一方、既に保有している金融資産やこれから貯蓄として積み立てる資産についてプラスの実質運用利回り(インフレ率を差し引いた利回り)を仮定すると、計算上は必要貯蓄率の数字を引き下げることが可能です。

しかし、筆者は、高い運用利回りを見込んで貯蓄率を下げてお金の人生計画を立てることに賛成しません。

年金基金などは、予定する運用利回りを「予定利率」として掛け金(個人の場合、貯蓄に相当)と給付を決めていますが、彼らがそうできるのは、不足が生じた場合企業や国による補填や制度変更が可能だからです。個人の場合は、運用に失敗しても、自分の生活については、自分で辻褄を合わせる必要があります。

筆者のホンネとしては、貯蓄は実質金利ゼロの下で計算した貯蓄率をキープしながら、持っている金融資産で許容可能なリスクの下でリスクを取り、大きなリターンがあった場合は(損があった場合も)、公式の中にこれを織り込んで、必要貯蓄率を再計算するようなアプローチが健全だろうと思っています。

人生は一度しかなくやり直しが効きませんし、お金に関しては自分で自分の辻褄を合わせる必要があります。予定が狂っても対処できるような方法で計画を立てて実行すべきでしょう。

個人の「一般的」資産運用手順

近年の筆者の主な関心は、お金の運用だけでなく、お金の管理、さらには人生の選択に関して、「一般的な方法」をどのように体系化できるかにあります。

今回のETFカンファレンスでは、お金の運用手順に関して、図2のような方法を説明しました。

図2 個人の資産運用の一般的手順

この手順の中で特徴的なのは、資産配分の前に「運用の器を決定」があることです。これまで筆者が提示してきた一般的な手順では、資産配分が先にあって、その後にNISA(少額投資非課税制度)やDC(確定拠出年金)への運用資産の割り当てを決める形になっていました。

しかし、今回、「運用の器」であるDCとNISAの確保を強調するほうがいいという判断に至りました。

主な理由は、通常の家計にあって、DCの税制上のメリットが決定的に大きいことです。DCを最大限に利用することが得な家計が多いでしょうし、DC以外の運用にあってはNISAを使う方が通常の課税口座の運用よりも有利です。

たいていの家計では、先の人生設計の基本公式が要求する必要貯蓄額は制度的にDCを使える金額よりも大きく、且つ各種のお金の置き場所を比較するとDCが圧倒的に有利なので、必然的にDCは最大限に利用する方がいいという結論になります。

先ず、アセットのロケーション(置き場所)を決めて、次に自分の資産全体についてアセットのアロケーションを決めて、両者を合体して、どこで何を運用するのがいいかと考えると、適切な運用方針を決めることが出来ます。

その為の手段としては、縦軸にアセットのロケーション、横軸にアセットのアロケーションを設定した図3のような表を考えることが有効でしょう。

この例では、運用資産の合計額が2,000万円で、DCに200万円、NISAに120万円(初年)資産があって、リスク資産への投資としては内外の株式を半々に持ちながら800万円まで投資することが丁度良いと思っている人の資産運用を考えてみました。

図3 アセット・アロケーションとアセット・ロケーション

このケースでは、先ず最も流動性の乏しい(資産を売却すると節税枠が減少する)NISAで手数料が最も低くて、且つ常に持っていてもいい資産という意味で「TOPIX連動ETF」を選択するのがいいでしょう。先ず、ここが決まります。

次に、確定拠出年金では、先のNISAとのバランスの上で外国株式のインデックスファンドが最適な選択になる可能性が大きいでしょう。確定拠出年金で用意しているインデックスファンドでは、リテール向けに販売されている投資信託よりも運用管理手数料が安いものがしばしばある点も有力な考慮のポイントです。多くの場合、確定拠出年金では外国株式(先進国株式)のインデックスファンドを選ぶことが最適になりやすいことを申し添えておきます。

そして、NISAと確定拠出年金では足りないリスク資産への投資とバランスの調整を通常の課税口座で行うことが合理的です。

リスクを取りたくない資産に関しては、現在、個人向け国債の変動金利10年型の優位性が圧倒的です。信用リスク面で銀行よりも安全で、将来の金利上昇リスクに強く、加えて現在最低利回りの0.05%が10年国債や定期預金の利回りよりも相対的に有利な利回りになっています。併せて、余裕資金として普通預金を持っているといいでしょう。

個人のお金の運用は、面倒なことを考えずとも、シンプルに決めることができます。皆様には、「お金の問題に煩わされずに、大いに人生を楽しんで欲しい」ということが筆者の願いです。

当日は拙い話ぶりで恐縮でしたが、以上が、今回のETFカンファレンスで申し上げたかったことでした。