがやや弱まり、スピード調整することもあるでしょう。

日本株の動きを決めているのは、外国人投資家です。外国人は、買う時は上値を追って買い、売る時は下値を叩いて売ってくる傾向があるからです。10月以降、外国人が日本株を買い越すことにより、日経平均は大きく上昇しました。

日経平均と外国人の売買動向(買越または売越額、株式現物と日経平均先物の合計):2016年1月4日―12月7日

(出所:東証データより楽天証券経済研究所が作成)

上のグラフの外国人売買で、棒グラフが上(プラス方向)に伸びているのは買越、下(▲のついている方向)に伸びているのは売越を示します。これを見ると、日経平均は外国人が買うと上がり、売ると下がる傾向が強いことがわかります。

(3)外国人投資家は、ドル建て日経平均が上がらないことに苛立っている

外国人投資家にとっての日本株のリターンを見るには、ドル建て日経平均を見る必要があります。ドル建て日経平均に、ドルで日経平均に投資する外国人にとってのリターンが表れているからです。

【注】外国人投資家の日本株投資リターン

外国人投資家は、日本株を買う時、手持ちのドルを円に転換してから買います。日本株を売る時は、売却代金(円)をドルに転換します。したがって、外国人投資家にとっての日本株のリターンには、日本株の騰落率(円建て)だけでなく、日本株を保有している期間のドル円為替の動きも含まれます。日本株を買ってから、円高(ドル安)が進むと、外国人投資家は、為替差益が得られます。逆に、円安(ドル高)が進むと、為替差損が発生します。

日経平均とドル建て日経平均の動き比較:2015年12月末―2016年12月7日

(注:2015年末の値を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成)

外国人投資家にとっての「日経平均のリターン」は、日本人にとってのリターンと、全く異なります。上のグラフで赤矢印①・②をつけたところをご覧ください。

日経平均の低迷が続いたが、円高が進んだために、ドル建て日経平均は大きく反発しました。そのため、日経平均が暴落する前の1月に売りそびれた外国人は、2-6月もしつこく日本株を売ってきました。

日経平均は急反発したが、円安が進んだために、ドル建て日経平均は上昇していません。急騰前に日経平均を買った外国人は、ドル建て日経平均の上値の重さに苛立っています。ただし、日本株を買い遅れた外国人にとっては、今からでも買いやすいと言えます。

外国人から見て、日本株は「世界景気敏感株」です。世界景気の改善を映し、外国人は日本株の組み入れを引き上げつつあります。ただし、欧米年金や中東・中国などのソブリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド)は、原則為替ヘッジをしないで日本株を買うので、円安により投資が目減りすることに苛立っています。

私はファンドマネージャー時代、時々、米国・欧州・中東・中国などの年金基金や政府系ファンドと会って話しをしましたが、彼らが口をそろえて「円安にならないと上がらないなら日本株はいらない」と話していたのをよく覚えています。

  • 2016年2-4月
  • 2016年10-12月

(4)「裁定買い残高」が1兆5,000億円まで増加していることには注意が必要

株価指数先物を使って巨額のマネーを高速で動かす海外ヘッジファンドの動向を知るには、「裁定買い残高」の変化を見る必要があります。日々のニュースに反応して最初に動くのが、海外ヘッジファンドだからです。

詳しい説明は割愛しますが、「裁定買い残高」の変化は、主に外国人投資家の投機的な先物買いポジションの変化を表しています。

日経平均および裁定買い残高の変化:2016年1月4日―12月7日(裁定買い残高は12月2日まで)

(出所:東証データより楽天証券経済研究所が作成)

日経平均は、2016年に入ってから外国人の売りで大きく下がりました。1月に約2.5兆円だった裁定買い残高が、6月には5,000億円まで減少したことから、外国人の投機的な買いポジションは、6月時点で、ほぼ整理されたことがわかります。

その後、裁定買い残高は、9月から上昇に転じています。12月2日には1兆5,000億円まで増加しました。先物を使って動く投機筋が、日本株の買いポジションを復活させつつあることがわかります。

世界景気の改善が続けば、これからも外国人の先物買いが増え、裁定買い残高は2兆円以上に増加すると予想しています。ただし、裁定買い残高が、6月以降、既に1兆円増加していることには注意が必要です。突発的に悪材料が出ると、外国人が先物を大量に売ってくる可能性はあります。

(5)8日は続伸が見込まれるものの、年内は一旦上値が重くなる可能性も

12月7日のNYダウは297ドル高の19,549ドルと、最高値を更新しており、8日の日経平均も続伸が見込まれます。ただし、12月後半には、外国人投資家は、クリスマス休暇に入ります。外国人の手口が減ると、日経平均の上値は重くなる可能性があります。

ただ、日経平均が下がる局面では、日本銀行の日本株ETF買いが増加すると考えられます。突発的に大きな弱材料が飛び出さない限り、下値も限られると考えています。

日本および世界の景気改善がはっきりしてくる中で、再び外国人の日本株買いが増え、日経平均が20,000円に向けて上昇するのは、来年からと予想しています。