執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 日本株の動きを決めているのは外国人。外国人についていくのが短期トレードの王道。外国人の売りで急落してきた日本株だが、足元、変化の予兆はある。
  • 個人投資家は、外国人と正反対の売買を行っている。外国人が買うと売り、売ると買う傾向が鮮明。
  • 企業年金・公的年金・日銀・金融法人・事業法人は、一定の決まりにしたがって、売り買いを行っている。

(1)日本株の動きを決めているのは外国人、外国人についていくのが短期トレードの王道

日経平均の動きを予想するとき、2つの要素を考慮する必要があります。①需給と、②ファンダメンタルズ(景気や企業業績)です。

短期的な動きに限ると、需給を読む方が圧倒的に重要です。需給はチャートや売買高に表れることが多いので、チャートをしっかり見ていることが大切です。景気や企業業績が向上する局面でも、需給が悪化(売りの勢いが増加)すれば株は下落します。逆に、景気や企業業績が悪化する局面でも、需給が改善(買いの勢いが増加)すれば株は上昇します。

そこで特に重要なのが、外国人投資家の売買動向を読むことです。なぜならば、日本株の上昇下落を決めているのは、外国人投資家だからです。外国人は、買う時は上値を追って買い、売る時は下値を叩いて売ってくる傾向があります。その結果、過去20年以上にわたり、外国人が売り越す月は日経平均が下がり、外国人が買い越す月は日経平均が上昇する傾向が鮮明です。

外国人が売りを強めるか買いを強めるか読むことが、日経平均先物の短期トレード(あるいは日経平均連動型ETFのトレード)で成功する鍵です。長期投資の成果は、ファンダメンタルズで決まりますが、短期投資はほとんど需給で決まります。

(2)外国人の買いで急騰し、外国人の売りで急落した「アベノミクス相場」

それでは、まずアベノミクスが始まった2013年からの実際の需給動向を振り返りましょう。

主体別売買動向(売買差額):2013年―2016年(10月7日まで)

  2013年 2014年 2015年 2016年
10月7日まで
外国人 15兆1196億円 8526億円 ▲2509億円 ▲5兆9064億円
個人 ▲8兆7508億円 ▲3兆6323億円 ▲4兆9995億円 532億円
信託銀行 ▲3兆9664億円 2兆7848億円 2兆75億円 3兆5815億円
金融(除く信託) ▲1兆8268億円 ▲6242億円 ▲6330億円 ▲4216億円
事業法人 6297億円 1兆1017億円 2兆9632億円 1兆8216億円
投資信託 4267億円 ▲2104億円 2429億円 3398億円
証券自己 ▲5857億円 2883億円 1兆5588億円 2484億円

(出所:東証データより楽天証券経済研究所が作成、2市場1・2部主体別売買差額)

アベノミクス相場で、日経平均は2013年から2015年7月まで上昇トレンドが続き、その後、急落しました。上の表には、年別の需給しか示していませんが、月別に見ると、外国人が買うと上がり、売ると下がる傾向が顕著でした。

個人投資家は、外国人投資家とほぼ正反対の売買を行っています。月別に見ると、外国人が買う時は売り、売る時は買っています。言い換えると、個人投資家は、日経平均が上がっている時は売り、下がっている時に買う傾向が鮮明です。個々の投資家には、さまざまな売買パターンがありますが、個人投資家を全体としてみると、はっきり逆張り投資家であることがわかります。

短期的な材料や相場の動きに反応しながら、もっとも、アクティブに動いているのが、外国人と個人投資家と言えます。それに対し、その他の投資主体は、一定の決まりに従って、売り買いをしている側面が強いと言えます。

(3)一定の決まりに従って動く「年金・日銀・金融法人・事業法人」

主体別売買動向の表で、次に出てくるのが、信託銀行です。信託勘定を通じて売買する年金や、日銀のETF買いが反映されています。売買主体として、市場への影響力は大きいですが、一定のルールにしたがって売り買いしていますので、そのルールを知っておくことが必要です。

信託銀行は、2013年に大幅に売り越していましたが、2014年以降は大幅な買い越し主体となっています。2013年は、主に企業年金の売りと考えられます。日本株が上昇するに従って、株での運用を縮小する方針であった企業年金からの売りが増えました。

公的年金は企業年金と逆の動きを始めました。2014年から、GPIF(日本最大の公的年金)が国内債券の組み入れを引き下げ、日本株や外貨建て資産の組み入れを大幅に引き上げる決定をしました。2014年の信託の買いは、主にGPIFの買いによると考えられます。2015―2016年の買いは、公的年金および日銀の買いと考えられます。2016年後半は、株式組み入れ比率の引き上げが終わった公的年金に変わり、日銀が買いの主体となってきています。

次に、金融法人(除く信託銀行)と、事業法人を見てください。金融法人は、売り越しが続いています。銀行・生損保とも、持ち合い解消売りを続け、長期的に株の保有を減らす方針です。

一方、事業法人は、毎年大幅な買い越しになっています。これは、主に自社株買いによるものです。年々、株主への利益配分の一環として、自社株買いを増やす企業が増えています。

(4)外国人投資家の売り圧力は細ってきている

日経平均のチャートを見ると、膠着感が強まっています。短期的には、上下とも大きくは動きにくい状況が続いています。相場を動かす外国人投資家が、日本株を大きく動かすような売買をしていないことによるものです。

外国人が売っても、日銀が買うことにより、株式市場は、下がりにくくなりました。9月は、外国人投資家が、株式現物を1兆1,050億円売っていますが、日銀が日本株ETFを8,303億円買っているため、日本株は大きくは下がりませんでした。

ここからさらに、大量の外国人売りが出ることは想定しにくいところです。詳しい説明は割愛しますが、裁定買い残高がリーマンショック後の頃の水準まで低下しており、外国人投資家による日本株の投機的な買いポジションはほとんど整理されたと考えられます。また、外国人機関投資家の日本株ポジションは、かなりアンダーウエイト(基準組み入れ比率よりも低い組み入れ)になっていると推定されます。日銀が日本株を買い続けることで、外国人の潜在的な売り玉をどんどん吸い取っていったと考えられます。

もう1つ、日本株に需給改善に寄与しているのが、原油価格の反発です。昨年、日本株の下値を叩いた産油国の売りも、原油価格が反発しているため、ここからは出にくいと考えられます。一部産油国では、新たに日本株への投資を積み増す動きが出ていと考えられます。今後の原油価格の騰落が、日本株への産油国の売り買いに反映されますので、注意してみている必要があります。

まとめると、よほど大きな悪材料が出ない限り、外国人の突発的な売りによって日経平均が急落するリスクは低下してきていると思います。

(5)外国人はいつ日本株の積極買いに転じるか

過去の経験則から考えると、米国が利上げを実施し為替が円安に転じる局面で、外国人投資家は、日本株のポジションを積極的に引き上げると考えられます。ただ、頭で考えていることは、そのまま実現しないこともあります。

予断を持たず、外国人の売買動向を見ていて、コバンザメのように外国人の売買についていくことが重要と思います。9月の終わりから、裁定買い残高が底打ちし、外国人投資家が、日本株を買い越しになっています。外国人が買い越しに転じる予兆とも取れますが、まだ、明確な判断はできません。

今後、本レポートで、外国人の売買動向について、継続的に報告していこうと思います。

(6)本レポートの注釈

やや専門的になるので、途中では説明しなかった2つの注釈をここに載せます。

個人投資家の売買差額を見る時、注意すべきこと

個人投資家は、新規公開株を引き受けて、市場で売却することが多いが、この場合、新規公開株の引き受けは買いに含まれず、市場での売却だけが、売りにカウントされる。そのため、個人投資家の売り越し額は、実態よりも大きく出ている。たとえば、2015年は、4兆9,995億円の売り越しとなっているが、この年は郵政3社の新規公開があり、個人投資家は公募株を取得しているので、実際の売り越し額は、ここまで大きくはなかった。

日銀のETF買いは主体別売買のどこに表れるか

日銀が信託銀行にETF買いを注文した後、どのように買いが執行(ETFを新規に組成)されるかは、開示されていない。ETF組成に必要な証券取引所での現物株の買いは、信託銀行の買いとして反映される場合が多いと考えられる。ただし、証券自己の買いとして表れることもあると考えられる。

関連レポート

2016年10月12日「日銀が買い支える日本株は売りか?